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42:[勇者]と[王様]



 〈視点/ISEKAI大樹店/観客たち〉



『本日も、のっけから絶好調ッ! 勇者と王様、そのコンビネーションッ!』


 実況妖精が曲芸飛行アクロバットを決めながら叫ぶと、観衆がその興奮に負けない歓声をあげた。

 会場には各陣営(パーティ)に寄る三つの小窓と、今最も熱い場面シーンを映す大窓があるが……その大窓に映し出されている熱狂の源こそが一ノ瀬、[勇者]の活躍に他ならない。

 

『幻想闘祭、大別四職の例外分類[王様]! それは他の職業のように、派生する分類を持ちません! 行うことは共通にして唯一……フィールド外からの支援! それが、此度も大活躍!』


 王は下々と同じ舞台に上がらず、戦闘の員数にも数えられない。

 対戦開始と同時に専用の空間[玉座]に送られ、一ゲームに一回ずつ使える四つの専用スキルで仲間をサポートする、極めて特殊な職業だ。


『オンリーワンの働きが可能ながら、フィールドに存在できないデメリットはリスク以上のリターンを見出せずに持て余され、一説には、【魔王】問題に対しろくに支援もせず過剰な役割と使命だけを課す統治者による問題行為(キングスハラスメント)の周知と改善を広く促す意図があってのネジ込みなどと言われていましたが……その歴史を、彼女が変えたッ!』


 黄金と魔の十秒を駆け抜けた一ノ瀬の活躍を支えたスキルは、以下の二つだ。


 ①[物品下賜]。任意で行える道具転送。

 ②[王命拝領]。ブロックへの効果設定。


 他二種も強力だが、人数の減少・回数の制限は、多人数戦で負うマイナスに見合わない。

 敬遠の風潮にあった王様はしかし、機転と才覚によって最強の土台に生まれ変わった。


『確認、合流、必要無し! 戦場に降り立つはパーティの中でたった独り、味方がいない孤立という大きなマイナスを、研ぎ澄ませて突き詰めたプレイスタイルが冴え渡る!』


 別々の地点からの開始、状況確認からの合流を定石とするがファンフェスパーティ戦。

 彼女はそのレールを、自らの王道にて上書きする。

[戦士/勇者]——それは本来、追い込まれるほど強くなり、逆転勝利を掴む戦法に特化した職業だ。


 メリットは孤軍奮闘に向くこと。

 弱点は、仲間が揃っている間に狙われれば、全力を発揮できないまま落とされること。

 そんな勇者の常識に、一ノ瀬は発想の逆転を持ち込んだ。 


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 一ノ瀬は構成した。

 フィールドに他の仲間がいない程、大きな強化を受けられるスキルを。


 一ノ瀬は考察した。

 基礎値が大幅に向上する代わり、自分が落ちれば敗北になるスキルを。


 つまり、要約するのなら。

 壱個とは、パーティ単位で組み上げられたシナジー・コンボである。


『それができたら最高だ、しかしそんなことはできるはずがない――理論上でのみ空想され、誰もがいつか置き去りにした御伽噺は、彼女らの手で実在を証明された! 私たちは今日も、幻想更新の現場に立ち会っている!』


 あのコンボこそは、望み、挑まれ、破れ、挫け、諦められた手法だった。

【三王一勇】はおよそ実戦に向かない愚策、浪漫と呼ぶのもおこがましい、袋小路の悪手の代名詞であった——一ノ瀬古都子が現れるまでは。


 観客が目撃したのは、たった一人で居並ぶ相手を切り伏せる雄姿。

 長く居座っていた絶望デッドエンドは、卓越したプレイングで覆された。行き止まりは拓かれて、誰も見たことのない未来へ突き進む、最先端の輝きとなった。


 一ノ瀬古都子は、ただ強いから人気なのではない。

 人々の期待を、夢を、可能性を背負うからこそ、【英雄】なのだ。


「さて。一方でなニッシュ、名勝負ってのは、好敵手あってこそだぜよ」


 スサノオ神の言う通り、会場にもそこをわかっている者が少なからずいる。

 黄金と魔の十秒で一ノ瀬に狙われながら生存したプレイヤーは、実に二十七戦振り。

 マッチングの時点で誰もが心構えをしていて、中には逆襲の準備万端な相手に当たったこともあった……そうした中で尚、一ノ瀬古都子は備えようと防げぬ災害として君臨してきた。


「“勇者があらわれた。勇者はこちらが身構える前に襲いかかってきた”に出くわすかどうかは賽の目次第。取られてもっとも損害の少ない味方か、敵パーティが貧乏くじを引くようにお祈りする……そんなのが、一ノ瀬戦で最初にやることだと相場が決まっていたやが、ぬはは」


 アリーシャ・レネレーゼは、自力で耐え抜いた。

 そこにあるのは、【一秒でも生き残る、自分が時間を稼いだ分だけ仲間が有利になる】という控えめなものでは、断じてない。


「跳ぶが信条、天使兎人。大人しく落とされるつもりなんて毛頭あらざる目の色ぞ」


 片足を斬られ、翼を貫かれ、退路さえ封じられ。

 それでも尚、狩られるだけの獲物はそこにいなかった。


 見よ、観衆。

 そこにいるのは、一匹の——勝利に飢えし、肉食の獣。



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