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VIII - 7度の終末 -  作者: 光川ミノル
終末前夜の余熱
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7色の果てに

 イナガキ・草輔が転入してきて、1週間が経ったある日のことであった。

 4限目の鐘が鳴る直前、魔法実技の先生がこう言った。


「冬休みで訛った皆さんの体を解すため、5日後に魔法実技テストを実施します」


 魔法実技テスト──名前からも分かる通り、それは学期の初めに行われる実技のテストで、魔法の強さ等が計られるテストの事である。

 そしてこのテストでは、A、B、C、D、Eの5段階に相対評価で現状のランクが決まる。

 勿論、俺はAに決まっているが。


 クラスの皆の反応を見れば、不安な顔や、愚痴などが飛び交っているため、そのテストが良くないことであることは一目瞭然であろう。

 だが、千遥がその日、注目しているのはテストへの不安などではなかった。

 ──イナガキ・草輔の魔法の適性。

 通常、アルケイン戦術学園に通う生徒たちは、魔法を扱うことができる。というのは当たり前だ。

 だが、それも先天的に扱うことができる代物……というわけでは無く、侵略者達が送る魔物の血を1週間飲み続けることで、魔法の属性が決まり、魔法を扱えるようになるのだ。

 確かに、1年の時に魔獣の血液を飲み続けた体験は、決して良くはない思い出だった。

 最初に魔獣の血液を飲もうと考えた人は、多分サイコパスか何かだろう。

 そんな話は置いておいて、転入生である草輔は血液を1週間飲み続けるという条件を満たしていない為、まだ魔法を扱うことができないのだ。

 千遥は、毎日草輔の後ろをつけ続け、魔法適性までの日数を数え始めた。

 別にこれは、魔法実技テストのランクが相対評価な事にも通ずる事であり、夢の第8討伐隊の隊長への道が途絶えてしまったら元も子もない。──という理由の正当な行動だ。


「別に、あいつの属性が気になるとかではねえけど……」


 そして、毎日つけ続けた千遥は、今日で草輔はその1週間の最終日であり、1日の昼休みに学園から支給されている魔獣の血液を飲んでいる事を知った。

 つまり、今日、この時間に草輔の属性が決まるのだ。

 その為、千遥は草輔と一緒に昼食を食べたいと思っているのだが……


「千遥ったら、イナガキくんの属性がそんなに知りたいの?」

「ヒッ」


 草輔が1人でご飯を食べている所の、後ろにある壁に身を潜めていた千遥に、美音が小声で声をかける。


「べべべべ別に、草輔?誰それ、知らねぇけど?」

「動揺して隠そうとしてるの丸見えすぎるでしょ」

「別に隠そうとなんてしてねぇよ!」

「えー?この1週間、ずーっとイナガキくんのことばっかり見てたってこと、私知ってるんだからね!」

「見てねえ!」

「そんなに知りたいなら声かければいいじゃない」

「おい!美音!」

「ほら、言わないと伝わらないでしょ?」


 美音はそう言うと、なりふり構わず草輔の方向へ歩いていった。

 そして__


「イナガキくん、ちょっといい?」

「君は……ササキさんか、僕にどうしたんだい?何か用かな?」


 草輔に直接話をつけに行ったのだ。


「あの、実はイナガキくんに頼みがあって……」

「なんだい?僕で良ければ、その頼み聞くよ」

「イナガキくんの魔法ぞ…」


 美音がそう言い出そうとした時、千遥は一目散に飛び出し、咄嗟に美音の口を塞ぎ、


「お前と……一緒にご飯が食べたい」


「……え?千遥くん?」


 草輔は驚き、千遥は今自分が咄嗟に言った言葉を理解できていなかった。


「あっ、いや、その……これは、そうだ!お前の魔法の強さが知りたいだけだ」


「別に、お前と一緒に昼食を食べて、これからも仲良くしたいとかでは決して無いからな!」


 千遥は勢い任せについ言ってしまったことを深く後悔しながら、先程の発言の弁解をする。

 そして草輔は、千遥が来る予想外の出来事に驚きながらも、答えてくれた。


「君からそう言ってくれて嬉しいよ、ここで3人で一緒に昼食を摂ろう」


 想像以上に嬉しかったのか、草輔は微笑みながらレジャーシートを引いた。

 ──その微笑みは、以前見た取り繕われた笑顔とはまた違う、素の微笑みだった。


「あの…千遥?その手もう離して欲しいんだけど……」

「ん?あ、」


 美音の顔を見ると、頬を赤く染め、耳までも赤くなっていた。

 美音は口元を押さえたまま俯いた。先程まで口を塞がれていた時の手の感触が、まだ頭から離れない。


「美音?」

「もう、千遥のバカ!」


「なんなんだ……?」


 そう怒ると、美音は顔を隠しながらそっぽを向いてしまった。

 誰も何も言わなかった。

 草輔は困ったように笑い、美音は顔を背けたままで。


「とりあえず、ご飯食べよう。ササキさんも、僕がいてすまないね」


 草輔が間に入るように美音のカバーをするが、美音の事情の原因は草輔では無かった。


「そういえば、千遥くんは僕の魔法の強さが知りたいんだっけ?」


「そうだ。次の魔法実技テストのことにも関わるからな!」


 千遥はやっと本題に入れたことに安堵し、小さく頷いた。

 そして、草輔は腰に付けているポーチから魔獣の血液を取り出した。

 その中は淀んだ紫色をしていて、明らかに不味そうである。


「それなら、ちょうど良かった。今日僕がこの魔獣の血を飲めば、魔法が扱えるようになるらしくてね」

「ああ、もうそれは知ってる」

「あ、あれ?」


 草輔は喜んで千遥に説明をしたが、生憎、千遥にはその説明は不要であった。


「千遥はずーっとイナガキくんのこと見てて、その事はもう把握済みってことだよ〜」


 と、復活したのか美音が千遥のこの1週間の事をバラシ始めた。


「デタラメを言うなよ。たまたま知ってるだけだ!たまたまな」

「タマタマ?」

「それは歴史に出てくる卵だ」

「そんなに僕のことを見てくれてたなんて、なんだか嬉しいな」


 美音の言葉を純粋に受け取る草輔に、いつもの調子が狂わされる。


「私も千遥に釣られて草輔くんの属性気になってきちゃった!」

「属性?」

「属性のこと、知らされてないのか?」

「これを毎日飲んだら魔法が使えることくらいしか……」


「属性っていうのは、7個に別れた魔法の種類のことだよ!全部の魔法は緋、月、焔、水、草、光、土に分類されるの。魔法が使えるようになった日から属性が決まるんだよ!」


 長々と、自信満々に美音が説明した。確かに美音は、元々魔法の鍛錬だけは欠かさずやっていたため、魔法には何かと詳しいのである。


「そうなんだ…」

「そういうことだから、早く飲め」

「急かさないであげてよ〜!」

「話の全容は分かった。僕も自分のその属性がなんなのか、知りたいからね」


 草輔がそう言い、瓶を開けると、千遥と美音は目を輝かせて草輔を見つめた。

「ゴクン」と草輔が飲み込むと、喉を血液が通り──大気がゆらぎ、草輔の体からみるみる光の粒子が溢れ出した。


「なっ……!?」


 千遥が思わず立ち上がる。

 普通なら属性が判明するだけだ。

 だが草輔の周囲では、7色の光が渦を巻いていた。

 緋。

 月。

 焔。

 水。

 草。

 光。

 土。

 7つの属性を示す色が順番に現れては消え、現れては消える。


「こんなの……見たことない」


 美音が呟いた。

 やがて光は1つの色へ収束していく。

 草輔自身も何が起きているのか分からないのか、目を丸くしていた。

 そして──

 周囲の空気が一瞬、止まった。

 次の瞬間、草輔の手のひらに淡い銀色の光が灯る。

 それはどの属性とも違う色だった。


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