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VIII - 7度の終末 -  作者: 光川ミノル
終末前夜の余熱
3/3

あの目

 

 草輔の手のひらに置かれたかと思われた銀色の光は、颯爽と草輔の胸の中へと沈んでいった。


「僕は一体何属性なんだい?!」


 2人が目を丸くし驚いた光に、期待に満ちた眼を草輔は向けたが、このような属性の決まり方は千遥の目から見ても、美音の目から見ても、初めてであっただろう。


「お前の属性は分からねえ…」


「そうなのか?」


 そう事実を述べると、期待を裏切られたかのように、草輔は悲しい表情をした。

 実際、千遥が1年の際に属性が決まった時、その光は赤色に輝いていて、他の生徒の光にも、銀色の光が発生すること、7つの光全てが発生する生徒なども見当たらなかった。


 そもそもの話、魔法が発現する際、緋属性は黄金の光を自身から放ち、月属性はラベンダー色の淡い輝きを纏う。

 焔属性は燃え盛る火の粉のような紅蓮の輝きを放ち、水属性は澄み渡る蒼色の光が波紋のように広がる。

 草属性は若葉を思わせる翠の光が芽吹くように溢れ、光属性は純白の輝きが周囲を優しく照らす。

 土属性は琥珀色の重厚な光が大地から湧き上がるように現れる。


 草輔の今起きた7つの光が1つに収縮し、銀色に輝いたことは、今までの記録や、辞典にも載っていない前例のないことであった。


「とりあえず、私先生呼んでくるね…」

「ああ、そうだな。頼む」

「頼まれた!」


 美音はそう言いながら親指を強く出してガッツポーズをし、軽い足取りで職員室がある塔へと向かって行った。

 しばらくすると、美音が連れてきた魔法実技の先生はその場の光景に驚愕した。そして、草輔の身体を入念に観察した後に、属性鑑定の魔法陣を展開した。


「……そんな馬鹿な」


 先生の顔から血の気が引いた。


「どうしたんですか?」

「この鑑定魔法は確かなはずで……」


 先生は震える声でこう告げた。



「イナガキ草輔。君は7つ全ての属性に適性を持っている」


「え!?7つの属性を扱える人なんて、伝説でも居ないよ!?」


「聞いたこともねえぞ…そんなの」


「7属性って、そんなに凄いことなのかい……?」


 この場にいる3人が驚愕し立ち尽くしている中、当の本人である草輔だけが、この異例の事例に驚いていなかった。


「……イナガキさん。試しに、焔属性の魔法を使ってみてください」


 先生は持っているもう一つの杖を草輔に持ち方を指示するよう持たせた。

 確かにこの場所はアルケイン戦術学園の校庭に面していて、魔法を使うにはもってこいの場所である。だが───


「いきなり使えるもんなのか……?」

 

 千遥が2年前、魔法を扱えるようになった時、そう簡単に扱えるわけではなかった。自分の属性が分かっても、コントロールの方法を学ばなければ、とても「扱える」とは言えない。


「わかった。やろう」


 草輔はそう言い、迷いなく、まるでずっと前から使い方を知っていたかのように、先生に教わった通りに杖を構えた。


 そして校舎を取り囲む壁へと、その切っ先を向ける。


「こう、かな?」

 慣れた手捌きで杖に自身の体内にある魔力を込め、魔法をイメージする。


 次の瞬間、杖の先端に生まれた炎は、千遥が今まで見たどの焔属性の魔法よりも巨大な火の玉であった。ざっと、この学園を取り囲む壁の半分くらいの大きさである。場所が校庭でなければ、きっと大事故に繋がっていたかもしれない。そして、その火の玉は膨れ上がり、空中で破裂した。


「初めてでこんなに!?スゴいよイナガキくん!」

「なんと、ここまでの魔法の才能を持っておられる生徒が誕生するとは……」



「………」


 草輔が焔属性の魔法を放った時、美音と先生が草輔を称賛し褒める中、千遥だけはその靄にしか気が回らなかった。

 そんな魔法を放つ草輔の顔が千遥は気になり、目を向けると、草輔は何も無かったかのような平然とした顔をしていて。

 千遥が2年もかけて努力し、身につけた焔属性の最高級の魔法、通称フレアバースト。初日で当然とその高等魔法を千遥の倍の大きさでやってのける草輔の後ろ姿を見つめ、千遥の心は複雑な感情で入り混じる。

───まるで、自分の努力が全て無駄だと突きつけられたかのように。

 そう心の中で感じてしまったのだ。


「どうでしたか?僕は上手くできたでしょうか?」

「とても上手く魔法を発動できているとも。初めてでこれなら、本当に上出来です」

「ほんとにめちゃくちゃすごかったよー!」


「ありがとうございます」


 そう単純に草輔を褒める2人に対してなのか、はたまた自分の属性で最上級の魔法をサラリとやってのける草輔に対してなのか、それは定かではなかったが、千遥はこの胸の奥でつっかえている苛立ちを隠すことができなかった。


「別に、大したこと無かったけど?」


 次の瞬間、千遥は、草輔を見限ったような、まるで突き放すような態度を取ってしまっていた。


「ちょっと!千遥!そうやって冷たい態度とらない!少しくらい、褒めてあげてよ」


「美音さんが正しいですよ。学年1位のフジサキさんも分かるでしょう、彼の魔法が伝説の始まりであることくらい」


 そう無条件に褒め続ける先生や美音に、心の底から怒りが込み上げてきた。


 「チッ……」そう舌打ちを鳴らし、千遥は右斜め前を向きながら解いた弁当を纏めて、自分の教室に戻って行こうとした。


「千遥くん!そんなに僕の出来が悪かったのか……?教えてくれ…」




「僕は………」


 草輔はそう言いながら千遥の元へ駆け寄り、"俺"の手を掴んできて。

 どうにか俺を説得しようと必死に言葉を探す草輔の目はどこか潤んでいるように見えた。


 けど、そんな態度は逆効果であった。


「千遥く……」


 瞬間、俺はその手を振りほどいて立ち去った。その1歩1歩は重く背中に俺にのしかかる。

 何故、咄嗟にあんなことを言ってしまったのか。何故、美音と先生は草輔を褒められる程度の魔法へのプライドしかないのか。何故、俺は草輔の魔法を見ただけでそんなことを────


 自問自答は止まらず、延々と俺の中で流れ続けていた。


 草輔のあの目が、頭から離れなくて。


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