二十二話 帰還
「そろそろだよ、イアン……」
リックは背負っているイアンの遺体に声を掛けた。あれから、休みをとりながら、本部に向かい続けていた。たった独りで。幸い、他の敵に出くわすことなく、順調に進んでいるが、時々孤独感が襲ってくる。その度にリックは声を掛けている。
それでも目が潤んでいる。身も心もぼろぼろになりながら、ただただ進んだ。
本部まで残り数キロの所まで来ていることは確かだった。リックは決して諦めなかった。
暫くすると、リックの視界に街の門番が見えた。先を急ぐと、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「リック! おーい、こっちだぞ!」
サンが大きな声で呼び掛けていた。よく見ると、ランスとジャックもいる。三人は街に帰ると、起こったことを報告したが、リックとイアンのことは報告しなかった。それでも二人のことが心配で、門番を申し出たのだ。
「兄さ、」
ランスはリックの背にいるイアンに声を掛けようとした。だが、何かがおかしいと思い、表情を歪ませた。その様子をサンは感じ取った。
「ごめんなさい。イアンを助けられなかった。いや、本当は……」
「大丈夫。兄さんはリックに悲しんでほしくないと思う。ほら、」
ランスはリックの様子を見て、直ぐに察した。イアンを降ろすように手を差し伸べた。リックは涙を拭うと、イアンを降ろし、大人から普段の少女の姿に戻った。
ランスは兄の遺体を背負う。それから、その場にいるサン、ジャック、リックとともに門をくぐった。
「リック、生きていたのか!」
「リックちゃん!」
街の皆がリックを見て驚いた。彼らには彼女はいなくなり、生きていないだろうと知らされていた。知っているのはランス、サン、ジャックの三人だけだ。
リックの姿を見ると、喜んだ。リックは苦笑いしながら手を振って応えた。リックたちはそのまま本部の招集場所へと足を運んだ。
本部に着くと、リックの帰還を知らされたのか、部隊が集まっていた。彼らは二人を見て、驚いた。
リックは長い道のりからの帰還で疲れていたため、代わりにランスが事情を話した。
司令官のゼウが目を丸くして驚いていた。
「予想していたが、まさか、イアンが半ヴァンパイアになっていたとはな」
「私が、イアンを……」
ゼウがリックの頭を優しく撫でる。部隊の一員であるが、まだ十代の少女に無理をさせてしまったとゼウは思った。
「辛かっただろ。イアンの葬儀が始まったら呼ぶから少し休んどけ。サン、リックを頼む」
「はい」
だが、リックは首を横に振ってその場から離れようとしない。一緒にいたいのが本音だった。
「ほら、休んどかないと、イアンが悲しむぞ。ランス、あとは宜しく頼む」
「は、はい」
ゼウはリックを軽々と担ぎ、ランスに言葉を残して出て行ってしまった。
「やだやだやだ!」
リックは駄々をこねるようにゼウの上で喚くが、ゼウは動じなかった。それもそのはず。まず体格差が大いにあった。リックの気持ちを知っている三人はどうすることも出来ず、連れていかれるリックを見送った。
辺りが静まると、ランスが辺りにいる部隊を見渡す。
「これからのことを話し合おう。まずは兄さんの葬儀の準備をしなくては」
ランスは真剣な表情で話を切り出した。
次話更新は11月22日(月)の予定です。
次話で完結です。宜しくお願いします。




