二十一話 独りで(二人で)
月が照らす夜にリックとイアンはいた。変貌していたイアンは元の姿に戻っているが、動けず仰向けになっていた。リックは涙を流し、イアンの様子を心配そうに見ている。
「リッ、ク。あり、が、とう。ゴホッ」
イアンはリックに優しく微笑んで御礼を口にするが、吐血してしまった。リックは何も答えず、ただ首を横に振る。
「イアン、ごめんなさい。でも……」
「分かっ、てる。無理を、させて、悪かっ、た」
リックが謝ると、イアンはなんとか手を伸ばし、リックを優しく撫でた。自我を失い、リックを傷付けてしまったことをずっと後悔していたイアン。彼女に無理をさせてしまったが、これで良かったと心の何処かで安心していた。
一方で、リックは不安だった。ずっとイアンを攻撃したくなかった。それでも、攻撃してしまったのは自分の身を守るためだった。悔しそうに唇を噛みしめた。
「ランス、たち、に、伝え、て、く、れ、な、ゴホッ」
イアンは再び吐血してしまう。彼は既に限界だった。それでも、伝えたいことは云っておきたかった。その方が意識を保っていられた。
「もう、何も喋らないで。私、イアンを連れて帰るから。だから、一緒にいる……」
リックもイアンが限界だと理解していた。理解していても、イアンを連れて帰ることは諦めていない。背負ってまで連れていこうと考えていた。
不意にリックはイアンの手を握った。イアンは弱々しく握り返した。それから、十分程して突然息を荒くしたかと思えば、勢いよく飛び起きた。
「イアン?」
突然の行動にリックは不思議に思った。あの時、確かに思いきり攻撃を与えた。その記憶は今もリックにはまだある。そう思った瞬間、イアンは倒れた。
「イアン!」
リックは呼び掛ける。イアンは動くこともなく、そのまま目を覚さなかった。
数時間後、夜が明け太陽がぎらぎらと照りつける。あれから、一夜明け、リックは動かなくなったイアンの側から離れなかった。一睡も出来ず、その場にずっと佇んでいた。
夜が明けてリックは動き出した。大人の姿のまま、動かなくなったイアンを背負って立ち上がった。辺りを見渡せば、自分が倒したヴァンパイアたちが倒れている。
そんな事もお構いなしにリックは瞬間移動のようにその場を去った。向かう場所は本部。イアンを連れて帰るという目的を果たすために。
リックは小さな小屋を見つけた。誰か居ないか確かめたが、誰も居ないことを知ると、小屋に入り、イアンを降ろした。リックは少し警戒しながら、小屋に篭って食べ物を流し込むように食べて休息を取り、体を休めた。
動かなくなったイアンを見ると、泣いてしまうと思ったリックは目につかない場所にイアンを移した。気が付けば、目を瞑っていた。
それから、何時間眠っただろうか。リックは目を覚ました。目を擦り、起き上がると、ふとイアンに目をやる。
「イアン、起きて。行く、よ……」
声を掛けるが、身動き一つしないイアンにある記憶が過った。豹変したイアンを殺めた記憶。
リックは声を上げて、啜り泣き始めた。彼女はまだ十代の少女。殺めた記憶は辛すぎた。だが、前に進まなきゃいけないとも思っていた。
泣き止むと、支度をし、イアンを背負う。そして、小屋を出て出発した。
帰りを待っている仲間の為に、本部を目指して。
次話更新は11月19日(金)の予定です。




