二十話 届かない願い
リックは涙を拭った。イアンが自我を失い、成れの果ての姿に、おまけに半ヴァンパイアを含む、数十体のヴァンパイアに囲まれた状況になってしまった。
覚悟を決めなければ、自分がやられてしまうかもしれないと思う他なかった。彼女は深い大きな息を吐くと、周りのヴァンパイアたちをきっと睨みつけた。
「まだ立ってられるとは、やはり御前、狩る者か?」
十分前程のイアンと全く違う姿、言葉がリックを嘲笑う。
「自分のこと覚えてないの? 私が小さい頃、世話してくれたんだよ」
「知らん」
リックの言葉を一言で済ますイアン。そして、再び襲い掛かった。リックはなんとか避け切ろうとするが、頬に切り傷が出来たのか出血した。
変わらない状況にリックは杖を取り出し、振るった。すると、箒が現れた。リックは直ぐに呪文のような言葉を発した。次の瞬間、徐々にリックの身体が大人のように大きく伸びた。
少女ではなく、立派な大人の姿になった。
「変わったところで力に差はない」
「それはやってみなきゃ分からないでしょ」
会話をした直後、二人は姿を消した。素早い動きで両者譲らない攻撃を繰り返す。だが、リックを攻撃するのはイアンだけではない。周りのヴァンパイアたちもリックを襲おうと攻撃を始めた。
リックは怯むことなく、瞬時に対応しヴァンパイアたちを次々と倒していく。あっという間に、敵はイアンただ一人だけになった。
「所詮こんなものだ。俺はこうはいかないぞ」
「私を甘く見ないでよ!」
二人が言葉を交わすと、同時に姿を消した。二人は瞬間移動のように動き回る。それほど二人の力が強い。一瞬でも気を抜くと攻撃に当たってしまうほど瞬発力。攻撃を止めることはない。
その中でリックは願っていた。イアンの自我が戻って、いつものイアンの姿になることを。本当は心の何処かで信じたかったのかもしれない。それもあってか、攻撃を何とか防いで時間稼ぎをしていた。
まだかまだかと待っていた時、イアンの力が増し始めた。それでも攻撃を食い止めた。
「イアン、お願い」
「何を願ってるか分からないが、これで終わりだ!」
イアンは更に力を込めた。すると、リックは押し出され、投げ飛ばされた。直ぐに立ち上がり、次の攻撃をかわした。
「かわすだけじゃ何も変わらないぞ」
「そんなの分かってる」
リックはやるしかないと思った。イアンを真っ直ぐ見つめ、目を瞑った。次の瞬間、リックは消えた。僅か数秒でイアンの前に現れ、強烈な攻撃をした。
「ごめん、イアン……」
直後、イアンは倒れた。月明かりに照らされながら、リックは涙を流した。
次話更新は11月15日(月)の予定です。




