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少女リックと月夜より現れし者  作者: はなさき
第三章 思いは心の中に
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最終話 最後の別れを告げて

 リックは眠っていた。長旅のような任務についていたせいで身体は疲れていた。リックの寝顔を見ていたゼウが微笑ましそうに眺めていた。

「ったく、誰に似たんだか。けど、彼奴が亡くなってから誰にも懐かなくなってたのにイアンに懐くとはな」

 ゼウは誰に云うわけでもなく、ぽつりと呟いて笑みを零した。ちょうどそこに扉を叩く音がした。ゼウが応える前にサンが入ってきた。

「司令官。イアンの葬儀があと数時間で始まります。準備が出来次第リックを連れて来てください」

 サンは言葉を伝えると、部屋を出ていこうとした。然し、ゼウに呼び止められた。振り向くと、リックの眠っている顔が視界に入った。

「リックは寝てしまいましたか。ひどく疲れ、」

「おい、敬うような言葉を使うな。疲れるだろ」

「ですが……」

 ゼウの言葉にサンは言葉を詰まらせた。ゼウには逆らえない、そんな気持ちがあった。


「かわいいだろ? リックの寝顔、あの頃と変わらないな」

 唐突にゼウが言葉を口にすると、サンは目を見開いた。ゼウがそんなことを口にするとは思っていなかったのだ。

「あの頃はイアンが居なくなって、俺が世話することに。泣き虫なのは変わってないな」

「だな」

 二人はリックの寝顔を見つめ、微笑んだ。不意にサンはあることを思い出した。

「笑ってる場合じゃない。リックも葬儀に参加させるとなると、起こさないと」

「おい、まだだろ。まだ時間はある。もう少し寝かせてやれ。長い間イアンを連れて帰ってきたんだろ。子どもに荷が重すぎる」

 急かせるサンにゼウは止めさせようとする。サンは何も言い返せなかった。黙ってしまったサンにゼウは溜め息を吐いた。ゼウにとってサンがなぜ急ぐのか全て見通していた。

「少しは落ち着け。お前も休んだほうがいいんじゃないか? 俺が代わってやるから、ここにいろ。リックを頼む」

 ゼウはサンの肩を軽く叩いて、その場を去っていた。サンはリックを見つめて立ち尽くした。


「おはよう。サン?」

 三十分後、リックは目を擦りながら目覚めた。側で横になっているサンを視界に入ると思わず声に出した。嫌な予感がしたリックは焦り始めた。

「サン! 大丈夫?」

「んー、リック? え? 俺、寝てた? イアンの葬儀に、」

 リックの呼び掛けにサンは起き上がった。どうやら、サンも眠っていたようだ。サンは慌てるが、リックに裾を掴まれ我に返った。

「サン、落ち着いて。葬儀が始まるなら誰か呼びに来るでしょ。誰も来てないってことはまだ時間あるよ」

 さっきまでの焦りとは違い、随分と落ち着いていた。リックの表情を見て安心したサンは苦々しく笑った。


「あの人は?」

 唐突にリックは問い掛ける。

「ああ、ランスたちと葬儀の準備に、っておい!」

 サンが説明している間にリックは部屋を飛び出した。サンは呼び止めるもリックには届かない。直ぐに後を追いかけた。

 その後、サンはゼウにこぴっどく叱られた。


 リックは叫ぶように泣いている。これで何回目かは分からないが、これがイアンとの本当の別れだと思うと声に出さずにはいられなかった。気付けば、イアンと親しかった者はリックにつられて涙を流していた。

「イアン、さようなら」

 リックは棺に眠るイアンに最後の別れを告げた。イアンは優しく笑っているようだった。


   *


 それから、一年後。リックはある人と墓所に来ていた。目の前の墓石を見て彼女は思った。

「あれから一年だね」

「そうだな。イアンが亡くなって、お前が泣いているのがつい最近に感じる。泣くお前がイアンのように強くなるとは思わなかった」

「なにそれ。私を甘く見てるの? ゼウ酷い」

「ははは」

 ゼウは乾いた声で笑った。リックは頬を膨らませ、ゼウを睨んだ。そんな日常がいつものように訪れた。

 太陽が照らす空の下で。

これにてこの話は一旦完結です。

読んでくださった方、ありがとうございました。



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