十五話 負けられない戦い
リックとイアンが出発して数時間後。二人の前にある男が現れた。イアンはその男と話していた。
「何故、此処が?」
「それは少女が知っている」
男は問い掛けに答えると、リックに目を向けた。リックは男をじっと見た。リックと男は一度会っていた。ランス達がアレクと戦っていた時、最後に現れた男だった。アレクをたった一撃で倒したことを思い出したリックは戦慄した。
「リックが? 会ったことはないはずだ」
「いや、俺がアレクを殺した時にいた。他に男が二人いた」
男の言葉にイアンは眉間に皺を寄せた。咄嗟にリックを護るように前面に立った。男は溜め息を吐いた。
「何もしない。ただ御前に頼みに来た」
それでも、イアンは警戒をした。何故なら、この男なら攻撃を仕掛けてくると思ったからだ。
「俺に頼みとは?」
「戻ってくる気はないか? いや、戻ってこい。御前は強い。半ヴァンパイアになっても力は衰えていない」
男の言葉にイアンは表情を変えた。イアンの答えは最初から決まっていた。
「俺は戻らないと決めた。悪いが、期待に応えられない」
次の瞬間、男はイアンに襲い掛かった。イアンはリックを守るように体を張った。攻撃を食い止める。男は体勢を立て直すために、一旦距離を取った。
「何故だ。そうまでして、後悔してるのか。人間を助けられなかった事を。御前はもう人間じゃない」
「……そうだ」
男の言葉にイアンはたった一言発した。リックはただ様子を見ることしかできなかった。
「ならば、仕方ないな」
男は言葉を口にすると、姿を消した。二人は周囲に警戒した。直後、リックの後ろで男が姿を現した。男はリックに降り掛かった。瞬間、リックは気配を感じ、振り返った。
我に返った時には遅かった。瞬時に反応したイアンが血を流していた。
「イアン!」
リックは叫んだ。だが、イアンは笑っていた。
「俺は大丈夫。痛くない」
イアンの眼は充血したように紅く、開いている口から鋭い牙が見えた。イアンは男に向き直り、威嚇するように睨みつけた。
「お出ましか。まさか、人間を庇うとはな」
男は驚いていた。それもそうだ。ヴァンパイア化すれば、自我が保てなくなると云われているはずなのだが、イアンは自我を保ってヴァンパイア化している。
男はイアンに襲い掛かる。イアンもそれに対抗し、襲い掛かった。両者譲らない戦いが続いた。
リックは悲しい顔をしている。リックにとってはイアンが無理をしているような気がした。
「どうした? 息が上がってるようだが。やはり、自我を保つには限界があるようだ」
リックの目は間違っていなかった。イアンは何かに耐えるように苦しみながら戦っていた。それでも、イアンは戦いをやめなかった。
「イアン! もう、やめて!」
戦いに加勢出来ないリックは声を上げた。イアンはリックの方を振り向くも手を止めない。寧ろ、尚更無理をするように力を込めた。すると、男に傷が付いた。一瞬の出来事だった。
「まさか、力が上がるとは。イアン、御前はこちらの仲間になるべきだ」
「何度も云う。俺は、戻らない。たとえ、自我がなくなっても」
二人は戦い続ける。鋭い爪、拳、蹴りが繰り返される。終わりの見えない戦いがリックの視界を映す。そんな時だった。イアンが大きく唸り声を上げた。
次の瞬間、イアンが大きく鋭い爪を振りかざすと、男が地面に倒れた。一瞬の出来事だった。地面には大量の血が広がった。イアンは自我を失い、暴走していた。
次話更新は10月29日の予定です。




