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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第29話 猫は炬燵で

 年が明けて、寒さがますます身に沁みるようになってきた。

 善次郎と活は、相変わらずの毎日を送っている。

 ダイエットフードも効果はなく、活の体重は減ってはいない。

 しかし、増えてもいないので、抑止効果を見込んで、止めずにそのまま与えている。

 年末に、善次郎の勤務態度が真面目で評価が上がったため、若干なりとも給料が上がった。

 多少のボーナスも出たので、一人用の炬燵を買った。

 寒さのせいか、太っていても、最近活はちょくちょく部屋の中を走り回る。

 だから、ストーブは石油であれ、電気であれ危ないと思った。

 それに炬燵だと、活が喜ぶだろうと思ったのだ。

 童謡にもあるように、猫は寒さに弱いものと、善次郎は思い込んでいた。

 炬燵があれば一日中潜り込んでいるだろうと思ったので買ったのだが、以外にも活は、あまり炬燵の中に入ることはなかった。

 それどころか、寒いので窓を閉め切っていると、外を見せろとうるさく鳴く。

 仕方なく開けてやると、窓枠に飛び乗り、外を見る。

 寒風になぶられても平気なようで、降りようともしない。

 そういえば、活と初めて出会った時のことを、善次郎は思い出した。

 季節は春だったが、冬のように冷たい風が吹いていた。

 その風に負けじと、活は四肢を踏ん張り立っていたのだ。

 活が特別なのか、それとも、猫は寒さなんかに弱くないのか、いずれにせよ、善次郎の思惑は。見事にはずれた。

 眠る時も、気が向いた時には入りもするが、もっぱら定位置となっている、善次郎の顔の横である。

 活が喜ぶだろうと思っていた善次郎は、拍子抜けした。

 この頃では、もっぱら善次郎が活用している。

 なにせ、活が外を眺めている間は寒いのだ。

 エアコンもストーブもない部屋では、身が凍ってしまう。

 平気で寒風に身を晒して外を眺める活を、善次郎は小さな炬燵に無理に身体を押し込め、首から上だけを出して、恨めしそうに見つめている。

 正月も終わりに近づいた頃、初雪が降った。

 最初に白いものがチラついてきた時には、びっくりして飛び降りた活も、暫く眺めているうちに慣れてきたのか、再び窓枠に飛び乗り、物珍しそうな顔で、じっと眺めていた。

 やがて善次郎を振り返り、嬉しそうな声でニャアと鳴いた。

 猫でも、雪を喜ぶのか。善次郎には驚きだった。

 この分では、積もりでもすれば、喜んで庭を駆け回りかねない。

 もっとも、庭と呼べるほどのものはないが。

 活は、飽きずに雪を眺めている。そうこうしているうちに、部屋の中にも降り込んできた。

 活の身にも雪が降りかかり、慌てて窓枠から飛び降りる。

 桟にも、うっすらと積もりだした。

 活は、俄然興味を駆り立てられたようで、自分の体に降りかかるのもものともせず、再び窓枠に飛び乗った。

 雪で脚を滑らせ、一瞬バランスを崩したが、さすがは猫である。器用に身体をくねらせ、体制を持ち直した。

 桟に積もった雪を、前脚で恐る恐る触ってみる。

 冷たさで脚を引っ込めたものの、また性懲りもなく触る。

 活の脚の下にも雪があるのに、それは冷たくないのだろうか。

 善次郎には、活の行動が理解できなかった。

 そんな善次郎の思いをよそに、活は、幾度か触れては引っ込めるという行為を繰り返したあと、今度は舐め始めた。

「お前は、犬か」

 炬燵の中で寒さに身を縮めながら、善次郎は心の内で突っ込んだ。

 ちらほらと落ちてくるうちはよかったが、そのうち大振りになってきた。

 風向きも変わり、部屋の中へ、かなりの雪が降り込んでくる。

 炬燵から出たくはなかったが、窓を閉めねば部屋が濡れてしまう。

 仕方なく炬燵から這い出し、窓を閉めようとした。

 窓に手をかけたとき、活が怒ったように鳴いて、善次郎の手を軽く引っ掻いた。

 閉めるなと言っているのだ。

 無理に活を抱え下し、善次郎は窓を閉めた。

 その瞬間、善次郎の足に激痛が走った。活の牙が食い込んだのだ。

 痛さのあまり、思わず悲鳴を上げた。

「お前なあ、野良だったら喜んでおれないんだぞ」

 活を見下しきつい口調で言ったが、猫の耳に念仏である。

 活は、怒った眼で善次郎を見返している。

 暫く睨み合っていた。

 根負けしたのは善次郎だ。

 深いため息をついて、仕方なく今閉めた窓を、もう一度開けた。

 幸い雪は、小降りになっていた。

 これならば、部屋に降り込んでくることはない。

「よし、ご苦労」とでもいうように、満足気な声で活が鳴いて、また窓枠に飛び乗った。

 善次郎は、再び炬燵に潜り込んだ。

 まるきり、逆の構図だ。

 さきほど噛まれた足が疼いてはいるものの、炬燵から出て治療する気にもなれず、嬉しそうに雪と戯れる活を、善次郎は炬燵に入ったまま、ただ呆れたように眺めていた。


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