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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
30/71

第30話 季節は巡る

 月日が経つのは、早いものだ。

 活を拾ってから、もう三年が過ぎた。

 あれから、善次郎の生活は一変した。

 活と出会った時は、失意のどん底だった。

 それが、活と生活を共にし出してから、善次郎の人生に張りが生まれた。

 性格も変わってきたようだ。

 以前の彼は、会社を興すだけあって、独立心が強く、仕事に邁進するタイプだった。

 そのため、家庭を省みることもしなかったし、趣味もなければ、仕事以外の事にはてんで興味がなかった。

 子供の頃は情緒豊かで、なんにでも興味が沸いていたのに。

 いつから、そうなっていったのだろう。

 家が貧しかったせいか、はたまた負けず嫌いの性格がそうさせたのか、いつの頃からか、善次郎は一旗揚げて裕福な暮らしを夢見るようになった。

 会社を経営して束の間、そんな時期もあったが、その頃でも、善次郎の心が満たされることはなかった。

 常に、なにかに追われるように、気持に余裕がなかった。

 しかし、今は違う。

 活が、子供時代の善次郎を取り戻してくれた。

 素直で、屈託のなかった時代に戻してくれた。

 社長だった頃は、家族を養うという意識は希薄だった。ただ、一緒に住んでいるだけに過ぎなかった。

 今は違う。

 活を養うために働いているという意識が強い。

 あの頃、そういった意識で仕事をしていれば、離婚なんてされなかったのに。

 もしかしたら、会社も潰さずに済んだかもしれない。

 今更そんなことを思ったとて、不毛なのはわかっている。

 しかし、時々ふとそんなことが頭をよぎることがある。

 そんな時は、妻はもう再婚しただろうか、幸せに暮らしているだろうか、子供は元気で育っているだろうかというようなことが、頭に浮かんでくる。

 そんな思いを抱いた後は、一緒に暮らしている時は気にもしなかったくせに、自分はなんて勝手な人間だろうと、必ず、良心の呵責に苛まれた。

 だが、そんな気持ちになるのも、活のお蔭だ。

 活が、自分に人間らしい気持ちを取り戻せてくれたのだと思っている。

 別れた妻子のことを考えると、切なくなるのもそのせいだろう。

 それは、善次郎が一生背負っていかねばならないものだ。

 そうはいっても、今の善次郎は幸せだ。

 相変わらず、活には下僕のように扱われているが、それでも心が満たされていた。

 活と出会わなければ、自分はどうなっていただろう。

 そんなことも、時々考える。

 刑務所の中か、もしかしたら、もうこの世にはいなかったかもしれない。

 そう思うとぞっとする。

 活と出会ったお蔭で、幸せな人生を送れるようになった。

 人生とはわからないものだ。

「一寸先は闇」という諺があるが、「一寸先は光」だってあり得るではないか。

 今の善次郎が、まさにそれだった。

 会社の倒産、離婚、活との出会い、今の幸せな生活。

 闇と光を味わった善次郎にとって、人生の不思議な巡り合わせを感じずにはおれなかった。

 すべては、活と出会ったからだ。

 もう、活のいない生活なんて考えられない。

 今、善次郎は、警備の仕事を辞めて、食品関係の営業職に就いていた。

 生活が不規則なのと、いくら頑張っても貰う給料は高が知れていたからだ。

 今の給料は、警備員時代の時給とは違い、大半が歩合である。

 成績が上がらなければ警備員時代よりも低くなるが、成績さえ良ければ、結構稼げる仕事だ。

 善次郎には、ある目標があった。

 もう一度事業を始めることと、今より広い家に引っ越すことである。

 そのためには、資金とノウハウが必要だ。

 熟考した末、一年前に転職した。

 慣れない仕事だったが、一生懸命頑張って徐々に成績を上げていった。

 今では、警備員時代の倍は稼いでいる。

 残業はするが、飲みに行くことは滅多にしない。

 会社の人たちとは、必要最低限の付き合いに抑えている。

 外で飲むより、活を相手にしているほうが数倍楽しいからだ。

 それに、長時間活を放ったらかしておきたくはない。

 活は、我儘なくせに寂しがり屋なのだ。

 猫って、大抵そんなものだろう。

 その活も、随分大人になった。

 以前のように、部屋中を駆け回ったりしなくなった。

 肥満だからではなく、落ち着いたのだ。

 身体のほうは、心配していたほど太ってはいない。

 今ではダイエットフードも与えていないが、それなりの体型を維持している。

 腕の勲章も、滅多に刻まれることがなくなった。

 たまに風呂に入れる時に、爪を立てられることがある程度だ。

 猫も、歳を重ねれば大人になってゆく。

 人と同じだ。

 でも、人間みたいに捻くれることもなければ、変に飾ったりもしない。

 ただ落ち着いたというだけで、歳を重ねても活は活だった。

 もう一つ変わったことがある。

 夜、ゆっくりと眠れるようになったことだ。

 活も、善次郎と共に寝、善次郎と共に起きる。

 ともすれば、善次郎より早く寝、善次郎が起きても寝ている時もある。

 猫は、人間と比べて、歳をとるスピードが早い。

 後一、二年もすれば、善次郎の歳に追いつく。

「長生きするんだぞ」

 今夜も善次郎は、やんちゃな頃の活を懐かしく思い、一抹の寂しさを覚えながら、寝ている活の頭を撫でている。


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