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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第28話 小さな体、大きな力

 季節も冬に移り、いつのまにか、事件も、犯人が捕まらないまま、うやむやになってしまった。

 今では、菊池さんも諦めたみたいで、もう巡回するのを止めていた。

 善次郎と活は、相変わらずの毎日を送っていた。

 変わったことといえば、あのとき助け舟を出してくれた、おっちゃんと親しくなったくらいだ。

 おっちゃんの名前は、木島さんといった。

 あれ以来、たまに善次郎の部屋に、酒を持ってきて呑むようになった。

 どうやら、活がお目当てのようだ。

 不思議なことに、木島さんだと、活は逃げずに、すり寄っていく。

 猫には、見た目の怖さなんて、関係ないのだろう。

 善次郎の思った通り、やはり木島さんは、その筋の人だった。

 しかし、今は足を洗っているという。

 そのきっかけになったのが、野良猫を拾ったことらしい。

 木島さんの両親は、木島さんが小学校に入る前に離婚した。

 原因は、父親の暴力だ。

 木島さんのお母さんは、夫から受けた暴力で、幾度も血を吐き、三回は骨折したとのことだった。

 木島さんは、お母さんが引き取った。

 そんな父親に、大事な子供を託してはいられないと思ったのだろう。

 しかし、夫から受けた暴力の後遺症をひきずりながら、女でひとつで子供を育てていくには限界があった。

 お母さんは、離婚してから三年後に身体を壊し、他界してしまった。

 お母さんのご両親は、すでに二人ともこの世の人ではなかったため、木島さんは、母方の親戚筋に一旦預けられた。

 その親戚筋が、木島さんの父親を探し出して、木島さんを押し付けた。

 押し付けたというのは、父親は、頑として木島さんを引き取らないと拒んだため、法的手段に訴えると脅して、無理に引き取らせたのだ。

 どうやら、親戚筋も、木島さんを引き取るのが嫌だったみたいだ。

 実の父親に引き取られはしたものの、木島さんは不幸だった。

 父親は、事あるごとに、木島さんに暴力を振るった。

 近所の人が見かねて、警察に通報したこともしばしばあった。

 最後に、警察沙汰になったとき、木島さんは、足の骨を折られていた。

 父親はその場で逮捕され、木島さんは施設に預けられた。

 幼い頃にそんな体験をして、朗らかな子供でいられる人間は少ない。

 木島さんも例外ではなかった。

 誰とも交わろうとはせず、暗い子供だったということだ。

 施設の子。そう言って、学校では苛められた。

 木島さんは、ますます内にこもって、陰気になってゆく。

 そうすると、もっと苛められるようになる。

 悪循環の繰り返しだった。

 中学生になった頃から、木島さんの体格がよくなっていった。

 それにつれ、性格も変わってきた。

 それまでは、いくら苛められても、なにもやり返すことが出来なかったが、この頃から、苛めには暴力で返すようになった。

 中学三年のとき、自分を苛めた三人を、半殺しの目に遭わせた。

 それで、少年院送りになった。

 後は、お定まりのコースである。

 転落の人生を辿っていった。

 二十歳になる頃には、いっぱしのヤクザが出来上がっていた。

 人生に、なんの希望も抱いていなかった木島さんには、怖いものなど、なにもなかった。

 どんな無茶なことでも、平気でやった。

 それがため、仲間内でも一目置かれ、瞬く間に出世していった。

 刑務所にも、何度もお勤めしている。

 その木島さんが、ある日、一匹の子猫を拾った。

 不思議なことに、善次郎が活を拾った状況と酷似していた。

 善次郎と同じく、それまで、猫なんかにまったく興味のなかった木島さんだったが、なぜかその時は、見捨てておけなかったそうだ。

 その猫は、風三郎と名付けられた。

 大した理由はなく、なんとなく思いついたのだという。

 風三郎と一緒に暮らしていくうちに、なぜか木島さんは、ヤクザの生活が馬鹿らしくなってきたと言った。

 理由はわからないが、多分、風三郎の無邪気な姿を見ているうちに、そうなったのだろうと、木島さんは笑った。

 そんな折、組への義理から、木島さんが障害事件を起こし、刑務所へ入ることになった。

 風三郎は、木島さんの愛人へ預けた。

 が、十年の刑務所暮らしは、風三郎には長過ぎた。

 刑期を終えて、木島さんが出所してきたとき、風三郎は、もうこの世にはいなかった。

 木島さんが収監されたとき、風三郎は五歳になっていた。

 寿命だったのだ。

 風三郎は、ずっと木島さんの帰りを待っていたみたいで、夜になると、寂しく鳴いていたという。

 死ぬまでずっと。

 それがきっかけで、木島さんはヤクザから、きっぱりと足を洗った。

 自分がヤクザでなかったら、風三郎を寂しい目に遭わすことはなかったし、死に水もとってやれた。

 木島さんは、今でも、風三郎の面倒を見てやれなかったことと、風三郎の死を看取ってやれなかったことを悔やんでいる。

 善次郎が、もう猫を飼わないのかと尋ねたところ、自分にはその資格がないと答え、木島さんは寂しそうに笑った。

 しかし、風三郎が自分を許してくれたとき、また、自分に猫を飼う資格ができる。

 そのときは、きっとまた、風三郎のように、向こうから拾ってくれと寄ってくるに違いない。

 そのときに備え、自分は猫を飼う資格のある人間になれるよう頑張っているのだと、木島さんは言った。

「活を、大事にしてやれよ」

 それが、木島さんの口癖だ。

 一度、道を踏み外してしまったら、元に戻るのは容易ではない。

 それを、たった一匹の猫が変えてしまった。

 小さな猫でも、人を変える力を持っている。

 自分そうだ。活によって変わった。

 人にもよるのだろうが、猫の力って凄いと、善次郎は思わずにはおれない。

 木島さんに代わって、風三郎の分まで、活を大事にしよう。

 木島さんの話を思い出す度に、善次郎は思う。



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