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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
27/71

第27話 価値観

 善次郎は、こそこそと囁き合うようにして去ってゆく主婦の後姿を、暫く見つめていた。

 それから、おっちゃんの部屋のドアを見つめる。

 いかにも上品そうに見える主婦たちが酷いことを言い、ヤクザのようなおっちゃんが、動物に対して、優しさを持っている。

 人間なんて、わからないものだ。

 つくづくと思った。

 善次郎の考えは、おっちゃんと一緒だ。

 しかし、あの二人が言ったことも、あながち否定できない。

 要は、価値観の相違である。

 おっちゃんも善次郎も猫が好き。あの二人は嫌い。

 それだけの話なのだ。

 それだけで、大きく考えが変わってくる。

 人それぞれ、価値観が違う。

 当たり前のようだが、大事なことだ。

 価値観の違いにより、仲たがいもすれば争いも起きる。

 価値観が一緒だと、急速に仲良くなったりもする。

 猫ひとつとっても、こうなのだ。

 世の中から、争いがなくならないわけだ。

 そんな、哲学的なことを考えた。

 ともあれ善次郎は、価値観がどれだけ大事なものかということを、身を持って思い知らされた。

 しかし、それを差し引いたとしても、なにか善次郎には、割り切れないものがあった。

 ただ、価値観の違いだけで片づけてしまっていいものか?

 なにかが引っかかる。

 なんだろう?

  腕を組んで考える。

「そんな人間のエゴが、多くの野良猫を生み出してるんだ」

 おっちゃんの言った言葉が思い出された。

 善次郎は気付いた。

 そうだ、エゴだ。エゴまる出しだったんだ。

 あの二人は、人間の持っているエゴをまる出しにしていた。

 エゴと欲は違う。

 動物は生きるために欲を出すが、人間は、エゴから欲が生まれる。

 人より優位に立ちたい、人より裕福な暮らしがしたい、人より目立ちたい。

 これらは欲ではなく、エゴである。そのために、欲が生じるのだ。

 事実、あの二人は、人間と猫を一緒にしないでと言った。

 汚らわしいとも。

 完全にエゴではないか。

 それに、驕りも入っている。

 自然を破壊し、動物を物のように扱い平然としている。万物の霊長などと言って自惚れているくせに、万物にとって害になっているだけで、何一つ有益なことはしていない。

 自分たちが快適な暮らしをするためだけに、自然を破壊し、動物を絶滅させているではないか。

 そうやって、人間以外の生は軽んじているくせに、人間の命だけに重みを持たせている。

 多分、大半の人々の本音は、自分と、自分の大切な人の命以外はどうなっても構わないといったところだろう。

 その証拠に、あの二人も、自分や自分たちの子供だけしか心配していなかったではないか。

 このような人たちが、不幸な動物を次々に生み出していっているのだ。

 子供や自分の身を心配するのはわかるが、人を殺すような奴は、野良猫がいようがいまいが関係ないはずだ。

 たまたま、最初に野良猫を実験台にするだけで、野良猫を殺していくうちに、人を殺したくなるなんてのはありえない。

 そう思った。

 それを、さも猫好きの人間が悪いかのように、責任を転嫁していた。

 菊池さんのことをまっとうではないと言い切っていたが、子供の命も、飼っている猫の命も同じだ。

 この気持ちは、猫嫌いの人には一生理解できまい。

 猫嫌いでなくても、猫や犬をただのペットと思って、平気で捨てるような人たちにもだ。

 自分の考えが過激になってきていることに、善次郎は驚いた。

 少し前の自分だったら、多分、あの主婦たちと大差なかったはずだ。

 活と暮らすだけで、こうも変わるものなのか?

 もしかしたら、自分の考えがおかしくなってきているのか?

 自分は、世間と隔絶し過ぎているのかもしれない。

 善次郎の心を、一抹の不安が捉えた。

「人間が、そんなに偉いのか」

 口に出して呟いた。

 出てくる答えは、やはり、偉くない、だ。

 今の善次郎には、人間が偉いとは、どうしても思えなかった。

 それどころか、一番愚かな生き物だとさえ思い始めている。

 そんな思いに、後ろめたい気持ちもある。

 自分だって人間だからだ。

 これまで、そんなことなど考えたこともなかった善次郎にとっては、難しい問題だ。

 まあ、いいか。狂信的にさえならなければ、それでいいじゃないか。

 そう割り切ることにした。

 ああいう考えの人たちもいるということだけは忘れないでおこう。

 今度の事件は、善次郎に様々な教訓を与えた。

 猫の嫌いな人もいる。大勢の人がいる町に住んでいる以上、それらの人たちともうまく共存してゆかねばならない。

 もやもやした気持ちを抱えて、善次郎は部屋へと入った。

 部屋へ入るなり、活が飛びついて迎えてくれた。

 善次郎のもやもやが、一気に晴れた。


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