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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
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第25話 災難

 最後に猫が殺されてから、一ヶ月が過ぎた。

 犯人は捕まらないままだ。

 菊池さんは、相変わらず巡回を続けている。

 執念の鬼と化しているようだ。

 菊池さんには申し訳ないが、善次郎は、活が気の弱い猫でよかったと思っている。

 もし活が、菊池さんの猫のように、自由に外を出歩いていたら、今頃こうして一緒に暮せていないかもしれない。

 ある日、善次郎が帰宅したとき、アパートの前で、二人連れの主婦に声をかけられた。

 二人は、善次郎のアパートの近所に住んでいる。

 二人とも中流家庭の奥様といった感じで、まだ若い。三十路を少し超えたところだろうか。

 たまに善次郎も見かけたことはあるが、話をしたことはない。

 善次郎が、なにか用事でもと尋ねると、二人から口々に、菊池さんの巡回を止めさせてくれと頼まれた。

 お願いという言葉を使ってはいたが、その口調と態度は、とてもお願いとはほど遠く、まるで、子供に命令するように高圧的だった。

 どうして自分にと尋ねると、あなたが菊池さんの友達だからだと言われた。

「僕は、菊池さんとは、それほど親しい間柄ではありませんよ。それに、僕は菊池さんの気持ちがわかるので、止めることはできません。あなた達が、自分で言ったらどうですか」

 善次郎は、二人の態度に気を悪くしながらも、努めて冷静に答えた。

 すると、一人から、驚くべき言葉が返ってきた。

「あんな、頭のおかしい人に、怖くて言えるわけないでしょ」

 もう一人も、同調するように言う。

「そうよ、なにされるかわからないじゃない」

「菊池さんは、まともな人です。ただ、可愛がっていた猫を殺されて、犯人を見つけようとしているだけです」

 善次郎の反論も、二人には響かなかった。

「そこが、普通じゃない。いくら可愛がっていたからといって、たかが猫が殺されたくらいで、一ヶ月経っても巡回を止めないなんて、とてもまっとうな人とは思えない」

 薄気味悪そうに言われた。

 善次郎は絶句した。

 なにか言おうとしたが、言葉が出てこない。黙って、二人の顔を見つめる。

 善次郎がなにも言わないのは、自分たちの言うことが理解できたからだと思ったのか、ここぞとばかりに、二人が口々にまくしたてた。

「あなたはまともそうだから言うけど、猫好きの人って、変な人が多い」

「野良猫に餌をやるなんて、こっちは迷惑していた。そんなことをするくらいなら、家に持って帰って飼えばいい」

「家で飼っている猫を外に出すなんてことはしてはいけない」

「みんなが動物好きな人ばかりじゃないんだから、ペットを飼うのなら、そのくらいの責任感と自覚を持ってほしい」

「そんな人たちがいるから、今回のような事件が起きた」

「野良猫が殺されるだけならいいけど、エスカレートして、子供や自分たちの身に、被害が及ぶのが恐ろしい」

 善次郎が黙っていると、二人は、これまでの恐怖や恨みを、すべて善次郎にぶつけるように、言いたい放題言ってきた。

 いくら、顔を見知っているからといって、初対面に等しい自分にそこまで言うなんて、あんたらのほうが、よっぽどまとまじゃないだろう。

 そう思ったが、こんな人種を相手に、そんなことを言っても通じないのは、善次郎には十分わかっていた。

 それどころか、火に油を注ぎかねないであろうことも。

 しかし、そうは言っても、さすがにこれ以上罵詈雑言を聞いておれず、「ちょっと待って」と、善次郎は手を挙げて、止まるところをしらない二人の話しを制した。

 善次郎の腸は煮えくりかえっていたが、気持ちを落ち着けて、努めて平静を保った口調で、二人に諭すように言った。

「あなた達の気持ちはわかるけど、だからといって、猫好きの人たちをそこまで悪く言わなくていいんじゃないか。菊池さんだって、自宅の前で、子供のように可愛がっていた猫を殺されたんだ。犯人を見つけたいと思って当然でしょう。あなた達だって、自分の子供が殺されたなら、そういう気持ちになりませんか」

 そんな善次郎の努力も、徒労に終わった。

 善次郎の言葉を聞いて、二人は、最初は戸惑ったような顔をしたが、次に、菊池さんの話しをしたときのような、薄気味悪そうな目で、善次郎を見た。

 その目は、「あなたも同類なのね」と言っていた。

 案の定、子供と猫を一緒にしないでと、反撃をくらった。

「猫なんて、所詮ペットでしょ。あなた達の頭の構造はどうなっているの」

「あなた、子供を持ったことある。あるわけないわよね。猫と人間を一緒にするような人が、結婚なんてできるわけないわよね」

 菊池さんへの攻撃が、善次郎に向けられた。さんざんな言われようである。

 なぜ、自分がここまで言われなければならないのか。

 なにも、悪いことはしていないのに。

 凄く理不尽なものを感じたが、この二人には、なにを言っても無駄だ。言えば言うだけ、返ってくる。

 善次郎はそう思い、これ以上相手をするのが馬鹿らしくなって、二人に背を向け、アパートへ入ろうとした。

「逃げるのね」

 背後から、声がかかった。

 振り向くと、憎悪に満ちた二人の目が、善次郎を睨んでいた。

 こいつは、とんだ奴らに関わってしまった。

 善次郎は、心の中で舌打ちした。

 果たして、これからどのような展開になってゆくのであろうか。

 善次郎の苦難は、まだまだ続きそうだ。



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