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絆・猫が変えてくれた人生  作者: 冬月やまと
24/71

第24話 恐怖

 最近、善次郎の住む町内で、野良猫が惨殺されるという事件が相次いでいる。

 ここ二ケ月の間に、十匹以上の野良猫が殺されていた。

 ある猫は毒入りの餌を食べて、ある猫は頭をブロックで潰されて、また、ある猫は首を掻き切られて、無残な屍を路上に晒していた。

 その事件が起こる前にはあちこちにいた野良猫も、今ではすっかり数が減ってしまい、ほとんど見かけることがなくなった。

 ずっと以前に、野良猫の首を切ることから始まり、最後には少年の首を切るという事件が、神戸で発生した。

 それを恐れてか、警察も事態を重視して、ここ最近は町内を頻繁に巡回している。

 一説には、事件が起こりだして直ぐに、猫好きな人達が警察に陳情に行ったのだが相手にされず、業を煮やした一人が、その事件のことをを持ち出して、警察を脅した。

 それで警察も、重い腰を上げたという噂もある。

 その噂の真偽はわからないが、確かに、猫が殺されたくらいでは、警察も動かないだろうが、頻繁に何匹もとなると、さすがに放っておけなくなったのだろう。

 警察が動く前に、テレビ局が取材にきて、夕方のニュースで十分くらい特番を組まれたということも、思い腰を上げた理由の一つかもしれない。

 しかし、未だ犯人は挙がっていない。

 町内の住民は、猫好きはもちろん、そうでない者も恐怖に怯え、一刻も早く犯人が捕まることを願っていた。

 町内のあちこちで、犯人に対する噂が乱れ飛んでいた。

 その中で、もっとも、真しやかに流れていたのは二つだ。

 一つは、町内のマンションに住む三十代の男。

 この男のマンションの周りには、野良猫が住み着いており、よくマンションの入口脇にも佇んでいた。

 その男の彼女が猫嫌いで、よく入口に猫がいるので、男の家に遊びに行くのを嫌がった。

 男は、彼女のために、猫を殺して回ったというものだ。

 もう一つは、後ろに籠を付けた、古ぼけた自転車に乗った中年の男。

 毒入りの餌を食べさせて、殺す手口だということである。

 あくまで噂であって、事実かどうかはわからない。

 しかし、自転車の男の方は、その男が猫に餌を与えようとしたところを、何人か目撃している。

 その者たちが言うには、目撃者たちの姿を見るなり、そそくさと逃げるように立ち去ってしまったそうだ。

 この町の住人ではないのか、あまり見かけない顔だということと、人が来ると逃げるように去っていったということで、犯人として、かなり有力視されている。

 これらの噂が流れだした頃、例のマンションに住む男が引っ越してしまった。

 偶然か、噂のせいで居たたまれなくなったのか、或いは噂通り犯人で、やばいと思って逃げ出したのか、真偽のほどはわからない。

 ただ、その男が引っ越した後、野良猫が殺されることはなくなった。

 自転車の男の目撃証言も、ぷっつりと途絶えてしまった。

 もしかしたら、二人とも犯人だった可能性もある。

 殺され方がばらばらだったから、あり得ないことではない。

 毒殺は自転車の男で、惨殺はマンションの男。

 あるいは、その二人はまったくの無実で、たんに野良猫が少なくなったから、犯人が別の場所に移っただけかもしれない。

 いずれにせよ、犯人は逮捕されず、犯人の目星もついていないので、住民が不安に怯える日々は続いていた。

 善次郎も同じだ。

 近所に、菊池さんという、初老の男が住んでいる。

 帰宅途中に声を掛けられたのがきっかけで、道端で会えば話すようになった。

 菊池さんも黒猫を飼っていて、散歩中に、窓枠に乗っている活と、その後ろに佇む善次郎を、何度か見かけたのだと言った。

 同じ黒猫ということで、善次郎に親近感を抱いたらしい。

 菊池さんの飼っていた猫は、自由に外へ出ていた。

 昼は縄張りを巡り、夜には、家に帰って寝ていたらしい。

 不幸なことに、その黒猫も犠牲になった。

 菊池さんの家の前で首と脚を切られて、血溜まりの中で冷たくなっていたのだ。

 なんとも、やりきれない話である。

 普段は温厚な人だが、その話を善次郎にした時の菊池さんの目付は、善次郎の背筋が凍ったほど、激しい怒りで満ちていた。

 菊池さんは、自分の手で犯人を捕まえるべく、毎日、早朝と夕方、たま深夜にも、町内を巡回している。

 犯人を見つけたら、殺してしまいかねない。

 事実、ただではおかないと言っていた。

 そんな菊池さんのことを、善次郎は他人事には思えなかった。

 自分だったら、どうするだろうか?

 活が殺されたとしたら?

 多分、同じことをするだろう。

 活が殺される。

 それを思っただけでも、善次郎の心は怒りに燃えてくるのだ。

 なににせよ、今の善次郎にできることは、早く犯人が捕まってほしいと願うことだけだ。


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