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世継ぎの姫君と花婿  作者: 如月瑠宮
第一章
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面影の女

 リンファはクリスティナを後にするのを戸惑った。美しい街にまだ居たかったのだ。しかし、そんな余裕がある訳ではない。

(名残惜しいが・・・)

 リンファは離れていく街を見る。

(寂しい様な気がする)

 今まで、リンファはミリアム王国だけで過ごしてきたのだ。他の国の事など知らない。分かる筈も無かった。

 しかし、彼女は知ってしまったのだ。

 美しくも、厳しい『外』の世界を。そこは魅力に溢れていた。その魅力にリンファは惹き付けられたのだ。

 知らなかった頃には戻れそうも無いのが分かる。リンファはそんな自分に苦笑した。

 こんな時にそう思えてしまう自分が居るのだ。

(・・・これが私である証拠なのかもしれないが、困ったものだな・・・私も)

 妹と同じではないか。

 リンファは溜息を吐いた。これからの道のりは優しいものでは無いだろう。そんな事は承知している。

 だが、見たいと思う。

(まだ・・・帰りたくない)

 願うリンファをイオンは優しい眼差しで見ていた。その眼差しに気付いたリンファは恥ずかしくなった。

 そもそも、今の状況を侍女達に見られたらどうなるだろうか。あまり考えたくない事ではある。

(きっと・・・ギャーギャー煩いだろうな)

 女らしさが無い自分が男と二人旅。騒ぐ様子が目に浮かぶ。

 苦笑いをした。その瞬間の事だった。

「っ・・・!」

 リンファは慌てる。先程見たもの・・・あれは、そう・・だと直感した。

(あれは・・・ロヴァーナ!)

 彼女の目が見たのは、間違いなく妹の姿だった。確かに見たのだ。

(なぜ、ここに?)

 リンファは疑問を感じながらも、妹の姿を追う。

 まるで、亡霊に似た妹の姿を。




「ロヴァーナ!」

 背中に呼び掛ける。リンファの声に返るものは無い。

(別人か?)

 しかし、リンファは間違える筈が無いと思っている。彼女は姉なのだから。

 後ろ姿を見失わない様に急ぐ。

 しかし、リンファは彼女・・の背中を見失った。その背中が建物の影に消えたのをその目で見ていたのに。

「・・・ロヴァーナ」

 せめて、確実に妹だと分かれば。そうしたら、彼女は探しに行ける。どこまでも。

 ・・・逃げ出した理由を作れる。そんな打算的な感情もあっただろう。

 しかし、妹を何とかしなければならない現状は変わらないのだ。一刻も早く、彼女を見つけ出し、セイラム王国に許しを請う。それが、小国の生きる術。

「リンファ」

 声を掛けられて、リンファは思い出す。自分に連れが居た事を。

「・・・イオン」

 随分と情けない声が出た。思っていたよりも、自分は弱っていたのだと自覚する。どうしようもないなと溜息を吐く。

 心配そうに見つめてくるイオンは気付いているのかもしれない。彼女の持っている感情に。

「・・・すまない。行こうか・・・」

 リンファは落ち込みながらも、イオンを促す。しかし、彼は動かない。

 優しい眼差しに、違う何かが混じっている様に感じたリンファは一歩下がった。

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