召喚獣シュー
真っ黒毛玉。短い足で耳の辺りを掻こうとしている。もっとも、届いていないが。
「シュー」
リンファが呼べば、毛玉・・・シューは嬉しそうに顔を向ける。
鳴き声は聞かないから、おそらく鳴けないのだろう。
「・・・・・・」
呑気な様子のシューに脱力する。召喚獣にあるまじき、状態だった。
シューはリンファと同じベッドで寝ていた筈。それが、今は床に居る。落ちたのだ。
召喚獣がベッドから落ち、更に落ちた先で毛繕いを始めた。その一部始終を見てしまったリンファは再び憧れが崩れたのを感じた。
「・・・どうして、お前はこんなに・・・どれだけ、人の憧れを踏み躙れば気が済むんだ」
真剣にシューに言っても、シューは首を傾げるだけ。
(・・・こいつは飼い主に似たな)
シューを拾い上げる。柔らかな毛に僅かな埃が付いていた。
リンファはシューを撫でる。気持ち良さそうに細められる目。
(何か、役に立つ力があるのか?)
見た目ではただの可愛い生き物で・・・ちんくしゃだ。愛玩動物にしかならなそうである。
召喚獣なら、いくらちんくしゃでも力はあるのではないか。そう思うリンファであるが、確認のしようが無い。
「・・・・・・」
リンファは少し強めにシューを撫でる。シューはただ嬉しそうだった。
水晶で輝く街を歩くのは、魔法を身近に感じられて楽しかった。観光気分で辺りを見渡す。
夢の中に居る様だった。リンファは自国では絶対に味わえないときめきに身を委ねる。
「・・・綺麗だ」
自然に漏れた呟き。それは、きっとクリスティナを初めて訪れた人なら思うだろう。
リンファは今の自分の状況を忘れそうになった。
「・・・・・・」
忘れたいけど・・・忘れるなど、出来ない。
それは、リンファだけの罪では無いのだから。
「・・・これから、どうするつもりだ?」
「リンファが行きたい所に行くよ?」
「そうか・・・」
安堵した様な息をリンファは吐いた。イオンの言葉は不安を和らげてくれたのだ。
(このままで良いとは思わない。でも・・・少しだけ・・・もう少しだけ、このままでいたい)
リンファは願う。僅かな憩いを。
リンファは渡された水晶を見つめた。僅かに青みがかった水晶は仄かな光を宿している。
美しいそれは先程、イオンがリンファに贈った物だ。
「本当に良いのか?」
リンファの言葉にイオンは首を傾げた。
クリスティナには水晶を扱う露天商が多い。道端に立つ店には様々な水晶があり、道行く人を楽しませていた。勿論、リンファもである。
子どもの様に目を輝かせる彼女にイオンはペンダントに加工された水晶を買ってくれたのだった。
「別に高価な物でもないし、魔法水晶として鍛えた物じゃないからね」
「これは魔法水晶じゃないのか?」
「うん」
こんなに綺麗な水晶なのに、魔法とは関係無い状態なのだ。リンファは目を見張る。
(不思議だ)
この世には不思議な事がまだ沢山あるのだ。
水晶を見つめるリンファをシューは眩しそうに見ていた。
それは、幸せそうで、楽しげだった。
召喚獣シュー 完




