召喚獣の存在
リンファは妹の許に走った。そして、彼女の細い肩を掴む。振り向いた彼女の口が動く。
姉様・・・と。
妹の面影を持つ女は紛れも無く、妹であるロヴァーナだった。
ロヴァーナは今、姉の前に居る。
「姉様・・・」
「ロヴァーナ・・・どうして・・・」
リンファは何と言えばいいのか分からなくなった。何故、小国の姫が大国に逆らう事をしたのか。何故、祖国を危険に晒すのか。
彼女には分からなかった。大切な妹の事だというのに。
「・・・ロヴァーナ、帰ろう」
それでも、大切な妹である。守ってやりたいと思う。
「・・・無理ですわ。私はもう、帰れません」
妹の言葉にリンファは息を飲む。
「帰れないって・・・それに、一人なのか?」
リンファは疑問を口にする。ロヴァーナは彼女の婚約者と駆け落ちしたのだ。そうだと思っている。
(違っていたのか?)
婚約者はロヴァーナと一緒では無いのだろうか。たとえ、二人が共に居たとしてもリンファは叱る程度で二人を許してしまうのが目に見えている。そんな彼女はロヴァーナが一人きりでいる事に憤りを感じていた。
「リヒャルトはどうしたんだ?一緒では無いのか?」
「・・・・・・」
「ロヴァーナ!」
「・・・リヒャルトは・・・帰らせました」
悲痛な声だった。リンファは何も言えなくなる。
彼女は妹の手を握り、イオンの待つ宿に向かった。その足取りは重く、表情も暗い。折角の再開は悲しいものだったのだ。
リンファが連れて来た少女らしい少女の姿を見た瞬間、イオンはその紫の瞳に険しい光を宿す。
イオンの様子の変化にリンファは戸惑った。こんなに険しい表情の彼を見るのは初めてなのだ。
「イオン・・・彼女は私の妹なんだ。そんなに警戒する必要は無い」
「あら?姉様、こちらの方はどなたでしょうか?ご紹介頂きたいですわ・・・」
リンファは呆れた。どうしてか、彼女の周りは呑気な人が多いのだ。
(私の周りはどうして、こんな奴ばっかりなんだ?もっと、緊張感を持て!)
それは無理な願いだろう。しかし、緊張感を待って貰う事に重きを置く訳にはいかないのである。
リンファはとりあえず、今までの事を妹に話したのだった。
それを聞いたロヴァーナは目を閉じる。その瞳が潤んでいたのをリンファは見た。
「イオン、そんなに警戒する事は無い。私の妹だぞ」
呑気そうにしているかと思っていたイオンが時々ではあるが、ロヴァーナを警戒しているのが分かった。必要が無いと何度言っても変わらない。
「・・・何か、あるのか?」
リンファには分からない、何か。それは高確率で魔法関係の事だろう。
イオンが苦笑を浮かべる。
(あぁ・・・嫌な予感がする)
リンファは彼が口を開くのを待つ。その時間は長くも、短くも感じた。そして、彼女が知った事実は強烈だった。
「妹姫の中には、召喚獣が眠っているんだよ」
「え・・・」
リンファは目を見開く。そして、事実を告げたイオンを見つめた。
「シュー」
そんな彼女の視線を受けて、イオンは自身の召喚獣を呼び出した。泡のような光が集まり、その光がシューの形になる。光はシューとなり、シューは愛らしい仕草で愛嬌を振り撒く。
リンファとしては、愛嬌を振り撒かれるより、もう少し神妙になって欲しかった。だが、直ぐにシューへの期待は無理なのだと思い出す。
「シューは召喚獣の中では、戦闘に向かないタイプなんだ」
「そんな事は見たら分かる」
このちんくしゃが戦闘向きだったら、それはそれでショックだ。
「・・・リンファ、外見は関係無いんだ」
イオンが言うには、召喚獣の外見は能力と関係が無いらしい。関係するのは中身。つまりは純粋な力である。
召喚獣にも格がある。ランクが下の魔獣や霊獣では、簡単な補佐しか出来ない。だが、それ以上のランクならば、補佐なんて簡単過ぎる事はしない。
そして、ロヴァーナの中で眠る召喚獣は魔獣や霊獣では無いのだ。
召喚獣の存在 完




