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恋愛禁止の会社で、恋愛監査官に恋をしました。  作者: naomikoryo


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第7話 「噂好きの課長と毒舌な先輩」

 午後三時。

 春樹が六階の共用ラウンジでコーヒーを飲んでいると、背後から声をかけられた。


「おう、春樹!」


 振り返ると、神崎勇人が立っていた。


「……何ですか。」

「何だよ、その態度。」

「別に。」

「聞いたぞ。人事部に呼び出されたんだって?」


 春樹は眉をひそめた。


「早いですね、情報。」

「営業は情報が命だからな。」

「仕事の情報を集めてくださいよ。」

「で、どうだった?」

「何がです?」

「恋愛監査官。」


 勇人は声を潜めた。


「怖かっただろ?」


 春樹は少し考えた。


「いや、別に。」

「えっ?」

「普通にいい人でしたよ。」

「……マジで?」

「はい。」

「お前、どこか違う部署に行ってきたんじゃないの?」

「七階の人事部です。」

「小泉主任だぞ?」

「そうですけど。」


 勇人は不思議そうに腕を組んだ。


「おっかしいなぁ。俺なんか、この前、女性社員と飲みに行った話をしただけで、すごい顔されたぞ。」

「それ、神崎課長が余計なこと言ったんじゃないですか?」

「何だよ、余計なことって。」

「どうせ『彼女とは一晩中語り合ってさぁ』とか。」


 勇人は少し黙った。


「……言ったかもしれん。」

「でしょうね。」

「いや、でも本当に一晩中語り合ったんだぞ!」

「何の話を?」

「営業戦略。」

「……。」

「本当だって!」


 春樹はコーヒーを飲んだ。


「まあ、小泉さんは真面目すぎるところはありますけど、ちゃんと話は通じる人ですよ。」

「ふうん。」


 勇人がにやりと笑った。


「何だよ。随分と小泉主任を褒めるじゃないか。」

「別に褒めてませんよ。」

「おっ?」

「何ですか、その顔。」

「いやぁ、なるほどなぁ。」

「何がです?」


 勇人は春樹の肩に手を置いた。


「春樹。お前、まさか……。」

「違います。」

「まだ何も言ってないだろ。」

「どうせろくでもないことです。」

「小泉主任に惚れたんじゃないのか?」

「はあっ?」


 春樹は思わず大きな声を出した。

 ラウンジにいた社員が、こちらをちらりと見た。

 勇人は楽しそうに笑っている。


「おいおい、そんなに動揺するなよ!」

「いや、何でそうなるんですか!」

「女のことを褒める男ってのは、だいたい……。」

「だから、そういう短絡的な考え方をやめてくださいよ!」

「分かった分かった。」


 勇人は肩をすくめた。

 しかし、その顔には明らかに何かを企んでいるような笑みが浮かんでいた。

 春樹は嫌な予感を覚えた。


「……神崎課長。」

「ん?」

「絶対、変な噂を流さないでくださいよ。」

「任せろ。」

「本当に?」

「俺を誰だと思ってる?」

「社内で一番信用できない情報源です。」

「ひどいな、お前!」


 そのとき、ラウンジの入口から別の声が聞こえた。


「何を騒いでるの、男二人で。」


 振り返ると、黒瀬早紀が立っていた。

 経理部の係長で、春樹より二歳年上の三十二歳。

 落ち着いた雰囲気の女性で、仕事もできる。

 ただし、口はかなり悪い。


「おっ、黒瀬さん!」


 勇人が急に姿勢を正した。


「今日もお綺麗ですね!」

「そのセリフ、朝から何人に言ってるの?」

「いや、黒瀬さんだけですよ!」

「じゃあ、今日はまだ一人目なのね。」

「そういう意味じゃ……。」

「足立君。」


 早紀は勇人をあっさり無視して、春樹に視線を向けた。


「聞いたわよ。」

「……何をですか?」

「相良さんと結婚するんですって?」


 春樹は危うくコーヒーを噴き出しかけた。


「黒瀬さんまで!」

「あら、違うの?」

「違います!」

「そう。残念。」

「何が残念なんですか!」

「結婚祝い、何にしようか考えてたのに。」


 早紀は涼しい顔で言った。

 勇人が横から割り込んだ。


「ちなみに、黒瀬さんは何を贈るつもりだったんです?」

「プリン。」

「ぶははははっ!」


 勇人が大笑いした。

 春樹は頭を抱えた。


「もう勘弁してくださいよ……。」


 早紀はそんな春樹を見て、ふっと微笑んだ。


「でもまあ、噂って怖いわよね。」


 その声は、先ほどまでの冗談めいた調子とは少し違っていた。


「本人の知らないところで、勝手に話が大きくなるんだから。」

「……本当ですよ。」

「気をつけなさいよ、足立君。」

「はい。」

「特に神崎君みたいなのがいるから。」

「ちょっと待ってください、黒瀬さん!」


 勇人が抗議した。

 早紀は笑顔を崩さなかった。


「何か間違ったこと言った?」

「……いや、まあ。」

「認めるんだ。」


 春樹は思わず笑った。

 こうして、何とも騒がしい月曜日の午後が過ぎていった。

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