第15話「増える会議メンバー、減る平穏」
「……へえ。」
美紀はしばらく黙っていた。
そして、突然、春樹のほうを向いた。
「先輩!」
「何?」
「私も参加したいです!」
「えっ?」
「そのプロジェクト!」
「いや、俺に言われても……。」
「営業部からも代表が必要ですよね?」
「まあ、そうかもしれないけど。」
「じゃあ、神崎課長にお願いしてみます!」
「ちょっと待てって!」
美紀はすでにスマートフォンを取り出していた。
画面を素早く操作し、何やらメッセージを送っている。
「よしっ!」
「……何がよしっ、なんだよ。」
「神崎課長に送りました!」
「早いな、おい!」
「こういうのは早い者勝ちです!」
「いや、別に席取りゲームじゃないから。」
美紀は満足そうに笑った。
春樹はため息をついた。
そのとき、今度は勇人からメッセージが届いた。
『おう、春樹!』
『何ですか?』
『相良から連絡が来たぞ。』
『早すぎません?』
『例のプロジェクト、俺も参加することにした!』
「……は?」
春樹は思わず声を漏らした。
さらに、次のメッセージが届く。
『ちなみに、経理部からは黒瀬さんを推薦しておいた。』
「……。」
春樹はしばらく画面を見つめた。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「……何なんだよ、このメンバー。」
美紀が不思議そうに首をかしげた。
「どうしたんです?」
「いや……。」
春樹は数え始めた。
自分。
相良美紀。
神崎勇人。
黒瀬早紀。
そして、小泉美奈。
何とも個性的な顔ぶれである。
しかも、その全員が昨日のプリン騒動に何らかの形で関わっていた。
(……絶対、まともな会議にならないだろ。)
春樹は頭を抱えた。
しかし、メールの本文をもう一度確認した彼は、ある一文に目を留めた。
『社員同士が気軽に交流できる職場環境の実現を目指します。』
春樹はしばらくその文章を見つめた。
そして、思わずつぶやいた。
「……社員同士の恋愛は禁止なのに、交流は増やせってか。」
隣で美紀が笑った。
「いいじゃないですか! 楽しそうで!」
「お前はそうだろうけどなぁ……。」
「それに、先輩。」
「ん?」
美紀はいたずらっぽく微笑んだ。
「これから、いっぱい一緒にお仕事できますね!」
春樹は苦笑した。
「まあ、そうだな。」
「よろしくお願いしますね、先輩!」
「ああ。よろしく。」
その笑顔を見ながら、春樹は思った。
(……本当に大丈夫なのかな、このプロジェクト。)
そして、この新しい仕事が、やがて会社全体を巻き込む大騒動の始まりになることなど、彼はまだ知る由もなかった。
もっとも、その前に一つだけ、春樹には気になることがあった。
明日の会議。
人事総務部側の担当者は、小泉美奈主任。
昨日、プリン一個のことで事情聴取された相手である。
春樹はスマートフォンをポケットにしまいながら、小さくため息をついた。
「……今度は、何の取り調べになるんだろうな。」
美紀が笑いながら答えた。
「先輩、今度はカレーで呼び出されるかもしれませんよ!」
「やめろ! 本当にありそうだから!」
二人の笑い声が、昼下がりのオフィス街に響いた。
こうして、春樹の平穏な会社員生活は、また一歩、騒がしい方向へと進んでいくことになった。




