第14話「帰り道、気になる名前」
「……悔しいです。」
「何が?」
「激辛に負けました。」
「別に勝ち負けじゃないだろ。」
「今度こそ絶対に勝ちます!」
「また頼む気かよ。」
「もちろんです!」
春樹は呆れたように笑った。
会社へ戻る道を、二人は並んで歩いた。
昼休みも終わりに近づき、周囲には足早にオフィスへ戻る会社員の姿が増えている。
美紀は少しだけ歩く速度を落とした。
「……ねえ、先輩。」
「ん?」
「今日のお昼、楽しかったですか?」
「うん。楽しかったよ。」
「本当に?」
「何で二回聞くんだよ。」
「だって……。」
美紀は少し言いよどんだ。
そして、わざと明るい声を出した。
「私と二人きりでランチなんて、なかなか贅沢でしょう?」
「はいはい。」
「もうっ! ちゃんと答えてください!」
「だから、楽しかったって言ってるだろ。」
「……。」
「相良と飯食うの、別に嫌いじゃないし。」
美紀は足を止めかけた。
「……えっ?」
「ただ、次から激辛チャレンジはやめとけよ。」
「……。」
「見てるこっちが心配になるから。」
美紀は春樹の横顔を見つめた。
そして、少しだけ頬を膨らませた。
「……先輩って、本当に分かってないですよね。」
「何が?」
「何でもありません!」
美紀はぷいっと顔を背けた。
しかし、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。
春樹は首をかしげた。
(……今日、何回目だ? このやり取り。)
そのとき、春樹のスマートフォンが震えた。
社内メールの通知だった。
「ん? 何だ?」
画面を開く。
差出人は人事総務部。
件名は『部署間コミュニケーション改善施策に関する打ち合わせのお願い』となっていた。
春樹は歩きながら本文を確認した。
『営業企画部 足立主任
お疲れさまです。
このたび、社内の部署間連携およびコミュニケーション改善を目的とした新たな取り組みを開始することになりました。
つきましては、営業企画部の代表として、足立主任に企画立案へのご協力をお願いしたく存じます。
詳細につきましては、明日午後二時より会議室Aにて打ち合わせを予定しております。
なお、本件の人事総務部側の担当者は、小泉美奈主任となります。
よろしくお願いいたします。』
春樹は画面を見つめたまま立ち止まった。
「……えっ?」
美紀が横から覗き込んだ。
「どうしたんですか?」
「いや、何か新しい仕事が来た。」
「新しい仕事?」
「部署間のコミュニケーション改善だって。」
「へえ! 面白そうじゃないですか!」
「そうかなぁ。」
「誰が担当なんです?」
「俺と……。」
春樹はもう一度メールを見た。
「小泉さん。」
美紀の表情が変わった。
「……小泉主任?」
「うん。」
「二人で?」
「まあ、他にもメンバーはいるんだろうけど。」




