やたらと事務所を壊しにくる天使長のルチアってやつ①
アルカとネネを連れて事務所前へと転移してすぐ、二人はそれを見て体を強張らせた。
「なぜここに」
「旦那がさっき魂葬したはずじゃ?」
目の前にいたのは先ほど魂葬したレギオンと同じ姿形をしたものであった。
まあ、俺が作ったんだけどね。
もちろん外側を真似ただけで、中身のない空っぽの器なんだけどさ。
「そんなビビんなくても大丈夫だって。噛みついたりしないから」
俺がそうしろと命令しなければ動き出すことはないから。
というのもレギオンとの戦闘訓練にはちょうどいい強さなので用意したのだ。
内容次第では噛みつかれたりするだろうけど、その時はその時ということで。
「それで、何をするんですか?」
一応納得したのか、警戒を解いたアルカが姿勢を正して尋ねてくる。
ネネの方はまだ気が気でないらしく、ちらちらと横目で見ていた。
「天使兵装の発現と使い方を覚えてもらおうかなって」
「天使兵装?」
「簡単に言うと超能力みたいなもんだよ」
実際はもう少し複雑な説明を要する力なのだが、習うより慣れろとも言うし、まずは体験してみる方がいいだろう。
別に説明が面倒だとかそういうわけではない。
「どうやって使うんですか?」
「ロックは解いてあるし、念じれば使えるよ」
「念じれば……」
両手をネネの方へと向けたアルカがむむむと眉間にしわを寄せる。
「何も起きませんね」
「俺で試すなよ」
「あなたなら別にいいかなって」
「的はあっちに用意したからそれ使ってね」
「的ってあのレギオンのことですか?」
「そうだよ」
アルカが指を差して確認してきたことに対して即答すると、メガネのレンズをすりガラスのごとく器用に曇らせ、何か憐れむような表情だけが見て取れた。
「……ルメル様ってそういうところありますよね」
「褒められても何も出せないよ」
「褒めてません」
溜め息を一つ吐いたアルカは再度、宙にかざした手をレギオンへと向けた。
先ほどよりも鬼気迫る表情で力を込めているようだが、何かが起きる気配は微塵もない。
なんなら「ハ、ハンドパワー」と小声で呟くのがよく聞こえるほど静寂であり、アルカは口を固く引き結び頬から耳まで恥辱に染めている。
「だんなぁ、何か発動したのか?」
「んや何も」
「なんだそりゃ」
俺としてはアルカの恥じらう表情を見れて満足だ。最近では色々と慣れてきたのかちょっとのことでは動じなくなってしまったから。
それはそれとして、何も起きないのはたしかにおかしい。
俺が天使兵装を発現した時は、最初から十全に使えていた。
なんならその次の段階にさっさと行ってしまい、使わなくなったほどだ。
もしかして魂に何か異常でもあるのだろうか?
なおも諦め悪く、というより意固地になって念じ続けるアルカの肩にそっと触れ「ひっ」なにその反応、地味に傷つくんだけど。
どれどれ。うーん、特に異常は見当たらないなぁ。
「あ、あの」
「もうちょっと待って」
ロックも外れてるし能力自体も形になってる。ってことは単純に出力の仕方が分からないとかそんなところだろうか。
それならアルカを媒介にして俺が使ってみれば体感できるはず。
「じゃあいくよー」
「なにを?」
「よっ」
「うわ」
よしよし、ちゃんと発動したね。
しかし面白い能力だ。なかなか応用も利きそうだし、使い方次第では格上にだって対抗できるかもしれない。
「なんだよ二人して。発動したのか?」
「したの?」
「なんでルメル様が疑問系なんですか」
そんなぷりぷりしないでよ。ちょっとした確認じゃん。
アルカは人差し指と中指を立ててネネの方へと向けた。
「コツは分かりました『臨』」
「うお」
おっかなびっくりと身構えたネネだったが、「なんもねーじゃん」目に見える変化を認識できずほっとしたのも束の間。
ちょっと身じろぎをして「あん?」何かを察した。
ぺたぺたとまるでパントマイムでもするみたいに、四方八方前後左右のあちこちを触れて確かめていく。
「んだこれ」
どうやら閉じ込められていることに気が付いたらしい。
「こんなもんぶっ壊してやる」
拳を構えて渾身の突きを放ったが、「いってぇ」見えない壁を殴った右手を抱えてうずくまった。
もちろん脱出はできていない。
「結界みたいなものです」
「厳密には違うけどね」
「どう違うんだよ」
ネネが目に涙を浮かべながら険しい表情で訊いてくる。
「結界は内外を分ける境界線で、アルカのはただの箱って感じかな」
結界とはその性質上、境界を定めて分離すること及びその条件付けに能力の主眼が置かれている。言わば家の鍵やパスワードを設定するのに似ている。
対してアルカの能力は、筐体を作り、中身の設定をいじることがメインだ。言わば自分の家やおもちゃ箱に似ている。
「つまり結界より色々できて便利ということですね」
「うん、まあ、そこは使い方次第だけど」
「それなら結界のイメージは捨てた方がよさそうですね」
アルカは指をネネに向けて「『解』」能力を解除した。
「結構気に入ってたんですけど」
どうやら妖と結界で戦う某漫画の影響を受けて能力を使ってみたらしい。
やりたくなる気持ちは分からないでもないが、先入観はよくない。
せっかく自由度の高い能力なのに、イメージに引っ張られて可能性を狭めては本末転倒である。まあ定型的な使い方ならいいと思うけど。
「旦那、次俺の番だろ」




