おっさんを地獄に送ったらメスガキになって帰ってきました②
アルカ視点です
こんにちわ、こんばんわ、おはようございます。あなたの雇われ見習い天使のアルカです。誰に言っているのかって?
あなたですよ。
ルメル様いわく、この世界には神の上に上位存在がいるとのことです。名前を聞いても魂の格の低い私には聞き取ることすらできませんでした。
その上位存在は常に世界の全てを把握しているのだとか。
つまり、今この時も私たちのことを見ているのでしょう。
いっえーい上位存在君みってるー?
今から君の大事な魂を魂葬しちゃうよーん。
……なんて、見たことも聞いたこともない何かを当てにするのは前世までの話です。今の私にはどうでもいいことでした。
さて仕事に戻りましょうか。
「これどこに向かってんだ?」
隣に歩く幼女、もといメスガキがつまらなさそうな顔で聞いてきました。
「さあ?」
「は?」
「目的地なんてありませんが?」
何かの拍子に輪廻の道から逸れてしまった魂を魂葬して回るのが外回りの仕事ですから、当てもなく歩くのは当然でしょう。
「んだよ。レギオンでも相手にすんのかって期待してたのに」
「レギオンなんてめったに出ませんよ。警報も鳴っていませんし」
というかレギオンなんて出て来られても、私ではまだ対処できないので、なるべくなら遭遇したくないんですよね。
会話が途切れて、苦手なコミュニケーションを強いる圧力が高まる中、折よく彷徨っている魂に遭遇しました。
「あなt……メスガキは魂葬のやり方を知っていますか?」
「言い直してひどくなるってなんなん? まあ、一応は」
「ではやってみてください」
「おまえ……」
「ほら早く」
手を叩いて急かすと、メスガキは舌打ちをして魂の方へと向かって行きました。
特異特定特有の形を持たず、火の玉とでも形容すべきふよふよと浮いた青い魂に、メスガキは構えた拳を繰り出しました。
……はっ? なにやってんの?
殴り飛ばされた魂は地面に落ち、二、三回と跳ねて転がり、また何事もなかったかのように浮き佇んで彷徨いだします。
「やっぱダメか」
「ダメなのは頭の方では?」
「あ?」
「凄んでも可愛いだけです。というかなんで殴ったんですか」
「いや、魂葬しようと」
「殴る必要ないでしょ魂葬するのに」
「は?」
「ん?」
「殴るだろ」
「殴りません」
「え?」
「ん?」
なにやら天丼の予感。なんて言っている場合ではありません。
魂が勝手にどこかへ行ってしまう前に魂葬を済ませなくては。
このメスガキを躾け分からせるのは後にしましょう。
今にも風に流されて行きそうな魂を捕まえ、その一部を引きちぎって「ラベルテ」と唱えます。
別に風なんて吹いていないし、唱えたのはメスガキに見せるためです。
変化した魂の履歴書にじっと目を凝らしました。
どうやら前世は石ころだったようですね。
魂の格も低いし、別の魂が混ざっている形跡も見当たりません。
これなら特に問題はないでしょう。
空中から現界へ送る用の判子を取り出し、私の名前の隣に捺印しました。
「カロシーデ」
最近教えてもらったことですが、この言葉は「よい旅を」という意味だそうです。
ルメル様にしてはなんとも詩的だなと尋ねてみると「俺が考えたわけじゃないけどね」なんて寂しそうな顔をしていました。
そうこうしていると、魂の記憶が流れ込んできます。
それは学校の帰り道の子どもに蹴飛ばされている石ころ視点の光景でした。
子どもは家まで石ころを蹴り続け、拾って持ち帰られました。
大事そうに机の上に飾られて次の日、子どもが学校に行っている間に石ころは母親に見つかり、あっけなく外へと放り出されました。
感情はありません。ただ在りし日に観測された出来事の中で、最も強く残っていたのがこの記憶というだけ。ただ、それだけの話です。
「次は、蹴飛ばす側になれるといいですね」
光の粒になって消える魂を見送りながら、自然とそんな言葉が出てきます。
「おい、何してんだよおまえ」
「はい?」
メスガキは何やらあり得ないものを見たとでも言うような、まさしく愕然とした顔をしていました。
例えるならあれでしょうか。スーパーのレジに並んでいる時に、カートだけ置いてどこかへ消える主婦を見る私の顔です。
……失礼な。誰がおばさんですか。
こちとら子どもはおろか恋人すらいたことないと言うのに。
「何か問題でも?」
「問題しかねぇよ」
メスガキの目は非難するような、いえどちらかというと心配でしょうか。
見た目と言動の割に意外と優しいのですね。
しかしいったい何に対する心配をしているのか疑問です。
「他の魂を取り込むなんて自殺行為だ。普通はやらねぇよ」
「ではいったいどうやって魂葬するんですか?」
「俺がやったみてーに砕くんだよ」
メスガキが言うには、魂にある程度の衝撃を与えて文字通りに砕き、光の粒にすれば魂葬となるそうです。
光の粒がどこへ行くのかというと、勝手に輪廻へと戻るのだとか。
輪廻に戻った粒は他の粒と合わさって再結合し、一つの魂へと形成されて現界に送り出されるという仕組みになっているとのことでした。
そんなこと、ルメル様から教わっていませんが?
それに、
「なぜあなたがそんなことを知っているんですか」
ついさっき天使になった魂にしては情報の深度が深すぎます。
それとも私が知らなかっただけで、たかが一介の魂ごときであっても、そういった情報を得ることは可能なのでしょうか。
「別のとこで雇われてたんだよ」
訝しむ私に、メスガキはやけにあっさりと白状しました。
「別のところ?」
「ルメルの旦那以外にも天使はいるし、事務所もあんのは知ってんだろ」
「はい。今知りました」
「マジかよ」
「嘘です」
「おまえ……」
「ではなぜルメル様の事務所にきたんですか」
「えぇ、それ聞く?」
「聞いてほしそうな顔してますよ」
「そんな分かりやすいかね俺って」
メスガキは頭をぽりぽりと掻いて目を逸らします。
ぶっちゃけ、さほど興味はありません。というかさっさと帰りたいです。
ただまあ、尋ねてしまった以上はその義務を果たさねばなりませんよね。
「クビにされたんだよ」
「五体満足に見えますが?」
「誰が生首だ。解雇だよ解雇」
「ああ、なるほど納得です」
「すんなよ納得。疑えよ詮索」
「セイホーオ」
「?」
「?」
「なんでお前が首傾げてんだよ」
「急に韻を踏み始めたのでラップバトルかなって」
「今の流れでラップはじめたら頭おかしいだろ」
「もしかして鏡を見たことがない?」
「なんなんお前、皮肉を言わないと死んじゃうの?」
「ウサギは寂しいと死ぬというのは謬説ですよ」
「へぇそうなんだ。ってそうじゃなくて」
なにやらメスガキが憤慨してしまいました。
まったく。最近の若い子はストレスへの許容上限が低くていけません。
そんなんじゃ私みたいな超絶有能完璧美人秘書にはなれませんよ。
「自分で言ってて恥ずかしくねーの?」
「花も恥じらう乙女ですが?」
「嘘つけ。ミニスカメイド服着たやつのどこに恥じらいがあんだよ」
「これはあれです。慣れです」
「慣れんなよ。こえーよ」
「裸よりマシでしょう」
「裸の方がマシだろ」
埒が明かないので、ぐちぐちぶつくさと調子の悪い屁みたいな文句を垂れるメスガキの相手を躱しながら、外回りを継続していきます。
しばらく歩いて魂を発見した私は立ち止まりました。




