神様の影法師③
短め
俺には分かる。
ルチアは今、極めて冷静に周囲の状況を観察することに努めているが、それは表面上の話であって、実際はすぐにでも戦闘を始めようとしている。
ルチアとは浅からぬ関係だ。性格はそこそこ理解しているつもりである。
返答次第では最悪、俺とルチアが戦うことになる。
まあ、それはそれで別に構わないわけだけど。
「どういう状況かって聞いてんだけど?」
誰も何も答えようとしないことを察してか、明らかに俺の方を見て問う。
「さあ? 俺も知らん」
悲しいかな、これが事実であり真実だった。
俺とて説明できるならしている。
だがしかし、説明できる内容としては「いきなり召喚されてそこのフードちゃんに襲い掛かられたから撃退した」以上のことがない。
つまり何も知らないのと同じだ。
ルチアが求めているのは状況説明と同時に、なぜそそのような状況になったのかということだろう。それは俺も知らないし知りたい。
というかルチアは関係者っぽいし、むしろフードちゃんに直接訊いてみて欲しいのだが。
あ、俺が串刺しにしてるから話せそうにないのかな?
「僭越ながら、私の方からご説明申し上げてもよろしいでしょうか」
アルカがすかさず手を挙げ言葉を発した。
うんうん、こういう時に物怖じしない性格は頼りになるね。
でも君、さっき俺が聞いたときは分かりませんって言ってなかった?
「起こった出来事の説明でよければ私にも可能です」
「……あんた心読まれてるわよ」
「いいよ心くらい。鍵とかかかってないし」
「鍵どころか扉が取れてるじゃない」
「誰かさんがよく壊しにくるからね」
「まあいいわ。あなた名前は」
「アルカと申します」
「アルカ、発言を許可するわ。説明なさい」
許可が下りて、アルカが口を開いた。
でもなんだってルチアの許可がいるんだろうね。
ともあれ、アルカの説明の内容は次の通りだった。
・魂葬業務について新人に教えるために外回りをしていた。
・区画境界付近にてレギオンが吹き飛んできた。
・こちら側で警報は鳴っておらず、他区画からの侵入と推定。
・放置するわけにもいかないので魂葬するべく戦闘を開始。
・直後、フードちゃんが乱入してくる。
・フードちゃんがレギオンへ攻撃、捕食(魂葬?)する。
・フードちゃんがこちらにも攻撃してくる。
・応戦するもネネが拘束され、止むおえず俺が召喚される。
・俺がフードちゃんをボコボコにする。
ふーん。これ、フードちゃんが全面的に悪くね?
あ、ルチアの額に青筋が立ってる。
無造作にフードちゃんの背から大剣が引き抜かれた。切っ先をこちらに向けて投げ返され、大剣をキャッチし消滅させる。
あっぶねぇ。お前それ、やって良いことと悪いことがあるだろ。
ルチアはなおも無言でフードちゃんの拘束を引きちぎり、首根っこを掴みながら乱暴に起立させた。
「クレア。何か申し開きがあるなら聞くわよ」
睨みながら低く平淡な声で告げるルチアの問いに、フードちゃんもといクレアは目を泳がせた。
何が恥ずかしいのか頬を赤らめ、伏し目がちにルチアの耳元へ顔を近づけると、俺たちにはほとんど聞こえないくらいの声で一言「おいしかった」と言った。
うん。聞き間違いかな。おいしかった。美味しかった?
「アルカ」
「私にもそう聞こえましたよ」
「ライム読みは禁止だぜ」
「ライムを絞ればさっぱりとしたお味に?」
「知らないよ。食べたことないし」
俺たちでさえ呆気に取られて現実逃避的な会話をしてしまう。
別にライム読みでもなんでもないしね。
ましてルチアなんかは、あまりの衝撃に天を仰いでいた。
「あなたはもう帰りなさい。これは『命令』よ」
聞き分けが良いやら悪いやら。クレアはこくりと頷くと、コートの上にそれぞれ白と黒の翼を生やして、ものすごい勢いで飛び去って行った。




