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幸せの愛し方  作者: 涙目
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7/8

第七話 告白

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

人は時々、


未来が見えることがある。


---


予知でも何でもない。


---


ただ、


今までの流れを考えれば、


その先に何があるか分かるだけだ。


---


俺は知っていた。


---


たぶん振られる。


---


きっと叶わない。


---


期待していないと言えば嘘になる。


---


でも。


---


期待より、


覚悟の方が大きかった。


---


それでも伝えると決めた。


---


自分の気持ちにだけは、


嘘をつきたくなかったから。


---


その日は不思議なくらい普通だった。


---


朝が来る。


---


会社へ行く。


---


彼女がいる。


---


「おはようございます」


---


いつもの声。


---


「おはようございます」


---


いつもの返事。


---


たぶん周りから見たら、


何も変わらない日だった。


---


だけど俺だけは知っていた。


---


今日で何かが終わる。


---


そして、


何かが始まる。


---


そんな予感があった。


---


昼休みは何を食べたか覚えていない。


---


午後の仕事も覚えていない。


---


ただ、


心臓だけがずっと落ち着かなかった。


---


情けないなと思う。


---


三十五歳にもなって。


---


若い頃より落ち着いていると思っていた。


---


経験も積んだ。


---


失敗もした。


---


傷つくことにも慣れたつもりだった。


---


でも。


---


好きな人への告白だけは、


何歳になっても変わらないらしい。


---


怖かった。


---


本当に怖かった。


---


帰り際。


---


彼女に声をかけた。


---


「少し話せますか」


---


喉が渇いていた。


---


彼女は少し驚いた顔をした。


---


それでも。


---


「大丈夫ですよ」


---


と笑った。


---


その笑顔を見て、


胸が少しだけ痛んだ。


---


この笑顔を、


俺はどれだけ好きだったんだろう。


---


会社を出る。


---


夕方だった。


---


オレンジ色の光が街を照らしていた。


---


二人で歩く。


---


しばらく会話はなかった。


---


沈黙。


---


不思議と嫌な沈黙ではなかった。


---


ただ、


終わりへ向かう静かな時間だった。


---


公園のベンチに座る。


---


風が吹いていた。


---


木々が揺れる。


---


遠くで子供の声が聞こえる。


---


世界はいつも通りだった。


---


なのに。


---


俺の世界だけが、


少し震えていた。


---


深呼吸する。


---


そして口を開く。


---


「好きでした」


---


思ったより自然に言葉が出た。


---


それまで何百回も考えていたのに。


---


本番になると、


一番簡単な言葉だけが残った。


---


彼女は黙って聞いていた。


---


俺は続ける。


---


好きだったこと。


---


一緒にいて楽しかったこと。


---


幸せだったこと。


---


傷ついたこと。


---


悲しかったこと。


---


それでも好きだったこと。


---


全部話した。


---


格好良くなんてなかった。


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たぶん途中で言葉もまとまっていなかった。


---


でも。


---


嘘だけはなかった。


---


全部本音だった。


---


話し終わる。


---


静かだった。


---


風の音だけが聞こえる。


---


彼女は俯いていた。


---


俺は待った。


---


怖かった。


---


でも不思議と後悔はなかった。


---


もう伝えたからだ。


---


逃げなかったからだ。


---


しばらくして、


彼女が顔を上げた。


---


悲しそうな顔だった。


---


そして言った。


---


「ごめんなさい」


---


優しい声だった。


---


俺が一番想像していた言葉だった。


---


そして、


聞きたくなかった言葉だった。


---


心のどこかが静かに沈む。


---


ああ。


---


終わったんだな。


---


そう思った。


---


涙は出なかった。


---


泣き叫びたくもならなかった。


---


ただ。


---


寂しかった。


---


本当に寂しかった。


---


彼女は何かを話していた。


---


申し訳なさそうに。


---


真剣に。


---


誠実に。


---


でも途中からあまり覚えていない。


---


頭が真っ白だった。


---


それでも一つだけ覚えている。


---


彼女も苦しそうだった。


---


だから。


---


俺は少しだけ笑った。


---


たぶん変な顔だったと思う。


---


でも笑った。


---


そして言った。


---


「ありがとうございます」


---


彼女が驚いた顔をする。


---


当然だ。


---


振られた直後に言う言葉じゃない。


---


でも。


---


その時の俺には、


その言葉しか浮かばなかった。


---


ありがとう。


---


好きにならせてくれて。


---


笑わせてくれて。


---


幸せな時間をくれて。


---


未来を夢見させてくれて。


---


ありがとう。


---


本当にありがとう。


---


心の中では、


まだ悲しみが暴れていた。


---


傷もあった。


---


怒りもあった。


---


責める気持ちもあった。


---


全部あった。


---


でも。


---


それ以上に、


感謝があった。


---


この半年。


---


俺は本当に幸せだったから。


---


帰り道。


---


一人で駅へ向かう。


---


夕焼けはもう消えていた。


---


街灯が灯り始めている。


---


スマホを見る。


---


何も変わらない。


---


世界も変わらない。


---


明日になれば朝が来る。


---


会社へ行く。


---


彼女もいる。


---


たぶん同じように。


---


だけど。


---


俺だけは少し変わった。


---


逃げなかった。


---


伝えた。


---


そして終わった。


---


悲しい。


---


本当に悲しい。


---


それでも。


---


後悔だけは無かった。


---


胸の奥に残るのは、


痛みと、


寂しさと、


そして小さな感謝だった。


---


好きになってよかった。


---


その気持ちだけは、


最後まで嘘にならなかった。


---


そして俺は知らない。


---


この別れの先で、


本当の「ありがとう」の意味を知ることになることを。


---


(第七話・完)

お読み頂き、ありがとうございます。

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