表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せの愛し方  作者: 涙目
PR
4/5

第四話 嘘

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

幸せな時間は、


終わる時に終わるとは限らない。

時々それは、

壊れる。


---


最初は小さな違和感だった。


本当に些細なもの。

気のせいと言われれば、それで終わる程度のものだった。


「あれ?」


そう思うことが増えた。


言っていたことと違う。

前に聞いた話と繋がらない。


些細な矛盾。

小さな食い違い。


だけど、

人間なんてそんなものだ。


記憶違いもある。

勘違いもある。

言い間違いもある。


だから俺は、

見ないふりをした。


いや、


違うな。


見ないようにした。


信じたかったからだ。


好きだったからだ。


人は信じたいものを信じる。

好きな人ならなおさらだ。


だから俺は、

自分の違和感に蓋をした。


でも、


蓋をしても、

違和感は消えなかった。


むしろ少しずつ大きくなった。


---


ある日。


偶然だった。

本当に偶然だった。


聞くつもりはなかった。

知るつもりもなかった。


だけど、

知ってしまった。


今まで信じていたものが、

違っていたことを。


頭が真っ白になった。


信じられなかった。


いや、


信じたくなかった。


胸の奥が冷たくなる。


嘘だったのか。


最初に浮かんだ言葉は、それだった。


うそ。


たった二文字。


でも、


その二文字は、

思った以上に重かった。


---


帰り道を覚えていない。


何を考えていたのかも覚えていない。


ただ、

胸の中で何度も同じ言葉が繰り返されていた。


嘘だったのか。


嘘だったのか。


嘘だったのか。




---


家に帰る。

スマホを見る。


彼女からメッセージが来ていた。


いつも通りの内容。

何も知らない顔。


いや、

知っていたのかもしれない。


わからない。

もう何もわからなかった。


返信しようとして、

指が止まる。


何を書けばいい。


怒ればいいのか。


責めればいいのか。


聞けばいいのか。


わからなかった。


俺はスマホを伏せた。


---


その日は眠れなかった。

何度も目が覚めた。


天井を見つめる。


暗い部屋。

静かな夜。


なのに心だけが騒がしい。


悲しかった。

ただ悲しかった。


なぜだろう。


怒りより先に、

悲しさが来た。


裏切られた。


そう思った。


でも、

もっと奥には別の感情があった。


信じていたのに。


その気持ちだった。


---


次の日。


会社へ行く。

彼女がいる。

いつも通り。

笑っている。


「おはようございます」


いつも通りの声。

俺も返す。


「おはようございます」


同じ言葉。

同じ光景。

同じ朝。


なのに、


昨日までとは何もかも違って見えた。


不思議だった。


人は一つの事実を知るだけで、

世界の見え方が変わる。


あんなに安心していた場所が、

急によそよそしくなる。


あんなに温かかった時間が、

急に遠く感じる。


彼女が悪いのか。


俺が悪いのか。


そんなことは分からない。

ただ一つだけ分かった。

俺は傷ついていた。


思った以上に、

深く。


---


その日の昼休み。


同期たちが笑っていた。

彼女も笑っていた。

俺も笑った。

ちゃんと笑えた。


社会人だから。

大人だから。

空気は読める。


でも、

心だけが置いていかれていた。


まるで、

一人だけ違う季節にいるみたいだった。


幸せだった日々を思い出す。


---


昼休み。

帰り道。

他愛もない会話。

夕焼け。

メッセージ。

笑顔。


全部思い出せる。


全部本物だった。


少なくとも俺にとっては。


だから苦しかった。


もし全部嘘なら、

こんなに苦しくない。


もし最初から嫌いなら、

諦められる。


でも違った。


俺は確かに幸せだった。


幸せだったからこそ、

傷ついた。


---


その夜。


一人で歩いた。

夜風が少し冷たかった。


空を見上げる。

星は見えない。

街の灯りが明るすぎるから。


ふと笑う。


人生は面白い。

ようやく誰かを好きになれたと思った。

幸せだった。

本当に幸せだった。


なのに今は苦しい。


人の心は不便だ。


好きになった分だけ傷つく。


信じた分だけ苦しくなる。


それなのに人は、

また誰かを信じようとする。


なぜだろう。


答えはまだわからなかった。


ただ、

一つだけ確かなことがあった。


俺の中で何かが壊れた。


そして同時に、

俺の中にはまだ、

消えていないものもあった。


怒りの下に。

悲しみの下に。

傷の下に。


まだ、

好きが残っていた。


それが何より苦しかった。


嘘だったのか。


俺は何を信じていたんだろう。


---


(第四話・完)

お読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ