第四話 嘘
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
幸せな時間は、
終わる時に終わるとは限らない。
時々それは、
壊れる。
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最初は小さな違和感だった。
本当に些細なもの。
気のせいと言われれば、それで終わる程度のものだった。
「あれ?」
そう思うことが増えた。
言っていたことと違う。
前に聞いた話と繋がらない。
些細な矛盾。
小さな食い違い。
だけど、
人間なんてそんなものだ。
記憶違いもある。
勘違いもある。
言い間違いもある。
だから俺は、
見ないふりをした。
いや、
違うな。
見ないようにした。
信じたかったからだ。
好きだったからだ。
人は信じたいものを信じる。
好きな人ならなおさらだ。
だから俺は、
自分の違和感に蓋をした。
でも、
蓋をしても、
違和感は消えなかった。
むしろ少しずつ大きくなった。
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ある日。
偶然だった。
本当に偶然だった。
聞くつもりはなかった。
知るつもりもなかった。
だけど、
知ってしまった。
今まで信じていたものが、
違っていたことを。
頭が真っ白になった。
信じられなかった。
いや、
信じたくなかった。
胸の奥が冷たくなる。
嘘だったのか。
最初に浮かんだ言葉は、それだった。
うそ。
たった二文字。
でも、
その二文字は、
思った以上に重かった。
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帰り道を覚えていない。
何を考えていたのかも覚えていない。
ただ、
胸の中で何度も同じ言葉が繰り返されていた。
嘘だったのか。
嘘だったのか。
嘘だったのか。
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家に帰る。
スマホを見る。
彼女からメッセージが来ていた。
いつも通りの内容。
何も知らない顔。
いや、
知っていたのかもしれない。
わからない。
もう何もわからなかった。
返信しようとして、
指が止まる。
何を書けばいい。
怒ればいいのか。
責めればいいのか。
聞けばいいのか。
わからなかった。
俺はスマホを伏せた。
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その日は眠れなかった。
何度も目が覚めた。
天井を見つめる。
暗い部屋。
静かな夜。
なのに心だけが騒がしい。
悲しかった。
ただ悲しかった。
なぜだろう。
怒りより先に、
悲しさが来た。
裏切られた。
そう思った。
でも、
もっと奥には別の感情があった。
信じていたのに。
その気持ちだった。
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次の日。
会社へ行く。
彼女がいる。
いつも通り。
笑っている。
「おはようございます」
いつも通りの声。
俺も返す。
「おはようございます」
同じ言葉。
同じ光景。
同じ朝。
なのに、
昨日までとは何もかも違って見えた。
不思議だった。
人は一つの事実を知るだけで、
世界の見え方が変わる。
あんなに安心していた場所が、
急によそよそしくなる。
あんなに温かかった時間が、
急に遠く感じる。
彼女が悪いのか。
俺が悪いのか。
そんなことは分からない。
ただ一つだけ分かった。
俺は傷ついていた。
思った以上に、
深く。
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その日の昼休み。
同期たちが笑っていた。
彼女も笑っていた。
俺も笑った。
ちゃんと笑えた。
社会人だから。
大人だから。
空気は読める。
でも、
心だけが置いていかれていた。
まるで、
一人だけ違う季節にいるみたいだった。
幸せだった日々を思い出す。
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昼休み。
帰り道。
他愛もない会話。
夕焼け。
メッセージ。
笑顔。
全部思い出せる。
全部本物だった。
少なくとも俺にとっては。
だから苦しかった。
もし全部嘘なら、
こんなに苦しくない。
もし最初から嫌いなら、
諦められる。
でも違った。
俺は確かに幸せだった。
幸せだったからこそ、
傷ついた。
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その夜。
一人で歩いた。
夜風が少し冷たかった。
空を見上げる。
星は見えない。
街の灯りが明るすぎるから。
ふと笑う。
人生は面白い。
ようやく誰かを好きになれたと思った。
幸せだった。
本当に幸せだった。
なのに今は苦しい。
人の心は不便だ。
好きになった分だけ傷つく。
信じた分だけ苦しくなる。
それなのに人は、
また誰かを信じようとする。
なぜだろう。
答えはまだわからなかった。
ただ、
一つだけ確かなことがあった。
俺の中で何かが壊れた。
そして同時に、
俺の中にはまだ、
消えていないものもあった。
怒りの下に。
悲しみの下に。
傷の下に。
まだ、
好きが残っていた。
それが何より苦しかった。
嘘だったのか。
俺は何を信じていたんだろう。
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(第四話・完)
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