3つの問題
翌日、吹雪ちゃんは学校を休んだ。
白尾春奈ちゃんによると、今までは一日たりとも休んだことはなかったという。
「何か特別なことでもあったのかしらね」
と白尾春奈ちゃんは探るような眼で安彦を見たが、安彦も吹雪の気持ちは知っている。勝手なことは言えなかった。
とにかく、安彦も安彦なりに昨日の廃工場について考えてみることにした。
問題は、退魔師の吹雪ちゃんが見ても、廃工場自体に何かあるようには思えない、という点だろう。
だが、重機は何もないコンクリートの平面で倒れた。
どこかに、障りはあるのだ、と安彦には思えた。
そして神様が教えてくれた、あの奥の山の奇怪な二柱の、神様か仏様か、なにか。
平五は平成五年と思われるので、その年まで、毎年、布を新しくしていたことと、昭和十九年までは二柱の神様? を交互に祭っていたらしいことが分かっている。
そのあたりに謎のヒントはありそうだが、とはいえ、それだけでは何も分からない。
分からない、と言えば工場にも、何かがあったように思えるが、何があったのかは分からない。
奥さんと娘さんが、同時に工場を見れなくなったとして、それだけで順調に稼働している工場を廃する理由にはならないはずだ。何にしろ、娘さんは生きているのである。
その状態で工場を止めてしまった原因が、今でも何も語ろうとしない元従業員の態度に表れているように安彦には思える。
何かがあったのだが、語れない、という事に他ならないのではないか?
現雇用者である今井の殿様にさえ語れない、しかも廃工場に手を付けてはいけない、とさえ言っている事実が、逆説的に、何か、を立証しているように安彦には思えた。
だから…。
あの廃工場には何かがあり、従業員は中島永信がお祓いをした今でも、何かがあり続けている、と思うから語れないのではないか?
そして、その何か、の一片間違いなく山の社だと思う。
もし、あれがどういう神様か仏様を祭ったものか分かれば、謎の何分の一かは分かるのかもしれない。
が、それは現段階で、安彦が無い知恵をいくら絞ったところで分かるものではない。
では他に、何か問題はないのだろうか?
うーん、と唸りながら安彦は考えた。
話を整理してみるか…。
まずは…。
今井の殿様の後輩にあたる滝沢氏。
彼は仕事も順調だったのに、鬱になり、そうそう、その前に目が悪くなり、変な声が聞こえるようになった。
一点。滝沢氏が聞いた声とは何か?
うんうん、と安彦は自分の成果に目を細めた。
滝沢氏が何を聞いたのかは、ぜひ調べるべきだ。
それから後は…。
滝沢氏は首を吊ったが、会社自体は奥さんと娘さんが後を継ぎ、良くやっていた。
だが、東京、秩父の往復に疲れたのか、ある日高速で事故を起こしてしまう。
奥さんは亡くなり、娘さんは寝たきりになった。
滝沢氏の首つり自殺が、声、と関係しているとして、工場の従業員が、話せない、しかも、廃工場に手を付けてはだめだ、というような何か、があったのだとしたら、この母子の事故は、単なる疲労や不注意が原因のものなのだろうか?
あるいは、寝たきり、という娘さんなら、何かを知っていてもおかしくはない。
ただし、安彦のような無関係の子供が聞きに行っても、大変な失礼にあたるだろうし、今井の殿様の顔を潰すことにもなるので、慎重に伝手をたどって会いに行かなければならない。
だが、娘さんに話を聞く、は重要なヒントになるはずだ!
そこまで考えた時…、
「窪田~」
と、安彦の前に先生が立った。
「お前、よく五人しか生徒のいない教室で間抜けヅラして妄想なんかしてられるよなぁ~」
「あっ、いや、先生。これは変なことではなくって、結構重要な…」
わたわたと言い訳をしようとするが、ノートにいろいろメモっていたので、安彦は出席簿で頭を叩かれてしまった。




