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――帝王が疾走する。
再生したばかりの首が再び斬り刻まれ苦悶の雄叫びを上げた。
傷の1つ1つが小さい点を見るに、本当に囮として嫌がらせの攻撃だったことが分かる。
しかしその効果は抜群だったようで、4つある首の全てが帝王に注目した。よほど痛かったのだな。
「ポンさん!! なる早でお願い……!」
多頭竜の周囲を大急ぎで回り、互いの首が邪魔になってブレスの射線が切れるように動きながら帝王が叫ぶ。
なるべく早く、という意味であろうな。
それでは私の方も準備を進めよう。
――空間収納は別世界に用意した擬似的な新世界である。もちろん規模が小さすぎて世界の創造と自称していいような代物ではない。
例えるなら――広い土地に置き場所としてロープで囲ったエリアを設置するようなものだ。家の建築と比べるとあまりにも規模が小さい。
そこと現在地を繋ぐ穴を開け荷物を投入するわけなのだが、『必要エネルギーが穴の直径に比例する』という法則がある。
世界間の安定に逆らう力なので仕方ないのだが、あの多頭竜を丸ごと呑み込む大きさの穴となると膨大なエネルギーが必要になってしまうわけだ。
つまり私が頑張らねばならないポイントはその辺りである。世界からの抵抗を想像するだに少し気が重くなるくらいの作業量だ。
「だぁ! ほっ! まだまだぁ!」
見ると帝王の方も頑張って避けているので私の方も応えねばならんな。
まずは壁の向こう、別世界に干渉し収納する用の空間を準備して囲う。
そして帝王を巻き込まないよう注意しながら穴の展開範囲を設定。
のんびり神域と繋ぐ暇は無いので、今回は本体から必要エネルギーをごっそり持ってきた。
――今だ!
跳び上がった帝王を追いかけ、4つの首が真上に伸びた瞬間を狙って多頭竜の真下に穴を展開、落下させる。
むう……!
脚が1本引っ掛かったな。計測時より1歩外に踏み出していたらしい。
その1歩分の拡張エネルギーがまた膨大なので勘弁して欲しいのだが……!
「――落ちろ!」
追加の魔力を本体から引き出し一気に穴を拡張。
まるで井戸に落とされる桶とロープのような挙動で、憐れな多頭竜は空間収納へと一瞬で姿を消した。
急いで穴を閉じる。
表面張力にも似た世界からの圧力が強すぎるというのもあるのだが、穴を広げたせいで着地場所が無くなり空中で帝王が慌てていたのである。
「……っぶなかったぁ! でもポンさんさすが!」
辛うじて着地に成功した帝王が側転で減速しながらこちらに寄ってくる。非常に身軽だ。
「ありがとう。囮役お疲れ様だったな」
――閉じ込めた多頭竜はというと、現在は収納内で大暴れしている。
だが空間干渉能力を持っていても、この場所と正確に繋げる技術を持っていないと戻ってくることはできない。
防ぐことと破壊することしかできない程度の干渉能力ならば問題ないというわけだ。
「ポンさんこそ。あの大きさ大変だったでしょ?」
「……まぁな」
「――ふふっ。ポンさんでもそんな顔することがあるって分かって安心したよ!」
全く。私を何だと思っているのだ……。
私にも能力の限界くらい存在するのである。




