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9-1

 

「――良くやってくれた……!」


 ゆっくり降下し着地した私に目を輝かせて話し掛けてきたのはトマス氏である。

 臨時の対策本部は2階層への階段から近い位置にあるだけに、彼もきっと生きた心地がしなかったことであろう。天竜が倒されたのを見て走って来てくれたようだ。集まっていた冒険者たちは大人しくギルマスに道を譲っている。


「ありがとう。だが、どうやらダンジョン側が本気になっているようだ。周辺の住民を含め避難を始めた方がいいだろう」


 トマス氏はそれを聞いて露骨に顔を顰める。


「まだ終わっていないということか……」


「ああ。あの程度でダンジョンの生産力が尽きるとも思えん」


「……天竜はけっこう凄い魔獣だぞ?」


 む、そうなのか。

 ――いや、それは分かっているつもりだが、たった1体でこの大規模ダンジョンの生産リソースが枯渇するはずがないと思っているだけである。


「とにかく――恐らく少し時間を置いて次が来るであろう。ダンジョンが天竜より強い魔獣を生産できるのかは分からないが、今回よりも苛烈になるのが容易に想像できる」


「それはいかんな……。だが周辺にも大量発生している以上、逃げ場所は限られている。精々中央から離れ、外縁部に身を寄せる程度になるだろうな」


 確かに。

 食い止めているとはいえ中央からと外からの挟撃を受けている状況なのだ。

 小康状態を保っているから何とかなっているが、元々避難場所の候補はあまり多くない。




「――ポンさん!」


 少年の声に呼ばれたのでそちらを見遣ると、都市の外で大量発生の相手をしていたはずの帝王が走ってきていた。

 もちろん顔の上半分を蝶を模した仮面で隠したままである。もう少しシンプルな仮面は無かったのだろうか。


 周りを取り囲んでいた冒険者たちは真面目な話が始まったためか少し遠巻きになってしまっている。そのため帝王は私達のすぐ側まで近寄ることが出来た。


「テオ。外を任せていたはずだが、大丈夫なのか?」


 トマス氏も驚いた顔をしている。――金髪で仮面を付けた謎の人物が都市の外で暴れているという報告を受けていたはずだ。

 そんな正体を隠したがっている人物がまさか自分の前に普通に現れるとは予想外だったのだろう。


「一応レミリアを残して来たから――。それより、外の魔獣が全部消えちゃったんだよね。こう、ブワッと。それで中の様子を覗いたら凄い光が見えたんだけど、こっちで何があったの?」


 ――なるほどな。外と中央は連動していたようだ。


「天竜が出た。恐らくダンジョン側が本気を出したらしい」


「うわぁ。天竜かぁ……」


「こちらでも大量発生が始まっていたのだが、天竜の発生と引き換えなのかこちらの魔獣も全部黒いモヤになってしまった。――と、いうことは子ダンジョンとは中央ダンジョンの子ではなく分身のようなものなのだろう」


「ん? どういう意味?」


「親子のような別人格ではなく、実は中央ダンジョンの一部だった可能性が高い。つまり魔獣生産のためのエネルギーを共有している関係だな」


「――ああ。天竜を作るためのエネルギーを子ダンジョンからも掻き集めたんじゃないか、ってことか……」


 私は頷く。さすが帝王、理解が早い。

 南に出現した大型ダンジョンが誕生間もないにも関わらず大型魔獣をどんどん生産していたので怪しいとは思っていたが、これで確定だな。


「――それで頑張って作った天竜をポンさんにあっさり倒されてしまったと。……何だか可哀想になってきた」


 いやいや。市街に被害を出さないように戦うのは大変だったのだぞ?


 そうやって帝王と情報共有していると、黙って見ていたトマス氏が割って入ってきた。責任者として見ているだけというわけにもいかないのだろう。





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