3-9
拳帝の部屋から転移門を繋ぎ自宅に戻ると、ちょうど夕食の準備が終わった辺りのようであった。
調理場の手伝いも終わっていたのでフロッサを呼んで拡張鞄の制作を開始する。
「おや、新しい鞄を買われたのですか?」
今日の作業を粗方終えたメリルも居間にやってきた。やっと休憩のようだな。トレーの上にお茶とお菓子が載っている。
「うむ、フロッサ用にな。――このように神の言語を使用し時間停止の魔法陣を蓋と本体を跨ぐように焼き付けてやると――蓋を閉じれば中の時間が停止する鞄になるわけだ」
「それは食材が傷まなくていいですねぇ」
「うむ。そしてこちらの板には空間を拡張する魔法陣を焼き付けてあるので、これを鞄の底板と交換して仕込んでやると――」
茶を飲むメリルの動きが止まった。
「……大変なものが出来上がりませんか?」
「大型倉庫並みの容積を備えた、大変便利な鞄が完成だ」
メリルはカップを持っていない左手で前頭部を押さえる。頭痛がするらしい。
「ポン様……申し上げにくいのですが、それは『便利な道具』ではなく一般的には『宝物』と呼ばれるものです……」
「確かに大事に扱うべきだな。壊れると中身が全部出てくるであろう」
「いえ、そういう意味ではなく。国宝的な意味です」
「ふむ? 簡単に作れるが……?」
「それは多分ポン様だけですね……。良くも悪くも使い勝手が良すぎます。悪人に狙われる心配をした方がよろしいかと」
「それは問題だな……。では迷子札代わりに金具を1個増やしておこう。――フロッサ、これを奪われそうになった際は放り投げて逃げろ。私が後で回収してくる」
「ええと。分かりました。でもなるべく人前で使わないようにします!」
「うむ、それがいいだろう――」
そこでメリルが咳払いをした。
「んんっ。ところでポン様。その鞄をあちこちに配ったりはしていませんよね?」
おっと。これはいけない流れだ。
便利な物なので知り合いに配ろうかと考えていた事は機密事項に認定された。
「今のところはフロッサと組んで戦闘経験を積んでくれる少年少女たちに1つ。先ほど帝国に行った際に拳帝に1つの2つだけだ。これが3つ目だな」
「……帝国は一応この国の仮想敵国ですので、無闇に利益提供しない方がいいと思います」
「なるほど、女王に怒られるわけか……」
拳帝に遣ったあれは秘密の酒蔵になるようなので、しばらくは大丈夫ではなかろうか。
うむ、この辺りで止めておこう。
せっかく便利な道具を作れるようになったのだが、作って怒られるならば仕方ない。少し楽しくなっている場合ではなかったようだ。残念。
――フロッサの腰に合わせてベルトの長さを調節してやっていると、しばらくして赤ん坊を抱いたアンナが部屋から出てきたりお使いに行っていたアリシアが帰って来たりして夕食の時間となった。
大きな塊だった猪肉は薄切りにされ、小分けされて様々な味を試すような形で何枚もの皿で焼かれて出てきた。
どの香辛料やソースが1番合うのか食べ比べを行なうらしい。
また楽しそうなことをやっているな……。
私は不参加なので自室に退散しつつ明日からの予定を考える。
明日からは中央ダンジョン、つまり都市そのものの地下へと探索の足を向けるわけだ。
目的としては、ギルドマスターからの依頼を適宜こなしつつスキルオーブをいくつか入手してくることである。
恐らく大量に倒した際に手に入るので、魔獣の群れや巣穴が無いか重点的に探してみるとしよう。




