3-8
拳帝に連れられ屋敷の3階へ向かった。
「そういや来る途中よく誰とも会わなかったな?」
「む? 何人かとはすれ違ったが特に何も無かったぞ」
「それはそれで問題だなオイ」
雑談しながら向かい、ある扉の前でたち止まる。
どうやらここが水帝の部屋らしい。拳帝がノックした。
「――はい。あら拳帝さん?」
「水帝に客だぞ」
「私にですか? ――あらまぁ、ポンさん!」
「急にすまないな。例の物の解析が終わったので持ってきたところだ」
「なんで隠すんだ。宝箱でいいだろ」
「まぁぁ宝箱ッ! どうぞお入り下さい!」
宝箱と聞いて一気に興奮する水帝。
拳帝は『しまったこういうことか』という顔をしたが手遅れである。私共々手をがっしりと掴まれて意気揚々と部屋に引き摺り込まれてしまった。
水帝の部屋は拳帝の部屋の倍くらいの広さがある大きな部屋であった。勝手に部屋中に宝箱が転がっているような部屋を想像していたが、特にそのような事もなく普通に片付いた部屋である。
ともあれ手を離してほしいので部屋の中央に空間収納を開き宝箱を出現させた。――水帝は即座に私達から手を離し宝箱へと飛び付く。
「ああ会いたかった! この輝き……肌触り……! さながら天上の枕のようです!」
寝具には向いていないと思う。きっとそういう定型文のような比喩表現があるのだろうな。
「驚いた。別人かと思ったぜ……」
「そうか? 愛好家は大体こんな感じでは?」
「お前の交友関係が心配になってきたわ。――そういや解析が終わったとか言ってたよな。宝箱のどの部分を再現可能なんだ? 罠か?」
「罠を再現してどうする。収納部分に決まっておろう」
「……大型倉庫くらいあるって言ってなかったか」
「あるな。別に難しくないぞ。こう――木の板でも準備して魔法陣をだな――」
「いやいや作成しなくていい――」
「できた。これを鞄に仕込めば鞄の容量が増える」
手の平サイズで作成した大黒檀の板を拳帝に投げて寄越した。拳帝は回転しながら飛んできた板を指先で掴んで止める。さすが動体視力が高い。
「またとんでもないものをサラッと作りやがって。なんか制限とかあるのか?」
「いや、鞄の口より大きいものは入らないが、それ以外は特に無いと思うぞ。ああ、生モノは普通に腐るので入れないことをオススメする」
「ふぅん。……こっそり酒を持ち歩くのにちょうど良さそうだな」
「怒られても知らんぞ……」
水帝がなかなか自分の世界から戻って来ないが、ここは自室なので別に放置でいいかということになり退室して扉を閉めた。しばらくしたらきっと我に返るだろう。
拳帝の部屋に戻ると、彼は早速腰のポーチに板を仕込んで拡張したかと思うと酒瓶を次々に投入していた。着替えとかも入れておいた方がいいと思うぞ。
「先ほど帝王が不在だと言っていたが、何か目的を言っていたか?」
「ん? 俺のところまでは特に情報が下りてきてないが。何かあるのか?」
「いや――今デュラムというダンジョン都市国家に居るのだが、帝王と光帝らしき2人組を近くで見かけてな。何をやってるのだろうかと」
「さぁな。――討伐依頼か何かじゃないか? 心配しなくても帝王様ならおかしなことにはならんだろ」
ふむ。まぁ、そうか。
多少光帝が暴走したとしても強制的に帰宅させるくらいはできるはずだ。杞憂だったか……。




