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獲物は既にこちらに気付いている様子。
あれだけ音を立てて近付けば当然か。
己の武器である頭をフロッサに向け、じっと力を溜めているようだ。
兎は臆病な動物のはずだが……魔獣だけに応戦する程度には好戦的なのだろう。
「――にょわっ!?」
遠目には兎が可愛らしくぴょんと跳んだようにしか見えなかったが、突進された側からすると恐るべき攻撃だったのだろう。フロッサは身を捩って兎の攻撃を回避する。
「短剣で受け止めるような感じで反撃してみたらどうだ。本当に受け止めるのではなく、軌道上に短剣を置いておくような感じだ」
「で、できるかなぁ!? やってみる!」
まだ能動的に攻撃するのは厳しいだろう。まずは相手の攻撃を利用してとにかく傷を付けるところから始めた方がいい。
魔獣は草の上にぽふんと着地しジタバタしながら反転――再びフロッサへと跳びかかった。
「――そこだっ!」
回避しながら逆手に持った短剣を振り抜くフロッサ。
2つの影は一瞬の交差を経て――兎の魔獣は黒い煙と化し小さい肉を残して消えた。
「……ふう。死闘だった……」
兎1匹で何を言っているのか。
何やらツヤツヤの紙で包まれている肉を拾い上げて空間収納へと放り込む。紙に包まれているのは正直意味が分からないが気にしないことにした。
魔獣の戦利品が出たのを初めて見たがこんな感じなのだな。
「フロッサ。手首を痛めているだろう。見せてみろ」
「うー。バレたか……」
傷を付けるので精一杯予測のところを倒すところまで行っているのだ。腕に無理な力が掛かったに決まっている。
診てみると重くはないもののやはり痛めていたので治癒魔術で治してやった。
「これでよし――では次にいこう」
「もう? もっとこう、余韻に浸るとか……」
「それは帰ってからで良かろう。今は経験を詰むぞ」
「ああっ……きっと私は殺戮機械にされるんだ――『ワタシ マジュウ コロス コロス』――ああでもクーデレ美少女路線も悪くないなぁ……」
まだ兎1匹で何を言っているのか。
馬鹿なことをやってないで次に行くぞ。
小さい魔獣の反応を選んでフロッサに戦わせていく。
1階層目ということもあるのか兎と猪の魔獣しか居ないようではあるが、猪の方は少年少女のパーティでも苦戦していたのでフロッサ単独ではまだ危ない。
確か経験値分配システムというのがあったはずなので、兎とはいえ戦闘を重ねていくだけでも多少は身体能力が上がるだろう。多分。
「――せいっ」
「――そおいっ」
「――どりゃっ」
うむうむ。頑張っているな。
少しは慣れたのか数回の反撃で兎を仕留めることができるようになってきた。掛け声の語彙力が豊富なのはきっとそういう文化なのだろう。
しかし7匹ほど倒したところでグニャリとしゃがみ込んでしまった。
「命のやりとりがこんなにしんどいとは……。ちょっと休憩していい?」
精神的に疲れてきたようだな。
こればっかりは事前に鍛えておくのは難しいので現場で慣れていくしかない。別に悪いペースではないと思うのでコツコツやっていけば良い。
もちろん許可して丸椅子を出してやった。水分補給は朝方楽しそうに水筒を準備していたので自分で行なうだろう。
――む? お菓子?
……そういえば買っていたな。出してやるか……。




