第三話 日常
「おさしみ、って美味しいのかな?」
「Umm,オルフェよ、それをどこで聞いたんだ?」
「テレビでやってた!ジャポネって言う国では、お魚を生で食べる文化があるんだ!って!」
「ジャポネか、あの国はヘンタイが多いというからな、俺達が食わんものも食う、って文化があるんだとか、そんな話を聞いた事があるな。刺身ってのは、生魚をスライスして、豆を熟成させた液体を付けて食べる、だったか?醤油、という名前だった覚えがあるがね。オルフェ、食べてみたいか?」
アーヴィンが家にいる時間と言うのはあまり長くない、基本的には一年間を異世界で過ごして、そして数か月から一年でまた次の戦場へと向かう、それがアーヴィンにとっての当たり前だった、だからこそ、家にいる時はオルフェの相手を積極的にしていた、家族のきずなと言うのはアーヴィンにとってもオルフェにとっても大切な事柄だ、それが相互的な認識だった。
「ヘンタイ、ってなあに?」
「Umm,そうさな、俺達とは相いれない、少し変わった連中の事だ、ジャポネの連中はそうさな、なんでも食い物にするらしい、俺達からしたら豆が腐った物、だったとしても、連中からしたら納豆なんていう食べ物に見えるんだとか、そんな話だったな。」
「くさったお豆を食べるのー!?」
「hahaha!食文化の違いと言うやつだな、俺達が腹を下さんように食材を加熱して食べる様に、連中には連中なりの流儀がある、そういう事だ。」
アーヴィンは自慢のジェリーカールヘアを整え、愛銃であるバレットM82を磨いていた、これがなければ仕事にならない、基本的にはこれで仕事をするのだから、手入れを欠かしてしまったら死ぬだけだ、それがアーヴィンの教育方針だった、いずれかはオルフェに継いでもらわなければならないジグモンド家、と言うのを性格に継承する為に、アーヴィンは幼いオルフェに対しても、戦場で新入りに教える様な事を教えていた、自分がいつ死んで、オルフェがいつジグモンド家を継ぐのかがわからない以上、それは必須だ、と。
「お父さんは生のお肉とか食べないの?ミディアムレア、って言うお肉の焼き方もあるんでしょう?」
「Umm,オルフェよ、俺達英雄稼業ってのは、何処で毒を盛られて何処で死ぬかわからん仕事だ、ミディアムレアの肉なんぞ食って腹でも壊してみろ、腹を下していつものペースが保てず、そして殺されるだけだ。だから俺は食わんのだよ、これから先オルフェもそう言う未来を進むだろうな。」
「わかった!」
目をキラキラと輝かせながら、オルフェはアーヴィンが磨いている銃を眺めていてる、対物ライフルであるバレットM82は、基本的には地において扱う銃だ、一キロ以上先の狙撃対象を目標として「持って撃つと反動が凄まじく、肩を壊しかねない」と言われている類のライフルで、アーヴィンに「神」が与えた権能が銃の形をしている、その基本形がM82と言う話だ。
これが別世界にいって、戦争において英雄として活動するに当たっては「その世界に準じた武器の形」になる権能で、狙撃銃と言われる類になる事があれば、銃の技術が進んでいない世界ではマスケット銃と呼ばれる銃に変化する可能性もある、そんな形をした「権能」がこのバレットM82だ。
それをアーヴィンは両手で持って撃つ、地面において固定して撃つのではなく、両手に持って反動を受けて撃つ、それが出来るだけの技術がなければ、英雄稼業など務まらないのだろう。
いつの日かオルフェがジグモンド家を継ぐに至ったら、神は権能を与えるのだろう、アーヴィン自身どういった神で、どういった立ち位置で、どういう意味合いがあって英雄を駆り出しているのか、それに関しては知らない、ジグモンド家の歴史として英雄、ガンナーの傭兵を輩出してきたから、自分もそれに倣っただけだ、アーヴィンの意識はその程度だった、昔、オルフェにとっては祖父に当たるアーヴィンの父に憧れていた時期があった、今のオルフェの様に、英雄譚をせがんではわくわくして、「自分もいつか英雄になるんだ」と夢を持っていた時期もあったな、とは思っていたが、それ以外に関しては「ジグモンド家がガンナーの英雄を輩出してきたから、自分もその歴史に従った」という意識しかなかった、アーヴィンの父が亡くなってから久しいが、かつての話と今の話をするのであれば、得体も所在も知らない神に使役されて、人を殺しているのだから世話はないだろう。
「オルフェよ、お前さんは神をどう思うかね?」
「神さま?どう思うって、うーん……。」
「まぁ、まだわからなくても良いがね、いつかはお前さんも神に使役されて英雄として活動をする様になるんだろう、その時に、神の所在を聞いてみるのは良いかもしれんな。ふむ、電話が来た、出てこよう。」
「行ってらっしゃーい!」
電話が鳴った、と言うのは、アーヴィンに神から指令が来た、と言う暗黙の了解で、アーヴィンはガラパゴス携帯を持って神と交信をする、交信自体にガラパゴス携帯は必要ないのだが、何もない虚空に向かって話をしている、よりはガラパゴス携帯に向かって話をしている方がまだマシだ、と言うアーヴィンの方針から、そうしてるという現在があった。
「ふむ、ふむ、ふむ。Umm,了解した。」
「お父さん、行っちゃうの?」
「そうだな、行ってこなければならん様だ、母さんにワガママを言わない様に、良い子でいるんだぞ?何かあった時、お前さんにルミナを任せにゃならんのだからな。」
「うん!お母さんの事守る!」
「hahaha!では、行ってまいる。」
神との交信を終えたアーヴィンは、仕事着に着替えに部屋に行く、仕事着と言うのは軍服の事で、迷彩柄のズボンにジャケット、そしてドックタグを付けていくのがアーヴィンの普段だ。
ドックタグ、いつの日か戦場で散っていった場合に、肉体が形を保っていなかったり、運べない状態だった場合に「死んだ証明」をするペンダント、それをしなければアーヴィンの死の証明は出来ない、別の世界と言う戦場に赴いて、そして英雄としてガワをかぶって活動するにあたって、それだけは欠かせないと言うのがドックタグだった。
ある意味ではお守り、かつてのジグモンド家の人間達のドックタグは、一軒家であるジグモンド家の地下一階の展示室においてある、歴代のジグモンド家の当主たる英雄達が使っていた武器と、それに付随するドックタグは、重要に保管されていた、オルフェはまだ入る事を許されていない、いつの日かアーヴィンのドックタグとM82を保管する為に張らなければならないであろう保管室、それが地下にある隠し部屋だ。
「お父さん、行ってらっしゃい!」
「うむ、行って参るぞ。」
軽く出かける様に、オルフェの頬にキスをして、アーヴィンはその場から消えた、神が権能をもってアーヴィンを戦場へ送った、オルフェが理解しているのはそれだけだった。




