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第二十六話 戦場に降り立つという事

「……。了解した、俺が赴けばいいんだな?」

 ……

「hahaha!親父にそっくりになったのがそんなに信じられないかね?」

 オルフェが二十歳になってすぐ、オルフェに対して神が交信をしてきた、「神が交信をしてきた事」が「英雄として戦地に駆り出される事」だという事を理解していたオルフェは、父アーヴィンの様に準備をする、迷彩服に身を包んで、ドッグタグを付けて、ピアノブラックなブーツを履いて、そして上着としてルミナの瞳の色と同じだった、空色のダッフルコートを羽織る。

「……。」

 オルフェを守る者はもういない、ルミナはアーヴィンが亡くなってから数か月後、に亡くなってしまった、アーヴィンを追いかける様に、急に衰弱して、そして亡くなっていった、オルフェは泣く事をしなかった、独りで生きていかなければならない事、涙は意味をなさない事、それらを「正しく理解してしまった」オルフェは、涙を流す意味を失ってしまった、とも言えるだろう。

 家を出る前に、家中の施錠をして、シャッターを閉めて、魔力を籠めて侵入者が入れない様に、と堅牢な守りの城壁とする、そして、オルフェは飛んだ。

「これが、世界を飛ぶという事かね。」

 アーヴィンそっくりな口調にあったオルフェ、アーヴィンの跡を継ぐと決めてから、そうありたいと願って継承した口癖、口調、仕草、それらを受け継いだオルフェは、世界を飛ぶという感覚に驚いていた。

 世界は無数にある、とはアーヴィンから聞いていたものの、どういった形で世界が無数に広がっているのか、までは教わっていなかった、だから、世界がどのように広がっていて、神とは何を守っている存在なのか、をオルフェはこの瞬間に知った。

「ふむ、美しいな。」

 それは夜空に輝く星々の様に、点在していた、一つだけ、年輪の様に折り重なっている世界もあったが、オルフェはそこには「立ち入れない」と本能的に感じていた、そして、自分が向かうべき世界は、星々の様に煌めている世界の一つ、だと認識した。

 光速を超えた飛行物体として、他の英雄がそこに集まっている様子がうかがえる、神々が遣わした英雄、傭兵稼業を生業としている「同業者」が、オルフェの向かっている世界に何人か向かっている、それをオルフェは視認していた。

「……。」

 世界に落ちていく、歴史において知られている「隕石」の様に、世界に落下していく。

 オルフェは、そこで「ガワ」を被った事を認識した、ファルカシュ・ジグモンドではなく「紫髭の狼」としてのガワを被った、オルフェが認識される最大限、そして神の干渉によって「最初からその隊や軍に所属していた」と認知を書き換えられて仲間になる者がいる、敵になる者がいる、そしてあの煌めきは、敵の英雄か味方の英雄か、それを知識としてインストールされる。


「……。」

「よう、狼。まったく、お前は単独行動が過ぎるぞ?」

「Oh!そいつは済まない事をしたな、隊長殿。」

 オルフェが落ちた世界、そこは軍事的にはオルフェの元居た世界と相違ない世界だった、つまりはマクミランをそのまま使っても問題がない世界、だった。

 隊長殿、とインストールされた相手、オルフェと同じ軍服に身を包んだ、というよりは「オルフェの着ていた迷彩服がそのまま転じてその世界のその軍の物に変化した」が正しいのだろう、オルフェが違う様相を見せているとしたら、それは空色のダッフルコートなのだが、このダッフルコートは基本的に認識されない、この世界体系において、防弾の意味も持つこのジャケットは、基本的には「その世界に属する者」には認知が出来ない、相手からしたら「昔からいる戦友」だったり「昔から寝食を共にした部下や同僚、上司」と言った認識に書き換わる、そしてオルフェ達英雄がその世界を離れた際には「凄腕の兵士がいた」という認識に書き換わり、オルフェや英雄個人という「個体」は認識されなくなる、それが神々の協定だ、といつの日かアーヴィンが話していたのを、オルフェは覚えていた。

「それで、俺がフラフラとしている間に、戦況の変化はあったのかね?隊長殿。」

「その言葉遣いも何とかしろ、と何度も……。まあ良い、敵軍は前線を広げている、諜報員からの情報では、増員体制をとって戦況を進めようとしている状況だ。お前の役割は敵軍の隊長を討つ事、それさえやってくれれば、お前が黒人であったとしても、文句を言うものはいなくなるだろうさ。」

 この世界においては、オルフェが過ごしていた世界と違って、黄色人種が覇権を握っている、そして黒人は二級市民という扱いを受けていて、軍の中でも末席にいるべきだ、とのたまう人間が多い、それはオルフェが得ていた知識の中にあった、そう言った世界はままある、未だに黒人を奴隷として扱っている世界がある程度には、世界によってその扱いは違った、オルフェが過ごしてきた世界は黒人が世界の覇権を握っていて、そしてこの世界では黄色人種が覇権を握っていて、現在は白人種との戦争の最中だ、ある意味では暴力革命、ある意味では武装蜂起、をした白人種によって、黄色人種と黒人種が混交した部隊、は苦戦を強いられている、それが現状だった。

「まったく、お前は狙撃の腕は良いんだがな、いかんせん黒人としての矜持が……。」

「hahaha,隊長殿よ、愚痴は良いがね、戦線を前に進めるのが先ではないかね?」

「……。それもそうだ。狼、お前は敵軍の大隊長を狙え、お前の腕なら、それ位の事は出来るだろう?」

「任務承った、では別行動をさせていただこう。」

 オルフェは気配を殺して、隊とは別行動をとる、基本的にオルフェの役割は超長距離狙撃による前線の崩壊、それを主目的とした狙撃だ、と隊の人間からは認識される、オルフェからしたらそれだけではない、敵方にいる英雄の対処もしなければならない、まだ敵方の英雄は前に出てきていない、つまりは当面の所は、ゲリラ的にやってくる前線部隊の対処、がミッションとなるだろう。

「よう、ジグモンドの子。」

「Oh!お前さんは?」

「俺はレティア、お前の父親とは因縁があったんだがな、まあ、それを果たす前に死んじまったから、お前がここにいる、そういう認識であってるな?」

「ふむ、親父様と所縁のある英雄か。レティア、レティア・レンヴラント、だったか。親父様と同じガンナーの英雄の中でも、中距離狙撃を専門としている英雄、だったか。」

 単独行動をとる為に隊を離れたオルフェに話しかけてくる者がいた、その人物は「紫髭の狼」ではなく「ジグモンドの子」とオルフェを認識していた、つまりは別の神に使役されている英雄だ、という事はすぐに認識出来た。

「戦場は初めてか?肩の力を抜け、お前の父親には狙撃勝負で負けたが、まあ勝ち逃げをされた、なんて潔い関係でもなかった。ただ、俺に頼んできたな。あいつは、いつの日かどっちかの後輩か息子が戦場に立つ事を理解してた、その時に敵じゃなかったら、戦場でのイロハを教える、それがお前の父親との約束だった。まあ、その前に敵になってたら、お互いに恨みつらみの対象だったんだろうがな。」

「ふむ、英雄としてのイロハ、かね。確かに俺はまだまだルーキー、線上に出たというだけで、手が震えている、自己分析をするに、人間を撃った事がない俺が、人間を殺せるのか、実地においてヤクタタズにならずにいられるのか、それを恐れているといえるだろう。」

「ほう、自己分析は得意な方と来たか、それも父親に似ているな。なら話は早い、まずは人間を撃つ事に慣れろ、人間を殺す事に慣れろ、俺達英雄は、それを繰り返して生きていかなきゃならんのだからな。」

「ふむ、承知した。」

 手が震えている、それを自覚していたオルフェは、レティアの言葉に従って、英雄としてのイロハを学んでいこう、そう考えながら、前線に出てきた小隊をスコープで狙った。

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