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第二十三話 狙撃勝負

「父さん、お帰り。」

「ふむ、だいぶん視線にも気づく様になってきたな、ただいま帰還した。」

「そりゃ、鍛えてるんだしね。」

 オルフェが十七歳の冬、雪が降って寒くなってきた中、アーヴィンが帰還してオルフェが射撃場にいるのを見ていたが、オルフェはオルフェでアーヴィンの視線に気づいていた、その程度には視線にも気を配れる様になってきた、というのがオルフェの現在だ。

 アーヴィンが送ってきている眼差しの種類、ならば自分にどうしてほしいのか、どうなってほしいのか、どうなってほしくないのか、それもわかってはいたが、オルフェは自分でこの道を選んだ、自分自身でこの道を歩く事を決断した、アーヴィンという父の話を聞き続けたからかもしれないが、それでも自分の意思で、英雄という名の傭兵になる事を選んだ、自分で選んだ以上は後戻りはできない、後戻りをするべきでもない、後に戻っても、そこには神からの罰としての死が待っているだけだ、オルフェはそれを本能的に理解していた。

 だから、ではないが、神に従って生きていく、人を殺めながら生きていく科、それとも神に逆らってひっそりと処理されるだけか、どちらかを選べと言われたら、オルフェは前者を選ぶ、そういう事なのだろう。

「ん、オルフェお前さん、五キロ狙撃が安定してきたな?」

「ちょっとだけだけどね。」

「俺がいない間、スクールに行くという約束は守っているかね?」

「うん、守ってるよ。」

 アーヴィンは、オルフェは嘘をついていないと判断した、という事は、オルフェはスクールに通いながら、そして鍛錬をして、五キロ狙撃を安定させている、という事になる、アーヴィンでさえ安定しなかった五キロ狙撃、スコープでは見えない場所、感覚だけが頼りになってくる、ある意味では生命探知という、生命体がどこにいて、心臓がどこにあって、という事を理解しなければ出来ないはずの五キロ狙撃、それを安定させているという事実、それをアーヴィンはスコアボードを眺めながら感心しつつも驚いていた。

「お前さんは俺より狙撃の腕前が上になったな、俺の引退も近いという事か。」

「そうなの?父さんに勝てるとは思ってないけれど……。」

「ふむ、四キロ狙撃においての命中率と精度、においてはまだ俺の方が安定性がある、実戦として、五キロ狙撃を行う事よりも、二キロから三キロの狙撃を行う事が現場では多い、そう言った意味合いでは、まだ俺が上だといえるがね、要するに理論値の話だ、俺は五キロ狙撃をここまで正確には出来ない、精密射撃を得意とする俺達一族の中で、お前さんは一二を争う実力者、になろうとしてる、という事だな。」

「そう、なのかな?」

 オルフェは、アーヴィンに褒められたことを素直に喜んでいた、ただ、アーヴィンが同時に向けている視線の意味、にも気づいていた、英雄としての視線ではなく、父としての視線、父として、息子を戦場に送らなければならない事が確定している、それに心を痛めている、そんな視線に気づいていた。

「父さんの狙撃って、見た事ないけどどうなのかな?」

「ふむ、では狙撃の精度勝負と行こうかね?一般的な狙撃距離である二キロを目安とした狙撃勝負が良いだろうな。」

 的を二つ出現させて、オルフェとアーヴィンは銃を構える、それぞれがそれぞれに適したスコープを使って、得意としている構えを取り、自然と似ている姿勢になり、構える。


「ふむ、こういった結果が待っているわけだな。」

「父さん、凄いなぁ。」

 十発撃った狙撃勝負の結果、オルフェには若干のブレがあった、精密性に関しては上場なのだが、まだ弾丸がブレてあたっている、それが現在のオルフェだった、アーヴィンの狙撃、芸術的とも言えるその狙撃は、一切のブレがない、まったく同じところを貫通しているがために、スコアボードに記録が乗らない、というレベルの精密さを誇っていた。

 アーヴィンの狙撃は一撃必中、すさまじいまでの狙撃精度をもって放たれる慈悲の一撃、対軍団相手になると、砲弾に類するフレシェット弾などを使わない事も無いが、基本的には対個人、対軍団の役割ではなく、対個人や対少数相手の攻撃手段、がスナイパー、狙撃手に求められる技術だ、それが卓越しているアーヴィンと、現状狙撃力と言うべきか、狙撃距離においてはそれを抜いているオルフェ、どちらが重宝されるか、と言われたら現場によりけりなのだろうが、生存能力の高さ、という意味合いではオルフェの方がやや勝る、それが現状だとアーヴィンは考えていた。

 アーヴィンを超える狙撃手、は今までのジグモンド家の歴史の中でも数人いた程度、だったという記録も残っている、それは狙撃の精密性の話で、射程距離の話ではない、アーヴィンにとっては四キロ程度の狙撃が一番の主戦場であり、それ以上の距離の狙撃、に関しては鍛錬としては必要だと考えていたが、それを実際に行うのか、実地において必要なスキルなのか、と問われたらアーヴィンは基本的には違うと答えるだろう。

 それをオルフェにさせていたのは、超長距離狙撃を行える様になる事で、それ以前の狙撃を安定させる為だった、その為にオルフェに「五キロ狙撃を出来る様になってもらわないと困る」と言っていたのだ、それが実地実戦において必要かどうか、ではなく狙撃手の腕前、の限界値として求めただけだったのだが、オルフェは狙撃距離、超射程における精密さではアーヴィンを超えた、それをあーヴぃんは理解していた。

「ふむ、お前さんが俺を超えるのには、もう少々時間がかかると思っていたがね。思った以上にお前さんの腕前が高かった、適性があった、そう負け惜しみを言っておこうか。」

「まだまだ父さんには敵わないよ、だって、この精密性だよ?」

「hahaha!精密性においては俺が上だろうな、ただオルフェよ、射程としてはお前さんの方が上だ、それは間違いのない事だぞ?俺は五キロ射撃はした事はあっても、お前さん程には数を当てた事がない、俺の父親であるアーノルドから教えられた事、五キロ射撃を一度でも成功させれば、ジグモンド家のガンナーとしては一流だ、それを言われて過ごして、俺は親父を超えたのはいつの話だったか、戦場に赴き始めてから暫くだった覚えがある、それをお前さんは十七、まだ成人すらしていない年齢でこなしている、そういう意味では、お前さんは俺よりも腕の良い狙撃手だ、と言えるだろうな。」

「そう、なのかな?」

 オルフェまだまだアーヴィンには追いついていない、まだまだ父には勝てないと考えていた、それはあながち間違いではない、狙撃手として超長距離狙撃が出来る、と言っても、それに類する敵の気配の探知や、この射撃場という環境の整った場所での狙撃ではなく、実地における悪天候や悪環境における狙撃、に関してはアーヴィンが一枚も二枚も上だろう。

 ただ、狙撃距離、という一点において、オルフェはアーヴィンを超えた、それだけは確かな事だ、アーヴィンはそれが誇らしく、そして少し寂しい、と感じていた。

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