第二十一話 殺気と視線
「良し。」
「ふむ、三キロ狙撃を可能としたか。オルフェ、成長をしているな。」
「あ、父さん、帰ってきてたの?」
「うむ、それにも気づかん程に集中するのは構わんがね、探知能力や気配を探る能力、というのも時には必要とされる能力だ、勿論の事、視線や殺気にも気づかんとな。」
「どうすればそう言うのに気付けるの?」
「ふむ、どうすれば気づけるか……。そうさな、研ぎ澄ますとしか言いようがないな、視線、殺気、気配、敵の配置や向けられている視線の種類、そう言った事柄に注力して、う意識を持つ事が大切だ。」
オルフェは十五歳になった夏、夏季休暇の最中を鍛錬に費やしていて、技術的には最高峰と言われている「三キロ狙撃」という技を体得していた、その記録を樹立した射手は一度きり、再現性のない一度きりの記録だった、という話だったが、オルフェはそれをアベレージとしてやっていた、まだ四キロの狙撃は出来ていない、そこまで行くともうスコープがない、感覚と探知能力を頼りに弾丸を放つほかない、アーヴィンが大体四キロの狙撃をメインにしている事を鑑みても「ガンナーとしての最大限は基本的に四キロが限界」と言えるだろう、アーヴィンがマックス五キロを狙撃対象として撃ったことがある、と言っても、それは平均ではなく理論値だ、運よく当たった、程度の認識だったアーヴィンが、それを出来るようになれとオルフェに言った理由は「オルフェは自分を超えるガンナーになるべきだ」という理論と願望が基となっている、それを平均値にしろ、と言っているわけではなく、それを理論値にして、自分が平均値としている四キロ、を超える狙撃手になってほしい、その方が生存率が格段に上がるのだから、という事だった。
「オルフェよ、例えば今俺はどういった視線をお前さんに送っていると思うかね?」
「父さんの視線……。普段とは違う、ちょっと怖い目つき?」
「ふむ、その程度の認識である事はまだいいだろう、今お前さんに送っている視線は殺気、これが純然たる敵ではない俺が送れる、最大限の殺気の視線だ。これを探知して、これを察知して、そして純然たる敵から送られてくるそれを、的確に射抜かなければならないな。レーダーや照準係を頼っていて、己の技術の研鑽を怠るな、という話だ。」
「殺気と、視線……。」
アーヴィンの送って来ている視線、目線が普段と違う事には気づいた、ただそれが殺気だとは思えなかった、殺気、人を殺める時に向ける視線、その総称だ、とアーヴィンがかつて言っていた、敵を殺す為の目線、それに気づけ、それを探知しろ、それを回避しろ、アーヴィンが言いたい事はそうなのだろうが、オルフェからしたら、普段は感じる事がないその視線の意味を知って、そしてそれに気づいて、というのは難易度が高い事だろう。
「うーん……。」
「まあ、戦場に赴けば嫌でも覚える事だ、今から鍛錬をしておいて損はないが、現状においてはそうさな、実地訓練をするのが一番の近道かもしれんな。」
「そうなんだ。」
アーヴィンの送ってきている視線が変わった、というよりは「普段見ていた父の瞳が、見た事のない瞳になっていた」事には気づいたオルフェだったが,しかしそれを体得して、殺気を回避できる様になるのには、まだ時間がかかるのだろう。
「さてオルフェよ、狙撃の鍛錬も良いが、友達が来ていたぞ?」
「あ、もうそんな時間?」
「ふむ、時間を忘れて鍛錬に打ち込むのは、些か褒められたものではないな。俺達は時間にシビアじゃないとやってられん、敵方の情報によっては、何時何分何秒に敵が姿を現すなんて事もありうるわけだからな。」
「わかった。」
敵軍の将校が、何〇何何に動く、という情報を得て狙撃に挑む事もあるアーヴィン達狙撃手からしたら、時間とは絶対的に守らなければならない事項だ、それをオルフェは失念していた、座学としては知っていても、まだ実行に移せる程度には熟達していない、それが現在のオルフェだ、とアーヴィンは見ていた。
オルフェが射撃場を出て、急いで部屋に銃を置いてランドの元に行く、射撃場は地下の保管庫と同じ造りになっていて「ここではない場所」とポータルを繋げた結果、にある神が用意した空間だ、ほかに人間はいない、ほかに英雄もいない、ガンナーの英雄の鍛錬の為だけに造られた、そんな空間だ。
「……。お前さんは筋が良いと思うがね。」
M82のスコープで、オルフェが狙撃練習をしていた的を眺めるアーヴィンは、その狙撃の正確性に驚いていた、アーヴィンよりも優れた狙撃手になるだろう、という予感はしていたが、現在において十五歳なオルフェは、狙撃の腕前としてアーヴィンに並ぶか、やや劣るか程度まで成長していた、弾丸が殆どブレずに心臓や脳の部分に直撃していて、一発の弾丸では空かない様な穴が開いている、つまりはそこに類似した場所、に弾丸を撃ち込んでいる、弾丸の形とは違う穴の形になる程度には、ブレが少なく的確で正確な狙撃をしている、という事になる、アーヴィンが十五歳だった頃、はまだここまでの狙撃は出来ていなかった、とアーヴィンは覚えていた、まだ両手で銃を持って狙撃するのが精いっぱいで、照準がブレてしまって、とてもではないが戦場では役に立たないレベル、がアーヴィンが十五歳の頃の腕前だった、それを大きく上回るオルフェの腕前、ある意味では、ジグモンド家において歴代最高峰の腕前に達するかもしれない、そんな予感をさせる程度、にはオルフェの狙撃は精密だった。
「俺も引退が近いかね。」
安心して引き継げる、現在のオルフェより、ややアーヴィンの方が正確性もあり、的確な射撃と判断をできる、それ場数の差としてあるのだろうが、狙撃の腕前だけを考えた時には、オルフェに引き継いでも問題は無いだろう、と。
「ランド、お待たせ。」
「お、オルフェ遅かったじゃん!」
「あはは、ごめんな。」
「まあいいって事よ、今日はバイクで来たからよ、乗ってけよ!」
「それは良いね。」
ランドは最近バイクの免許を取った、ムスタにおいては中型バイクの免許までは十五歳から、大型バイクや四駆の車両の免許は十八歳から、という法律があった、だからランドは、十五歳になってすぐにバイクの免許を取りに行った、現在乗っているのは父のおさがりのバイクだ、という話だが、この中型バイクはメンテナンスを欠かさなければ百年は乗れる、という触れ込みで販売さえた旧型車両であり、現在においてもパーツの販売はされている、フレームさえ無事なら本当二百年は乗れる可能性がある、と噂されているバイクだった。
オルフェを後ろに乗せて、ランドはバイクを発進させる、オルフェは、これから先どれだけの期間「青春」と呼ばれる行為を行えるかはわからない、だから今を楽しもう、そう考えながら、ランドと共に街に繰り出した。




