第十九話 成長
「オルフェ、修行は順調かね?」
「あ、父さんお帰りなさい。」
「ふむ、ただいま帰還した。」
オルフェが十三歳になった春、スクールが一つ上の場所に変わり、学校としてはもう少し大規模になり、通っている人間も様々になった頃、アーヴィンは相変わらず何か月かを戦場で過ごし、そして帰ってきては銃をメンテナンスする、という日々を送っていた、現在は射撃場にいるオルフェが、一キロの距離の狙撃を練習している最中だった、とアーヴィンは考えていたが、オルフェはいつの間にか対物狙撃銃を両手で持って撃てるようになっていて、狙撃の精度も、当時のアーヴィンより数段上、現状ではアーヴィンの方がまだ腕前としては上だが、オルフェは歴代の中でも狙撃手としての腕前は高い方かもしれなない、とアーヴィンは予感していた、その程度にはオルフェの射撃は精密だった。
かつてあった躊躇い、心臓や脳を撃つ事に対する躊躇い、もいつの日からかなくなってきていた、一キロ先の的は心臓と脳の辺りに穴がいくつも空いていて、オルフェの狙撃がそれだけ安定している事を示していた。
アーヴィンは安心していた、ともすれば少々気弱でもあったオルフェが、英雄としてやっていけそうな事、人を殺めるという意味を知らないままではあるものの、しかし技術としての狙撃をきちんと体得している事、これから先、まだまだ覚悟が足りないと言われる事があったとしても、オルフェはやっていけるだろう、という予想が出来た事、それらにアーヴィンは安堵していた、自分が死んだ後、ジグモンド家の当主として生きていかなければならないオルフェが、道半ばで死んでしまう事がない、その可能性が徐々に減ってきている、と。
「オルフェ、スコープを変えてみたらどうかね?そろそろ、二キロ射撃に切り替えるのが良いだろうな。」
「うん、わかった。」
スコープを魔力で生成して、それを取り替えてオルフェは二キロ先にある的に照準を絞る、元来の狙撃銃のスコープでは二キロ先の標的が見える事は殆どない、コメ粒ほどの何か、が見えるか見えないか、照準係の精密なスコープを使えば見えるのかもしれないが、狙撃手のスコープで見える範疇ではない、だが、オルフェもアーヴィン、それ視えなければ英雄としてはやっていけない、五キロ狙撃を最終的な目標としている以上、二キロ程度の狙撃は通過点でしかない、オルフェは集中して、腕力の低下で揺らぐ照準を絞って、二キロ先の的に向けて弾丸を撃ち込んでいく。
「ふむ、流石に倍の距離にして一瞬で当たってしまったら、俺のメンツが丸潰れだ、それで良い、その内当たるようになればそれで良い、五キロ狙撃というのは、最終地点の話だ、現状はそれで良い。」
「うん。」
オルフェは弾丸を撃ち続ける、弾倉が空になったら、魔力で生成していた実弾を装填して、丁寧に仕事をしていく、アーヴィンが魔力による弾丸の生成を得意として、弾丸を装着したままの弾倉に装填出来る、がリロードという段階を踏むのと同じで、オルフェにとっての習性、弾丸を魔力で生成して、それを一度ずつ弾倉に詰めて、そしてリロードする、という癖をつけていた、それをしなければ「異世界からやってきた事」がばれてしまう可能性がある、アーヴィンが語っている様に、科学的に発展して弾丸が電磁パルスになっている、という世界だったり、魔法的に発展していて、魔力を弾丸として放つ、という事でもしない限り、リロードを挟まない銃撃というのは、怪しまれて当然だ、と。
「オルフェ、修行はどうだ?順調か?」
「うん、今は二キロ狙撃をしてるところ。」
「そか、学校にも来てくれるし、オルフェが頑張ってるのは凄いと思うぜ?」
「ありがとう、ランド。」
所謂ジュニアスクールから、ジュニアハイスクールへと進んでいたオルフェ達は、学校においては人気者の類で、背の高く筋肉質なオルフェ、と恰幅が良く少し身長が小さいランド、という組み合わせが好まれていたのか、学校では好意的に見られていた、ジュニアスクールに通いだした時、の様な偏見に満ちた教師もいなかった、というよりは「偏見に対して言い返せる様になった」オルフェがいたり、あのころとは違って、肩を並べて歩ける仲間が出来たりと、オルフェにとって学校はかけがえのない場所へとなってきていた、自分が英雄として活動をしなければならないのがいつからか、父アーヴィンが亡くなって、自分が英雄として選抜されるのはいつからか、それはわからないが、現在の友を大切にしよう、と思える程度には、オルフェにとって学校は憩いの場だった。
ランド君、と呼び続けていたランドの事を「ランド」と呼ぶ様になったり、ランドに彼女が出来ただとか、そんな惚れた腫れたの話もあったのだが、オルフェは不思議を恋愛をする気にならなかった、いつの日かは結婚をして、ジグモンド家を継ぐ超記憶症候群を受け継いだ子供が出来てくれないと困る、という流れではあったのだが現状においては彼女を作るつもりがない、という事で、周りの惚れただなんだを話を聞いて楽しんでいる、それがオルフェの現在だった。
「次の授業って何だっけ?」
「ん、歴史学じゃなった?」
所謂中学校と呼ばれる学校に上がって、覚える事も学ぶ事も、それらの総量増えてきた、オルフェは記憶力として全てを覚えているのだから、一度勉強した事は忘れない、ある意味では暗記科目においては最強の状態だった、語学や歴史学、科学的なテストにおいては常に満点、数学などの応用が必要な科目に関しても、学年でトップクラスの成績を収めていた、逆にランドは勉学が苦手だと言っていて、その二人が一緒に居る、優等生と劣等生が一緒に居て学友をしている、と言うのが不思議だ、と言っている学友もいたりはした、ただ、オルフェからしたら初めてできた友達、初めて学校で話しかけてくれた友達、というのは大切だった、もう何年も前の思い出、ランドは覚えていなかったが、オルフェは覚えている事、それが出会いの記憶だった。
「ランド、早くしないと先生に怒られちゃうよ?」
「わかってるー!教科書何処やったっけかな……。」
話口調も、お互いの呼び方も、変わってはいる、変わらない事柄はない、普遍的な事柄はない、あ~ヴィンの言っていた事だ、命はいつか終わる、巡っていく、そして、進化していく、変わっていく、変化しない事は衰退に他ならない、と。
だから、オルフェは変わらない友達という関係値と、変わっていく口調や呼び方、視線の向け方、それらを楽しんでいた、今しか楽しめない事かもしれない、いつの日か英雄として活動を始めてしまったら、それこそ縁が切れてしまうのかもしれない、だか羅、今はこの関係が心地良い、この関係値に価値がある、十歳の夏、スクールに来ていかったオルフェを訪ねてきて、心配していると面と向かって話してくれたランド、その友達を大切にしたい、とオルフェは願っていた。




