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第十八話 実弾

 BANG!

「Umm,お前さんは筋が良いな、オルフェ。まだ地につけている、とはいっても、そこまで精密に狙撃が出来るのは俺でも時間がかかったもんだ。」

「そうなの?」

「そうさな、俺が初めて親父から銃を教わった時、照準が定まらな過ぎて怒られてたもんだ。」

「お父さんが出来ないって、想像出来ないけどなぁ。」

「まあ、そういう時代もあった、って話だ。」

 オルフェが十歳の秋、アーヴィンの指導の下、オルフェは魔力で弾丸を生成する方法、ならば弾丸の種類を増やす方法、例えばフレシェット弾という、鉄の矢を炸裂させる、そもそもは爆撃機が使う様な砲弾を、弾丸に変えて放つ魔法だったり、ショットガンという炸裂弾に変えて発射する方法だったり、そう言った事柄を座学で習いながら、実弾を撃って的に当てる、という段階に来ていた、アーヴィンは対物狙撃銃を両手で持って撃つ、元来は地面において、反動を軽減する状態にして、そして狙撃者としては照準係と言われる、距離と敵の位置、撃つべき場所を指定する相棒がいるのだが、それをいなくとも撃てる状態にする、それがガンナーとしての英雄の第一歩だ、とアーヴィンは語っていた、その言葉を信じて、オルフェは照準係を付けないまま射撃訓練を行っていた、最終的には五キロ先の敵を狙えるだけの技術を要する、とアーヴィンは語っていたが、現在は百メートル先の的に向けて撃っている、それがオルフェの現状だった。

「お父さんは手で持って撃てるんでしょう?僕はまだまだ、地面につけてないと反動が大変だし、もっともっと鍛えなきゃ。」

「それはそうだがね、オルフェよ、約束を忘れてはいないな?冬になったらスクールに戻る、鍛錬とスクーリングを同時に行って、友を忘れずにいる、それが男と男の約束だ、そう言ったのを覚えているな?」

「うん、分かってる。ランド君達にも会いたいし、もっともっと学ばないといけない事もあるし、僕はまだまだ知らない事がたくさんあるって思ってるから、約束は守るよ。」

「それで良い。では続きだ、オルフェ。引き金を引く瞬間、躊躇いを持つな。今のお前さんは人型の的に対して躊躇いを持っている、人間を相手にしたら、その躊躇いは致命的なアキレス腱になる。躊躇いを消せ、惑いを、迷いを、情を、捨てないと戦場では生き残れんぞ。」

「うん。」

 躊躇い、オルフェはまだ実弾を使い始めてから一か月程度、人間を模した的を撃つのにも躊躇いが残っている、アーヴィンはそれを見抜いていた、伊達に何十年と英雄稼業をやっているわけでも、数多の戦場を生き残ってきたわけでもない、敵方の英雄が躊躇いを見せた瞬間、というのは、アーヴィンからしたら隙を狙うチャンスになる、という意味合いでも、そもそもが英雄として完成された精神性を持っている者としても、オルフェの精神的な甘さを見極められない様ではやっていられない、その程度のことが分からない様では、ジグモンド家の中で汚点になってしまう、それがアーヴィンの考え方だった。

「心臓か脳天、どちらかを一撃で撃て、一撃だ、俺達ガンナーって言うのは、一撃必殺をポリシーにしなきゃならん、それは相手方を苦しませずに昇天させる、ある意味では相手方の為になる事でもある。なまじ腕や足を撃ってみろ、痛みの中、激痛に苛まれながら死んでいく、それを俺達ジグモンド家の歴代は良しとしなかった、逝かせるのであれば一撃で、一撃必殺を前提として前線に赴け、それもジグモンド家の家訓の一つでもある。」

「分かった。」

 躊躇いを持つな、一撃で仕留めろ、ジグモンド家の当主達に綿々と伝わっている家訓、敵に塩を送る行為だったのだとしても、明日に殺されるのが自分なのだとしても、慈悲の一撃を送るのが矜持だ、慈悲の一撃を以て、戦線を終わらせるのが責務だ、そう伝わっている。

 それは他の英雄達にも言える事だ、英雄は英雄にしか殺せない、どんなに負傷しようと、どんなに致命的な一撃を喰らおうと、英雄は英雄にしか殺せない、英雄とは、神からその権能の一部を与えられた存在であるがゆえに、その神の名の元に送り込まれた英雄同士出の殺し合いしか許されていない、ある意味では「死ぬ事を許されていない」という神々における共通項、の一つが「英雄は英雄にしか殺せない」だった。

「英雄は英雄にしか殺せん、慈悲の一撃、敵になった英雄がいたとして、俺達は殺すか殺されるか、どちらかしか選べない。オルフェ、英雄とはそういう生き物だ、それを念頭に置け。そうすれば、躊躇いなど何処かに飛んでいくだろうからな。」

「……。うん。」

 オルフェからしたら、例えばランドが英雄になっていたとして、そのランドと敵対関係になったら、躊躇いなく引き金を引け、頭蓋を砕いて脳を破壊するか、心臓を一撃で狙撃するか、どちらかを選ぶか、それとも自分がランドに殺されるか、どちらかを選べ、と言われている、それを想像していた、アーヴィンにとってそれは当たり前の行為で、英雄同士はそれを当たり前に行っていて、英雄とはそういうもので、とアーヴィンはオルフェを教育してきた、だから今更話す事でもない、とは考えていたが、それでもオルフェが躊躇うのであれば、それはオルフェを殺す致命的なアキレス腱になる、それが分かっていたから、普段の陽気な父親を引っ込めて、厳しい言葉と視線をオルフェに送っていた。

「そこだ、そこを狙え。一撃だ、一撃で仕留めろ。」

「……。うん。」

 オルフェは、これが英雄になるという事だ、と実感していた、もしもランドだったら、もしも学友だったら、そんな事を考えて、いちいち相手の事情を鑑みて、という事をしていたら、自分が殺されてお終い、前線が壊滅したら、人的被害も損害も大量に出て来る事になる、自分が殺さなければ殺されるだけ、もし万が一英雄以外の人間に致命的な一撃を喰らったとしても、そこから英雄に殺されるまでのたうち回る事になる、死にたくても死ねない、死ぬほどの痛みだったとしても、「英雄にとどめを刺されない限り死ぬ事を許されない、だから一撃で仕留めろ」という事なのだ、とアーヴィンの言葉を受け取っていた、それは間違いではない、アーヴィンにとって躊躇いは死を意味する、英雄にとって、戦場において、躊躇った人間から死んでいく、それは当たり前の事柄だ。

 集中する、百メートル先の的の、脳と心臓を狙って、銃弾を撃ち続ける、弾倉から弾丸が無くなって、魔力を以て補給するまで、撃ち続ける。

「ふむ、お前さんは本当に筋が良いな。」

「そう、かな?」

 褒められている、と言っても、まだまだひよっこではある、言葉の裏の意味、をオルフェは感じていた、アーヴィンが褒めていると言っても、まだまだ戦場に立ったことがない人間として出来ているだけで、心構えも、狙撃の腕前も、まだまだ上達していない、まだまだ発展途上も良い所だ、それはそうだろう、モデルガンの整備こそしていたものの、実弾を撃ったことなど無い、そこから数えてまだ一か月、まだまだ魔力を弾丸に換装する能力も、弾丸を他の種別の弾丸に変える技術も、まだまだこれから覚えていかなければならない事なのだ、と。

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