第十七話 基礎鍛錬
「あ、オルフェ!最近学校来てなかったから、心配してたんだぞ?元気にしてたか?」
「あ、ランド君。来てくれたの?」
「そりゃ、友達だしな!オルフェが銃を持とうと、軍人になったとしても、何だったとしても、俺達は友達だからな!」
オルフェが十歳になった夏、結果として身体能力を向上させる為に、半年間の期間を儲けてスクールを休んでいたオルフェの元に、ランドがやってきた、連絡もしてこなかったはずのランドが、自分の事を友達だ、と言ってくれるのが嬉しい、とオルフェははにかみながら、今日はランニングで走り込みをしていたのだが、帰ってきて汗を流そうと思ったらランドが家を訪れていた、が正しい反応だった。
ランドはルミナにもてなされて、普段から運動が苦手だ、と言っていた恰幅の良いからだらしく、菓子を頬張りながらオルフェを待っていた、ルミナは最近オルフェが自家製の菓子を食べなくなったから、とランドが会いに来た、と分かってすぐにクッキーを焼いていた、素材自体は冷凍保存していたものを使っていた為にそこまで時間はかからなかったのだが、基本的に菓子の類を控えていたオルフェ、に寂しさを感じていたルミナからすると、ランドの様に子供らしい子供、というのは嬉しいのだろう。
「オルフェの母ちゃんのお菓子、美味しいのに食べないん?」
「うん、今は基礎鍛錬の最中だから、あんまり摂取しない様にしてるんだ。」
「ほへー……。こんなに美味いお菓子を作ってくれる母ちゃんがいるのに、勿体ないなぁ。」
「あはは……。お父さんがそうだからね、軍に呼び出される事が多いから、だから甘いものに依存して、いざという時に集中力を欠かしてしまわない様に、って。」
ランドはクッキーを食べながら、オルフェが何か月か会わないうちに、筋力的にも身長的にも格段に育っている事に気づいた、オルフェは何かを言っていたわけではない、スクールを休む理由も「いずれかは父アーヴィンの跡を継ぐという約束をしているから」程度しか話していなかった、だからランドとしては、その基礎鍛錬と言って、オルフェがここまで成長しているのが驚きだ、と驚いていた。
「はい、ランド君、ミルクティーね。オルフェは何か飲む?」
「うん、水をもらいたいな。汗をたくさんかいてきたから、水分を取らないと。」
「氷はいる?」
「うん。」
ルミナがオルフェに氷水を渡して、オルフェはそれを一気飲みしている、ごくごくと音をたてながら飲んでいるさま、がランドは見た事がないオルフェの姿だった、この数か月の鍛錬然り、この数か月のオルフェの変化然り、会いに来たは良いものの、まるで別人を見ている様だ、と錯覚してしまっている。
「父ちゃんはどうしてるんだ?軍に呼ばれてるのか?」
「ううん、今は庭先で銃のメンテナンスをしてるよ、会いに行く?」
「挨拶位はしておいた方がいい、って父ちゃんが言ってたから、会おうかな。」
「oh!俺に何か用事かな?」
そんな話をしていたら、丁度バーボンが切れたからと補充をしに来たアーヴィンがリビングにやってくる、ランドからしたら、普段は銃を磨いているか酒を飲んでいるか、なアーヴィンが本当に軍人なのか、酒浸りな父親ではないのか、と少々懐疑的な目線を送っている、オルフェもアーヴィンもルミナも、それに慣れていた、普段は酒を煽りながら銃を磨いているだけ、そして数か月から一年程度姿を見なくなる事がある、それが周囲から見たアーヴィンの姿だ、その懐疑的な視線、も当たり前の反応だといえるだろう。
「オルフェの父ちゃん、お久しぶりです!」
「君はランド君だったか、オルフェを気にかけてきてくれたのかね?」
「はい、オルフェの父ちゃんは、オルフェに軍人になるな、って言わないんですか?」
「hahaha!子供らしい惨酷な問いだな、ランド君。俺からしたら、オルフェに継がせるほかない理由がある、軍も人手不足でな、特にスナイパー、こいつで狙撃をできる人材っていのが少ない、その基準には高い視力と動体視力、反射神経が必要と来たもんだ。それらは遺伝する事がある、という基準を以てして、オルフェにお鉢が回ってくるのは、ある意味では必然的だ、と言えるだろうな。」
実際には英雄稼業を、という話なのだが、それはオフレコというのが基本だった家族は、当たり前の様に誤情報をランドに話している、その程度には制約が重く、情報を民草に与えるな、というのは神にとっては当たり前の事柄なのだ。
だからそれに従っている、ジグモンド家のしきたりとして、家族や結婚した相手、息子や娘と言った血縁、にしかそのことを話してはいけない、離してしまったら罰が下るのだとか、話した相手が神の手によって殺されてしまうのだとか、そんなしきたりがジグモンド家の中にはあった。
「でも、オルフェはまだ十歳なんだし……。」
「そうやって気にしてくれる子がいる、というのは、俺からしたら有難い話だがね。他でもないオルフェ自身が決めた事、それを尊重するのも親の役割というやつだ。。まあ、君もいつか親になったらわかる事、かもしれんな、今はわからずとも仕方がない、親の心子知らず、という言葉がジャポネにはあるんだとか、そんな事を言っていたやつがいたな。」
「それって、どういう意味なんですか?」
「言葉の通り、親がどう思っているか、親が何を思って子に接しているか、それを子供が知る事はない、子供は知る必要がない、子供は、自分の赴くままに風のままに生きていくべきだ、そんな話だ。」
「……?じゃあ、オルフェは自分から軍に入って、スナイパーになろうって決めたの?学校を休む事も……。」
ランドは複雑そうな顔をしている、軍人に対して偏見があるわけではない、軍は自分達を守ってくれている存在、軍とは、いわば守護の象徴である、だから軍人の子供であるオルフェにも、分け隔てなく接してあげなさい、それがランドの父の言葉だった、ただ、それをオルフェに押し付けるのは違うだろう、と考えていたが為に、オルフェが自分から望んでスクールを休んで、自己鍛錬をしている、というのが少々悲しい、そんな言葉を言いたげだ。
ただ、アーヴィンの言葉を真に受けるのであれば、オルフェは自分達友達と過ごすよりも、将来的に軍に入って、という事を選んだ、という話にもなってきてしまう、チャットを送れば返してくるオルフェが、それを自分で選んだという事実が、ランドの中では呑み込めないのだろう。
「じゃあ、オルフェは俺達が遊んでる時も、ずっと鍛錬してたのか?独りっきりで?」
「そうなるのかな?皆と会えないのは寂しいけど、今は頑張らないと、銃を構えすら出来ないのに、銃が打てるわけがないでしょう?だから、踏ん張っていかないと、将来的にお父さんの足を引っ張っちゃうことになるのかなって。ごめんね、一緒に遊びたかったんだけど、僕達の家族は代々そうしてきたから……。」
「そっか、それなら仕方がねぇよ。それが聞けただけでも嬉しい、皆、オルフェがチャットは返してきても、会いに来ない事を心配してたからさ。」
「心配かけてごめんね、もうちょっと鍛えたら、またスクールにも顔を出せると思うから。」「おう、待ってる。じゃあ、俺はこれで。オルフェが元気そうでよかった。」
ランドはそういうと、母を待たせているから、オルフェの母ちゃんクッキーご馳走様、と言って出て行った。
オルフェはそれを見送って、ランド達にも色々と感じる事、考えている事、自分がそう選択をした以上は、それを飲み込む事は出来ない、吐き戻す事も出来ない、英雄として活動をするという事は、ひいては彼らを守る為の行動でもある、と改めて実感した。




