第十四話 発展と衰退
「オルフェ君って体鍛えてるね、どうして?そんなに鍛えてたら、体が大きくならないって言われた事ない?」
「僕もずっと先にはお父さんと一緒になりたいから、今から鍛えてるんだ!今から頑張っておかないと、対物銃を両手でもって、って言うのが出来ないぞ?ってお父さんが言ってたんだ!」
「そっか、だから鍛えてるんだね、凄いなぁ。」
オルフェは八歳になり、ジュニアスクールも三年生になった頃、クラス替えはあったものの、ランドとは相変わらず同じクラスで、仲良くしていた、現在アーヴィンは英雄として異世界に赴いている、表向きは軍人として活動をしている、と言う話を崩さないオルフェやルミナ以外の人間からしたら、戦争や紛争に駆り出されているのだろう、程度の認識だ。
オルフェは着替えの際に良く鍛えられている体をさらしていた、今はスイミングの時間なのだが、水着に着替えるとよくわかる、ランドは恰幅が良く腹に肉が乗っていて、オルフェは無駄がない筋肉質な肉体をしている、そのことについてランドが聞いた事がある、と話をしたのだが、今の所オルフェは中背程度、並の身長はあるから、問題がないと答えていた。
「プールって、どんな事するんだろうね?」
「泳ぎ方を教わるだよ?ランド君はプールに行った事がないの?」
「うん、俺はお父さんがほら、運転手で普段からいないから、お母さんも忙しい人だし。」
「そっか、じゃあ溺れない様に気を付けないとね。」
ランドは海に行った事がなければプールに入った事もない、水に浸かると言うのは風呂に入る時くらいだ、という感覚で、オルフェは「いつか水中に逃げなければならない日が来るかもしれない」とアーヴィンに指導をされていた為、夏場になるとルミナに連れられてプールに行って、潜る練習や泳ぐ練習をしていた、その差があるのだろう、不安げなランドと得意げなオルフェ、と言う違いがある、それぞれに同級生達も、泳いだ経験がある子供と泳いだ経験がない子供、に感情が二分されていて、オルフェの様に潜った経験までがある同級生はいない、という感覚をオルフェは持っていた、泳いだ事はあっても潜った事はないだろう、それがオルフェの感じた所感だった。
「さ、皆体操をしますよー?」
「はーい!ランド君、行こう!」
「うん、行こう。」
不安げなランドを連れて行って、プールサイドで柔軟と体操をして、そこからプールの水に体を慣らして、と言う順番で授業は進んでいく、オルフェの様に超記憶症候群を持っている子供はいない、オルフェからしたら、一度見た事聞いた事を忘れないのが当たり前で、何度も同じ勉強を繰り返したり、宿題と言って復習をするのは苦痛だったが、体を動かすことに関してはオルフェは好きな方だった、だからプールの授業は普段と違って楽しんでいる、ランドはそんなオルフェを不思議そうに見ていた。
「ふむ、そろそろ戦線が崩壊しそうかね。」
ところ変わって、異世界に来てから半年が過ぎていたアーヴィンは、そろそろ敵大隊の戦線が崩壊しそうな気配を察知していた、そこまで来たら自分達に役目はない、自分達英雄は戦線を崩壊させて、勝利に持ち込むまでが仕事であって、実際に勝利をして戦勝の祝いなどに参加するのが目的ではない、ある意味では「ある程度カタが付いたら離脱する」のが英雄の在り方だ。
そうでなければ「歴史にガワだけを残して、英雄と言う存在の在り方を秘匿とする」と言う、アーヴィン達を使役している神々の、ある意味での暗黙の了解が崩れてしまう、それは神々の中では協定違反、という事になるのだろう、とアーヴィンは予測をしていた。
争っている神々、神の都合で使われている自分達が当然の様に戦場に赴く様に、神々は神々の都合で、その時には協定を結んだり、違う時には敵対したり、そういうものだと考えていた、いわばアーヴィン達英雄は「代理人」や「代行者」と呼ばれる存在だ、と。
代行者とは「主の御業を代行する者」と呼ばれている神父や神官、牧師や殉教者と言った形によって伝え継がれている人間達だ、ならばアーヴィン達英雄は「神々の代理で戦争に参加して、諍いを解決している」と言う意味合いでは、代行者と言えるのだろう、と。
「ふー……。」
戦線が後退した事を確認して、相手からの視線がない事を探知したアーヴィンは、煙草に火を点けて一服する、今回の世界は科学的にはアーヴィン達が住まう世界を超えていて、空を飛ぶ車があったり、所謂サイエンスフィクションと呼ばれている事柄が多い世界だった、まだ戦争を代行する程には機械が発達していたわけではないが、無人操縦機、と呼ばれる機械の戦争道具だったり、銃に関しても実弾を好んで撃つ人間と「電磁パルス」と呼ばれている電磁的な弾丸を使っている人間の二種類にわかれている、アーヴィンは都合上、実弾に似せた弾を使っている、ある意味では「古い人間だ」と呼ばれる程度に科学的に発達した世界、それが今回の戦場だった。
煙草に関しても、機械煙草と言う、機械が煙草の中毒成分であるニコチンを生成して、電気で動く煙草が一般流通していた、アーヴィンが吸っている紙巻きたばこは「古い煙草だ」と敬遠される傾向があった、機械煙草は煙を吐かない、匂いを発さない、ただニコチンを摂取する為だけに特化した煙草だ、それに対して煙を吐く煙草、と言うのはこの世界においては前時代的なのだろう、将校や大尉といった「上の人間」はまだ紙巻きたばこを好んで吸っている、という話だったが、末端においては機械煙草が一般的だと。
機械化した未来、科学が発展して魔法が衰退して、それはセットだ、とアーヴィンは持論を持っていた、魔法的に発達した世界は科学的には未発達で、科学的に発達した世界においては、魔法と言うのは過去の遺物だ、と。
かくいうアーヴィン達が住まう世界においても、魔法と言うのは軍関係者が使っているか、怪しい裏路地の占い師が使っているか、それとも歴史における研究機関がそれを研究しているか、のどれかでしかない、科学的に発達していた世界においては、魔法と言うのは淘汰される運命なのだ、とアーヴィンは持論を持っていた。
「さて、もう一仕事だな。」
前線は後退している、崩壊しかけている、ただまだ敵陣は虎視眈々と逆転の目を狙っている、それを許してしまったら、神の沽券にも関わる事であり、アーヴィンの沽券にも関わる、だからアーヴィンは前線が崩壊するまでは油断をしない、朦朧塀と言われる年齢なアーヴィンが今まで生き残ってきたのは、偏にその危機管理能力が高かったからだ、とアーヴィン本人は認識していた、どんなに絶望的な状況でも、どんなに優位な状況でも、正しく危機管理能力を持っている事、それが英雄として生き残る為に必要な事だ、ガンナーとしての腕前ももちろん大切ではあるが、それよりも危機管理能力や危機察知能力、の方がサバイバルとしては必要だ、と。
「お前さん方に恨みはないがね、許してくれ、とも思わんよ。」
前線に最期の力を振り絞って出てきたゲリラ部隊をスナイプしながら、アーヴィンは彼らが天に還れる様にと願う、自分達英雄が天に還れるとは露ほども思っていないが、彼ら軍人は、それでも還るべきだ、と。




