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第十三話 ジグモンド家の宿命

「わぁ、雪だ!」

「ふむ、今年は降らんと思っていたが、降ったか。まぁ、こういう時に飲むホットウィスキーなんてのも、オツなもんだな。」

「お父さん、ウィスキー好きだもんね!」

「そうさな、俺には必要な物だからな。」

 冬が来て、オルフェは冬期休暇、アーヴィンは夏に帰還してからまだ次の戦場に呼ばれていない、雪が降るというのもムスタでは珍しい、のだが、今年に関しては冬季の訪れが早く、冷え込んでいてた為に降った、と言うのが正しいのだろう。

 アクシュル全体を雪が覆っていて、車に関してはスタッドレスを履かせておかないと運転が出来ない、そんな程度には雪が積もっていて、オルフェは庭先で雪遊びをしていた、アーヴィンはそんなオルフェを眺めながら、バーボンをホットウィスキーにして煽っていた。

 オルフェが雪だるまを作っていて、アーヴィンはそれを眺めながら酒を煽る、それがアーヴィンにとっての安らぎの時間の一つだった、春は花を眺め、夏は虫を追いかけ、秋は落ち葉に飛び込み、冬は雪と戯れる、そんなオルフェの姿を見て、アーヴィンは日常を噛み締めていた。

 見られない時期もある、半年程度戦場に赴いている事もあるアーヴィンからしたら、そう言った日常の風景と言うのは、心を落ち着かせられる唯一の時間だ、オルフェ達が児童館やスクールに行っていて、一人で煙草や酒をしながら銃を磨く時間、もまた安らぎの時間ではあるが、それと同時に、オルフェが育っていく姿を見るのも、またアーヴィンにとっては安らぎと喜びの時間だった。

「あなた、はちみつを入れてみたけれど、どうかしら?」

「Umm.はちみつ酒とはまたオツなもんだ、暖かなはちみつ酒を飲みながら息子の成長を見守る、中々休暇の過ごし方としてはオツなもんだと思わんかね?ルミナ。」

「えぇ、あの子が育ってくれるのは嬉しい事だわ?でも……。いつかは戦場に送らないといけない、それもあなたと結婚した時点で覚悟はしてた、でも……。でも、いざあの子を産んで、育てていると、思った以上にそれは悲しい現実だとも思うのよ。」

「そうさな、俺にとっても、オルフェを戦場に向かわせる事は心苦しい事だ。ただ、あのイジらしい神サマが何と言うか、と考えるに、それは仕方のない事だろうな。」

 イジらしい神サマ、と言うのはアーヴィン達ジグモンド家の管轄をしている神の事だ、ルミナはその存在を見た事がない、というよりはアーヴィンもその存在を目にしたこと自体はないのだが、ジグモンド家が代々仕えている、英雄を必要としている神、がアーヴィンの言っている神の事だ。

 ルミナは空色の瞳を曇らせる、アーヴィンと結婚した時点で、超記憶症候群を受け継いだ子供が生まれたら、その子供は次のジグモンド家の当主として、英雄稼業を継がなければならない、それを分かっていてアーヴィンと結婚した、それを分かっていてオルフェを産んだ、そこに関しては間違いがないのだが、それでも我が子と母としてオルフェを見ていると、それを回避出来る未来はないのか、ジグモンド家の歴史が終わってしまうのだとしても、我が子を戦場に送り出さずに済む方法はないのか、そう考えてしまうとため息をつく。

「まぁ、なんだ、ルミナよ。いずれ来る未来だとしても、未来には必要ない存在になっているかもしれない、その未来を信じて俺達英雄は活動をしている、そうならんから俺達が必要だ、と言うのもわかってはいるがね。ただ、俺達はそうならない未来を信じて戦っている、俺達は平和の使者ではない、どちらかと言えば死神の類だ、ただ、その死神が平和を望まんとは限らんだろう?」

「……、そうね。」

 死神の類だ、それは結婚する時にも言われた言葉だった。

 俺達英雄稼業は平和ではなく、闘争の為に生きている、どちらかと言えば、和睦の使者ではなく、戦における死神の類だ、と。

 それを承知の上で結婚した、それを承知の上で子を成した、ただ、オルフェを見ていると、ルミナの中での覚悟と言うのが、どんどんとなくなっていってしまう、そんな感情をルミナは経験していた、家族と離れ離れになって、それでもアーヴィンと結婚したいとムスタに残り、家族はアルブに帰ってしまって、生きているかどうかもわからない、ある意味では天涯孤独の身であるルミナ、そしてそのルミナと結婚して、オルフェを産むと決めたアーヴィン、お互いに覚悟が鈍る事はある、覚悟をしていたといっても、実際に親になってみて、分からなくなる事もある。

 ただ、それは仕方のない事、ジグモンド家を絶やす事は、戦争において「ガンナーの英雄」を新たに一から育成しなければならないという事になる、ガンナーの英雄の最低条件が「超記憶症候群」なのであれば、ジグモンド家以外にそれを伝承している家系があるとも限らない、ジグモンド家の当主はその特性として超記憶症候群を受け継いでいる、と言うよりは「受け継いだ者が当主になる」決まりが百代に渡って決まっている約束事であり、そしてそれを受け継いでいるオルフェは、次期当主として生きていかなければならない、それが嫌ならば、ルミナがオルフェを連れて何処かに雲隠れでもするしかない。

 ルミナはそれがわかっているから、表情を曇らせる事はあっても、オルフェが銃に関する事を学んだりする事を止めなかった、それは将来的にはオルフェを助ける事になる、それを妨害する事は、将来においてオルフェが戦場で無駄死する事になるきっかけを与えてしまうから、と。

「お母さん!見てみて!雪だるま!」

「はいはい、手はつけなくていいの?」

「あ!そうだった!」

 オルフェの無邪気な言葉が、ルミナの心を惑わせる、ここまで苦しいのであれば、いっそアルブに家族と共に戻った方が良かったのかもしれない、アーヴィンと結婚した事を悔いているのではなく、英雄として我が子を送り出さなければならない未来が待っている、そのことに心を痛めている、それが現実だろう。

 ただ、オルフェにそれを悟られる訳にはいかない、オルフェはオルフェなりに、ジグモンド家の次期当主として、己の運命と折り合いを付けようとしている、だから母である自分がそれに反対してはいけない、と。

「やれやれ。」

 アーヴィンは、はちみつ酒を傾けながら二人のやり取りを眺めていた、枯れ枝を雪だるまにさして、雪に埋もれた小石を探し出して目とボタンにするオルフェ、それを見守っているルミナ、その姿を見て、改めて自分が守るべきものはここにある、守るべき存在はここにいる、それを確信しながら、煙草に火を点けた。

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