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第十話 紫髭の鷹

「さてオルフェ、次に会うのは数か月先か、それとも数年先かね。」

「お父さん、気を付けてね!」

「hahaha!子供に心配される様な事でもない、ただ、お前さんの想いってのは、俺にとっては大切だからな。オルフェ、何かあったらお母さんを頼るんだぞ?決して、自分ひとりで抱え込んで、解決出来ない事を解決しようとしない、それが約束だ。」

「うん!」

「では、行ってまいる。」

 神との交信をした翌日、今日はスクールが休みだったオルフェは、ランドと遊ぶ約束をしていて、その為にルミナが送っていく準備をしている、そんな日常があった。

 その中で、アーヴィンは軍服に身を包んでスナイパーをケースに入れて、出動する準備をしていた、ドックタグを忘れない様に、と首からぶらさげて、オルフェの頬にキスをして、アーヴィンは転移を使って世界を渡った。

「行っちゃったわね。」

「うん。でも、お父さんがいないと困っちゃう人達がいるんでしょう?だから僕、さびしくないよ。」

 少し寂しそうなオルフェの顔を見て、ルミナはアーヴィンが早く帰ってきてくれる事を祈る、普段からそうしているのだが、無事を祈るのと早期の帰還を祈るのとでは、少々意味合いが変わってくるだろう。

 兎にも角にも、今はこうして世界を飛び回ってアーヴィンは仕事をしている、それがなければ自分達は食べていく事が出来ない、それがわかっていたから、ルミナは何も言わずにアーヴィンを見送っていた。


「ランド君!お待たせ!」

「お!オルフェ君!待ってたよ!」

 ランドの住んでいる地域までやってきたオルフェは、ルミナにスマートフォンを渡されて、帰る時間になったらそれで連絡をする様に、と言って車を走らせて帰っていった、オルフェはスマホをポケットにしまうと、ランドの方に走って行く。

「オルフェ君はその色が好きなの?リュックもその色じゃなかったっけ?」

「うん、僕の好きな色なんだ!お母さんの瞳の色と一緒なんだよ!」

 オルフェの着ている洋服、今は陽気が良いために上着は来ていなかったが、オルフェは基本的に空色や青色の洋服を好んで着ていた、ルミナの瞳の色が良く晴れた空の色と同じだから、と言って、その色を好んでいる、と言うのが実情だ。

 オルフェは父アーヴィンの血を色濃く継いでいる、肌の色然り、瞳の色である琥珀色然り、パーマ質な髪質然り、基本的にはアーヴィンの血筋を受け継いでいる、だからせめて身に纏う物は母に似た物を、と言って、空色だったり青色だったりの物品を好んで使用している、のがオルフェだ。

 空色の瞳、アルブにおいてはやや少な目ではあるが現れる事がある瞳の色ではあるのだが、この国ムスタにおいては、珍しいというべきか、移民の白人系が持っている瞳の色、とされていて、黒色の肌に空色や翡翠色の瞳、と言う現地民と移民の素養を持った人物もいる、そんな瞳の色だ。

「何しようか!銃の勉強はしてるの?」

「うん、してるよ!」

「じゃあ、俺にも教えてよ!教科書持ってきてる?」

「うん!」

 子供らしいやり取り、銃の扱いがどうで、この部品がどういった役割をしていて、どんな銃があって、何処の舞台に所属している人間が持っていて、どの様な射程や目的があって使われているのか、そんな事を流暢に話すオルフェと、それに興味津々なランド、という構図を、ランドの母は眺めながら笑っていた。

 ランドの母は元々が軍隊の家系の出で、自身は家を出たから関係を持っていないが、今でも兄が軍の伍長として活動している、と言う連絡を受けている程度には軍関係者に近い存在だった、だからこそオルフェの父であるアーヴィンが軍関係者であろうと、別段気にしないというべきか、別段偏見を持っていなかった、と言うのが詳細な話だ。

「オルフェ君、オレンジジュース、飲む?」

「はい!いただきます!」

「あらあら、礼儀のいい子ねぇ。」

「母ちゃん、俺もー!」

「はいはい。」

 ランドの母は二人分のオレンジジュースをグラスにいれて、氷を足して冷たい状態で提供する。

 アーヴィンが言っていた、この世界は科学的に発達した末に魔法を退化させた世界で、一応軍関係者は魔法学にも詳しい人間が残っていたり、歴史学においては魔法と言うのは研究対象として残っているが、基本的に人々の生活からは魔法は消えてしまった、その代わりに科学が発展していて、スマートフォンと言うのが新進気鋭の通信機として発売されたのが数年前、軍が使っていた通信機と言うのを小型化して小型化して、素子て利便性を突き詰めた結果が現在の連絡事情だ、と。

 それを聞いて覚えていたオルフェは、その歴史をランドに話している、ランドの母は、自分達が子供の頃にガラパゴス携帯が流行ったな、と思い出しながら、その話に耳を傾けてた。


「紫髭の鷹と呼んでくれたまえ、俺のコードネームだ。」

「紫髭の鷹……。聞いた事がないコードネームだ、何処の隊からの派遣だ?」

「ふむ、聞いていないかね?俺は本部付の大隊の隊員だ、ここが激戦区になっている、と本部から言い渡されてやってきた、詳しい事は本部に問い合わせたまえ。」

 科学文明としてはアーヴィン達の住まう世界から数十年ほど遅れている世界、銃に関してはM82でも問題はないが、ガラパゴス携帯を使うのには些か文明が追いついていない世界、にアーヴィンはやってきていた、アーヴィンの役割は基本的に前線の中での後方支援、ガンナーと呼ばれている所以は「スナイパーライフルによる長距離狙撃」を専門職としているからだ。

 紫髭の鷹、と言うのはアーヴィンが基本的に使っているコードネームで、ジグモンド家の歴代の当主達は「紫髭+動物」と言うコードネームを代々使ってきた、紫髭の鷹と言うのは、四十代前のジグモンド家当主と同じコードネームだ、その当主が亡くなってから千年は経つだろうか、紫髭の鷹と言う名は誰かに記憶されているわけでも、記録に残っているわけでもない、ジグモンド家の地下にある「保管室」のドックタグの中にこっそりと入っているコードネームの中に残っている、モルト・ジグモンドと言う当主が名乗っていたコードネーム、をアーヴィンは使っていた。

 歴代の中には「紫髭の豹」だったり「紫髭の虎」だったり、基本的には「紫髭」という言葉を受け継いできた、ジグモンド家がアーヴィンでちょうど百代目になる、歴史のある家系の中で、ジグモンドと言うファミリーネームが出来上がった頃、には英雄稼業をしていたと言う歴史がある、そんな歴史のあるコードネームだ。

 いずれはオルフェが継ぐ事になるであろう、その時にオルフェがどの当主から名を受け継ぐのか、銘を受け継いでジグモンド家の当主になるのか、それが楽しみでもあり、そしてそれまでにこの世界体系が「英雄を必要としなくなる未来」を望んでいるアーヴィンがいた、アーヴィンは当然の様に英雄としての跡を継ぎ、そしてオルフェにも継がせるのだと理解こそしていたものの、一人の親としては「戦争がなくなって欲しい」と願っているそんな矛盾を抱えている、それが「アキレス腱」になると理解していたから、誰かに言う事をしなかった、そんな感情を抱きながら、軍の大隊に合流した。

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