↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

21. 女神の制約

終盤にシノ視点が入ります

「は……? なんでカノンがいんの?」


 後ろ手で扉を閉めつつ、カノンを見つめてフォルテが小さく、しかし呆けた様子で口を開けた。


「流石フォルテくん。ばっちりなタイミングだよ」

「え、なに? どういうつもり?」


 ぽかんとした顔を浮かべながら部屋に入ってくるフォルテ。

 座椅子に座ったままカノンが視線を向けると彼と目が合い、何となく気まずさを感じて乾いた笑みが出る。


 一瞬、フォルテがカノンから目線を外し、カノンが座っている座椅子へと目を向けた。


「どうしたの?」

「いや、いいよ。大丈夫」

「大丈夫って……あっ、もしかしてこの座椅子、いつもはフォルテが座ってるとか?」


 カノンの何となくの思いつきに、フォルテが目を丸くした。


 後ろでは、シノとレガートが堪えきれないように笑っている。

 もっとも、二人とも全く声は抑えられていなかったが。


「その座椅子はフォルテくんのお気に入りでね。といっても、直接言葉にしたことはないけれど」

「そういう面倒くさいやつなのよ」


 散々である。

 カノンは苦笑しつつ、座椅子を譲ろうと腰を上げると途中でフォルテに止められた。


「いいよ、カノンなら」


 大丈夫というのはそういうことか、とカノンは浮かせた腰を下ろし直す。


「なんなら俺の上に座る?」

「大丈夫です」

「なんだよ大丈夫って……」


 深い溜息のわりに、フォルテは頬を緩ませて柱にもたれる。


 こんな彼を見るのは、カノンは初めてだった。

 良い意味で気安く、もっと言えば気を許しているような表情。


 まるでシノだけでなく、この場にいる全員が家族だと感じていると思えるほどの。


「それで、本題は?」

「そうだった。あまり時間がないんだった。僕は第一皇子だからね、一応」


 レガートは言いながらフォルテの分のカップをちゃぶ台に用意し、紅茶を注いだ。


「ならさっさと本題に入りなさいよ」


 紅茶を啜るシノに促されたレガートが咳払いをし、カノンを青い瞳に捉えた。


「今日はカノンちゃんに女神の制約のことを話そうと思ってね。あー……こうして集まってもらったのだよ」


 聞き慣れない単語に、カノンはきょとんとした顔で瞬きをする。


「女神の制約?」

「そう。僕ら転生者はこの世界に転生する際、高い能力や地位を約束されているんだ。僕は第一皇子だし、シノは侯爵家生まれ、フォルテくん……は最強の騎士。そして、カノンちゃんが現人神様といったようにね」


 確かに部屋に集まった転生者たちは皆、特別な立ち位置の人間だった。

 レガートは言い淀んだが、フォルテも元々は侯爵家の生まれであるし、カノンも現人神である前に元侯爵令嬢だ。


「ただ、その代わりに制約が女神から課せられるんだよ。勝手に転生させられて、勝手に縛られる。迷惑なものだよ全く」

「それが女神の制約……じゃあ、皆さんが何かを言いかけてやめるのは……」

「うん。それはフォルテくんの制約の影響だね。ちなみに、何を言おうとしたのかすら言えないから聞かないでくれたまえ」


 これまでのことが、ようやく腑に落ちたカノン。

 いつの間にか力の入っていた両肩を落とし、確かめるようにフォルテの顔を見遣った。


 フォルテは何も言わず、腕を組んで目を閉じている。

 何を言おうとしたのか聞きたい。しかし、彼らはそれすら口にできないと言う。


 もどかしい思いに苛まれながら、カノンはレガートに向き直って続きを待った。


「制約を解除するには、女神から与えられた試練を乗り越えるしかない。ただ、この中でそれができたのはシノだけだね」


 レガートがカップに口をつけ、目を眇めてシノを見た。


「私のは二人に比べたら難易度が低かっただけよ」

「そんなことないさ。たった一人で侯爵家に繁栄をもたらせてみせたじゃないか」

「基盤があったからよ。じゃなきゃ小娘ひとりじゃどうしようもなかったわ」


 一人掛けソファの上で、太ももに肘を乗せる形で頬杖をつくシノは、そっぽを向いて言い放った。

 その言葉の裏に、自身が想像もつかないようなことがあったであろうことを感じ取るカノン。


 遠い目をするシノの横顔は、それを証明していた。


「では、レガート様もフォルテも何か制約があって、試練があるんですよね」

「そうだね。僕のは少し厄介で、フォルテくんのは……まぁ、難しいね。ちなみに、僕たちが時折口を噤んでしまうのはフォルテくんの制約によるものだよ」

「フォルテの? でも、制約は個人に課せられているのでは……?」


 ちゃぶ台に崩れるように上体を倒したレガートが溜息をつく。


「それほどに厄介なのさ。女神の制約は。抗おうとすれば罰則(・・)もあるしね」


 罰則、という言葉にカノンは思案を巡らせる。


 フォルテたちが何かを言いかけてやめるのは制約のせい。

 ただ、カノンの記憶ではフォルテとほかの二人とでは決定的な違いがあった。


 シノとレガートは言葉を詰まらせるだけで、何事もない様子だった。

 しかし、フォルテだけは言葉を詰まらせた際に、苦痛に耐えるように顔を歪めていたのだ。


「もしかして、フォルテが苦しそうにしてたのって……」


 カノンは勢い良く顔を上げ、フォルテを見る。

 すると、レガートが小さく笑みを溢した。


「フォルテくんは愛されているねぇ。そう、女神の制約に反する行動をしようとすると激痛に襲われるんだ。のたうち回るぐらい痛いのによく我慢できるよね、フォルテくんは。ちなみに僕はのたうち回ったよ」

「まぁ、私も二度とごめんだわ」

「俺も嫌だよ、別に」


 明るく話すレガートにシノが淡々と追従し、フォルテが微かに困惑した顔で続く。


「女神の制約っていつ知るものなんですか?」

「そう、そこなんだよ。制約は転生する時に女神から聞かされるんだ。でも、カノンちゃんは自分の制約が何なのか知らないのだろう?」

「知らないですね……それどころか、女神様と会った記憶もないです」


 顎に手を当て、首をひねるカノン。

 いくら遡ってみても、記憶はこの世界の両親の顔に行き当たる。


 女神の存在や転生など、前世の記憶がなければ信じることもなかっただろう。


「……なるほど」


 レガートの声が、先ほどよりも低くなる。

 カノンが顔を上げると、レガートはカップをちゃぶ台に置いたところだった。


「僕たちは皆、女神と話し、制約を課せられている。普通に考えればカノンちゃんも同じはず。なのに、カノンちゃんは記憶にないと言う……そこから考えられる可能性はひとつだね」


 カノンが息を呑むと、レガートが微笑んだ。

 その笑みは、カノンが答えを出すのを待っているようだった。


「女神の制約……?」

「その通り。カノンちゃんが女神に関わる一切を覚えていないのは、それが原因だと考えるのが自然だ」


 レガートはそう言うと、カノンではなくフォルテへと視線を向ける。


 当のフォルテは何も答えない。

 ただ、組んでいた腕を解き、ゆっくりと目を開いてカノンを見つめた。


「……まぁ、そうなんだろうね」


 フォルテはそれ以上、口を開かなかった。



◇



「今日はいつものアレ、言わなかったじゃない」


 カノンとフォルテが出ていった扉へと向けていた視線をレガートに向け、シノが足を組み直す。


「バス事故被害者の会のことかい? 言おうとしたらダメだったからね。全く、忌々しいったらありゃしないよ」

「同感ね」


 レガートは畳の上で胡座をかいたまま、少し後ろに手をついて上体を僅かに倒した。


「カノンちゃん、良い子だったね。相変わらず」

「でしょ。私の義妹だもの」


 そうなると思っていた。

 いや、そうなってほしかった。

 あんなことが起きなければ、この世界に転生などしなければ。


 いくら考えたところで意味はない。

 シノもレガートもフォルテも、そして、カノンも。今はこの世界に生きている。


 胸に込み上げてくるものを誤魔化すように、シノは目を閉じた。


「神楽(・・)は本当気が早いね。今も昔も。変わらない」


 シノは何も答えずに立ち上がる。

 言葉を発せば、閉じ込めたものが溢れてしまいそうだった。


「フォルテくんのことは、まだ弟だと思えない?」

「……弟よ。ずっと」


 この3年、一度も名を呼んだことのない弟を思いながら、シノは扉へと足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。