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既読がつかない夏  作者: 蒼空
既読の向こう側

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37/40

第三十七話  権限

第三十七話です。


今回は、

”選ばれること”

を意識して書いていました。


自分で選ぶのと、

選ばれてしまうのって、

似ているようで全然違いますよね。


夜の海。


黒い波。


防波堤。


レンのスマホ画面だけが、

異様な光を放っていた。


  管理者権限が要求されています


YES


NO


そして。


YESボタンの横には、

レンの名前。


レンは息を呑む。


「......なんで俺なんだよ」


誰も答えない。


いや。


答えられる人間が、

ここにはいなかった。


海の奥。


巨大な顔が、

ゆっくり笑う。


『見えているから』


その声は、

直接頭の中へ響いた。


レンは思わず耳を押さえる。


『ミナが見た』


『詩音が見た』


『そして今は、お前が見ている』


波が揺れる。


海の底で、

無数のスマホが光っていた。


星空みたいに。


でも。


全部沈んでいる。



その時。


朝倉ミナが前へ出た。


「レン」


静かな声。


レンが顔を上げる。


ミナは、

少しだけ笑った。


三年前と同じ笑顔だった。


「本当はね」


風が吹く。


制服の裾が揺れる。


「最初に見つけたの、

私じゃないんだ」


レンの呼吸が止まる。


「え?」


ミナは海を見る。


黒い海。


巨大な顔。


その中心。


沈み続ける

詩音。


「詩音だった」


全員が固まる。



三年前。


あの日。


夜の海。


五人。


最初に通知を見つけたのは、

ミナではなかった。


詩音だった。


  見つけた


たったそれだけの通知。


ふざけて開いた。


返信した。


だから。


”向こう”は気づいた。


ここに、

見える人がいると。


ナギは震える。


「そんな......」


ミナは頷く。


「私は後から気づいただけ」


だから。


詩音が消えた。


だから。


詩音だけが、

ずっと引っ張られている。



その時。


海の底から、

本物の詩音の声が響いた。


画面。


YESボタンが、

少しずつ大きくなっている。


まるで。


押されるのを待っているみたいに。


『レン!!』


詩音の叫び。


『俺みたいになるぞ!!』


レンは歯を食いしばる。


でも。


その瞬間。


スマホ画面が切り替わった。


写真。


三年前。


五人で撮った最後の写真。


ミナ。


ユウト。


ナギ。


レン。


そして詩音。


全員笑っている。


でも。


その写真の下。


コメントが追加されていた。


  管理者候補:レン


ゾッとする。


海が大きく揺れる。


ザァァァッ!!


巨大な顔が、

少しずつ近づいてくる。


その時。


ミナがレンの手を握った。


冷たい。


でも。


確かに人間の温度だった。


「思い出して」


レンが顔を上げる。


ミナの目には、

涙が浮かんでいた。


「詩音が最後に何を言ったか」


レンの頭が痛む。


記憶。


夜の海。


風。


波。


落ちる音。


そして。


詩音の最後の言葉。



『見つけたんじゃない』



ノイズ。


海。


悲鳴。



『見つかったんだ』



その瞬間。


レンのスマホ画面が、

大きく割れた。


バキッーー!!


YESボタンが消える。


NOボタンふぁけが残る。


海の奥の巨大な顔が、

初めて表情を歪めた。


怒り。


憎しみ。


焦り。


全部混ざった顔。


そして。


防波堤の先。


海の中心で。


沈んでいた詩音が、

始めて少しだけ浮かび上がった。

読んでくださってありがとうございました。


今回は、

”見つける側と見つかる側”

をテーマにしていました。


今までの謎が少しずつ繋がり始める回でした。


あと、

「見つけた」と「見つかった」って、

一文字違うだけなのに意味が全然変わるので結構

好きな表現です。

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