第三十三話 未読
第三十三話です。
今回は、
”引っ張られる感覚”
を意識して書いていました。
スマホ見てるだけだったのに、
気づいたらどんどん深いところまで行ってくる
感じってありますよね。
冷たい手だった。
海の中から伸びた腕が、
レンの足首を掴んでいる。
「ッ!!」
レンは反射的に後ろへ倒れ込む。
防波堤のコンクリートへ、
スマホが落ちた。
ガンッ。
画面がひび割れる。
でも。
通話だけは切れない。
『逃げろ!!』
本物の詩音の叫び声。
その瞬間。
海面から、
大量の手が伸びた。
ザバァッ!!!!
ユウトがレンの腕を掴む。
「離せ!!」
ナギも必死に引っ張る。
黒い水。
濡れた制服。
スマホを握った。
その全部が、
レンを海へ引きずり込もうとしていた。
ミナが海へ向かって叫ぶ。
「返して!!」
その声で、
海が一瞬だけ静まる。
レンの足首を掴んでいた手が、
少し緩む。
その隙に、
ユウトたちがレンを引き上げた。
レンは咳き込みながら、
防波堤へ倒れる。
でも。
ズボンの裾だけが、
真っ黒に濡れていた。
海水じゃない。
インクみたいな黒。
その時。
レンのスマホが震える。
割れた画面。
そこへ、
新しい通知が表示される。
既読メッセージ 1
送り主。
レン
レンの呼吸が止まる。
「......は?」
遅る遅る開く。
そこには。
『まだ見えてる?』
自分のアイコン。
自分の名前。
でも。
送った覚えなんてない。
ユウトが青ざめる。
「お前......」
その瞬間。
レンのスマホ画面へ、
フロントカメラが勝手に映る。
暗い海。
レン。
その後ろ。
”レン”が立っていた。
同じ制服。
同じ顔。
でも。
目だけが真っ黒だった。
レンの背筋が凍る。
偽物のレンが、
ゆっくり笑う。
『見つけた』
レンが振り返る。
誰もいない。
でも。
カメラの中だけには、
もう一人の自分がいる。
その時。
海面の奥から、
本物の詩音の声が聞こえた。
『レン!!』
レンたちは海を見る。
黒い波。
その下。
薄く、
人影が見える。
詩音。
海の底から、
こちらへ手を伸ばしていた。
でも。
その周囲に、
大量の顔が浮かんでいる。
知らない人たち。
みんなスマホを持っていた。
ミナが震える声で言う。
「......引き込まれる」
レンの頭痛が強くなる。
その瞬間。
また通知。
アカウント複製を開始しますか?」
YES
NO
ユウトが叫ぶ。
「だから押すなって!!」
でも。
今回は違った。
YESボタンを押そうとしているのは、
レンの指じゃない。
画面の中の”偽物のレン”だった。
カメラ越しに、
こちらと同じ動きをしている。
でも。
少しだけズレている。
偽物のレンが、
ゆっくり口を開く。
『こっちの方が楽だよ』
その瞬間。
ナギがレンのスマホを奪い、
地面へ叩きつけた。
バキッ!!
画面が完全に割れた。
通話が切れる。
通知も止まる。
静寂。
波の音だけ。
レンは息を切らしながら、
ナギを見る。
ナギの目には、
涙が浮かんでいた。
「もう見ないで」
掠れた声。
「これ以上、
連れていかれないで」
その時。
むなが海を見つめたまま、
小さく呟く。
「......来る」
全員が顔を上げる。
沖の方。
暗い海の奥。
大量の光が、
ゆっくりこちらへ近づいていた。
スマホの画面だった。
読んでくださってありがとうございました。
今回は、
”自分じゃない自分”
をテーマにしていました。
カメラって、
たまにワンテンポ遅れるだけで妙に怖いですよね。
あと、
暗い海からスマホの光が近づいてくる演出、
かなり好きです。




