第三十一話 海へ
第三十一話です。
今回は、
”戻る場所”
を意識して書いていました。
昔行った場所って、
変わってないはずなのに、
夜だと全然別の場所みたいに見える時ありますよね。
教室後方。
”詩音だったもの”が、
ゆっくり立ち上がる。
黒い水が、
床を這うみたいに広がっていた。
レンたちは動けない。
でも。
朝倉ミナだけは、
真っ直ぐそれを見ていた。
ミナが小さく言う。
「行こう」
レンが息を呑む。
「......海?」
ミナは頷く。
「終わらせないと」
その瞬間。
教室中のスマホが、
一斉に鳴った。
ブブブブブブッ!!
通知。
位置情報が共有されました
地図アプリ。
表示されている場所。
三年前、
五人で行った海。
ユウトが顔を青ざめさせる。
「マジかよ.......」
その時。
後方から、
水を踏む音が聞こえた。
ザブッ。
詩音だったものが、
一歩ずつ近づいてくる。
でも。
歩き方がおかしい。
関節がズレているみたいに、
ぎこちなく揺れていた。
ナギが震える。
「......レン」
レンはミナを見る。
ミナは、
苦しそうな顔をしていた。
でも。
どこか決意している目だった。
「急がないと、
”向こう”が開く」
その言葉の意味を聞く前に。
教室の窓ガラスが、
一斉に割れた。
ガシャアアアッ!!
悲鳴。
風。
黒い水が、
大量のスマホが沈んでいた。
全部、
通知が鳴っている。
見つけた
見つけた
見つけた
レンの頭が割れそうになる。
その時。
ミナがレンの手を掴んだ。
冷たい。
でも。
確かに人の手だった。
「走って!!」
夜の街。
レンたちは、
海へ向かって走っていた。
信号。
コンビニ。
住宅街。
全部いつも通りなのに。
スマホ画面だけが異常だった。
位置情報アプリ。
自分たちのアイコンの後ろを、
もう一つのアイコンが追いかけている。
黒い人型マーク。
一定距離で、
ずっとついてくる。
ユウトが息を切らしながら言う。
「なんなんだよあれ!!」
誰も答えられない。
その時。
ナギが立ち止まった。
レンが振り返る。
ナギは、
道路脇の窓ガラスを見ていた。
そこには。
四人しか映っていない。
レン。
ユウト。
ナギ。
ミナ。
「.......詩音がいない」
レンの呼吸が止まる。
でも。
位置情報アプリには、
まだ”六人目”が表示されている。
ゆっくり。
確実に近づいている。
海へ着いた頃には、
空気は完全に夜になっていた。
防波堤。
黒い波。
風の音。
三年前と同じ景色。
でも。
違う。
海の中央。
遠くの水面に。
”誰か”が立っていた。
ザァァーー
波に揺れながら、
こちらを見ている。
ミナの顔色が変わる。
「......来た」
その瞬間。
レンのスマホへ、
ビデオ通話がかかってくる。
着信者。
詩音
レンは震える指で、
通話を開く。
映像。
真っ暗。
でも。
水温だけが聞こえる。
ザブッ。
ザブッ。
そして。
掠れた声。
『......レン』
本物の詩音の声だった。
弱々しい。
遠い。
『そこ見るな』
レンの喉が詰まる。
「詩音!?」
通話の向こうで、
笑い呼吸。
そして。
『あれ、俺じゃない』
直後。
海の中央に立っていた”それ”が、
ゆっくり顔を上げた。
真っ暗な顔。
空洞の目。
濡れた口。
そして。
詩音の声で笑った。
読んでくださってありがとうございました。
今回は、
”同じ場所なのに違う”
感じを意識していました。
夜の海って、
昼と夜の場所みたいになりますよね。
あと、
位置情報で追いかけられる演出、
かなり好きです。




