第二十九話 同期
第二十九話です。
今回は、
”中に入ってくるもの”
を意識して書いていました。
スマホって、
向こうを見る道具でもあるけど、
向こうから見られる道具でもある気がしましよね。
暗転した教室。
誰も声を出せなかった。
停電。
静かな呼吸音。
そして。
さっきまで
詩音だった”何か”の声だけが、
頭に残っている。
『やっと入れた』
レンの喉が乾く。
その時。
ブブッ。
暗闇の中で、
スマホ画面だけが一斉に光った。
白い光。
そこに表示されていたのは。
同期中 67%
ユウトが掠れた声を漏らす。
「......何が?」
誰も分からない。
でも。
嫌な予感だけは、
全員同じだった。
パッーー
突然、
教室の電気が戻る。
レンたちは反射的に後方を見る。
そこには。
誰もいなかった。
詩音の姿が消えている。
でも。
席だけが濡れている。
机。
床。
黒い水。
海水みたいな匂い。
佐伯ナギが震える。
「......やだ」
レンはゆっくり近づいた。
机の上。
詩音のスマホ。
画面だけが光っている。
新しい端末との同期が完了しました。
その直後。
教室後方のロッカーから、
通知音が鳴った。
ピコン。
全員固まっている。
ロッカー。
閉まっている。
でも。
中から振動音が続いてる。
ブツッ。
ブツッ。
ユウトが顔を引きつらせる。
「開けるのか......?」
誰も動けない。
その時。
勝手にロッカーが開いた。
ギィーー。
中。
そこには。
古いスマホが、
大量に積まれていた。
全部、
電源がついている。
画面には、
同じ通知。
見つけた
レンの呼吸が止まる。
さらに。
スマホの壁紙。
全部違う。
知らない人。
制服。
子供。
大人。
でも。
全員、
背景に”海”が映っていた。
ナギが後ずさる。
「......なに、これ」
その瞬間。
一台のスマホへ、
ビデオ通話がかかってきた。
着信者。
ミナ
レンの心臓が跳ねる。
誰も触っていないのに、
勝手に通話が開く。
ザーッーー
暗い映像。
海。
夜。
そして。
ミナが映っていた。
制服姿。
濡れた髪。
でも。
今までより、
ずっと鮮明。
まるで、
本当にそこにいるみたいだった。
ミナは苦しそうに言う。
『逃げて』
レンが息を呑む。
『もう詩音じゃない』
ノイズ。
映像が乱れる。
その奥で。
誰かが立っている。
詩音。
でも。
首の角度がおかしい。
人形みたいに、
ゆっくり揺れている。
ミナが泣きそうな声を出す。
『あれ、”中身”が違う』
その瞬間。
詩音が、
ゆっくりカメラを向いた。
黒い瞳。
濡れた笑顔。
そして。
画面越しに、
とちらへ近づいてくる。
ありえない速度。
ザーッ!!!!!!
映像が乱れる。
次の瞬間。
教室後方の窓ガラスへ、
詩音の姿が映った。
レンたちは振り返る。
誰もいない。
でも。
ガラスの反射の中だけで、
詩音が立っている。
その背後。
もっと大きな黒い影。
海水みたいに揺れている。
そして。
詩音の口が、
ゆっくり動く。
『次、レン』
ブブブブッ!!!
レン7のスマホが激しく震える。
画面。
アカウント移行を開始しますか?
YES
NO
その二択だけが、
暗い画面に浮かんでいた。
読んでくださってありがとうございました。
今回は、
”同期”
をテーマにしていました。
機種変更とかで、
勝手にデータ戻ってくる時、
便利だけど少し怖いですよね。
あと、
大量の古いスマホが並んでる光景、
かなりホラー映えして好きです。




