第二十六話 ログ
第二十六話です。
今回は、
”記録と記憶のズレ”
を意識して書いています。
自分では覚えてるつもりなのに、
データを見ると全然違うときってありますよね。
フロントカメラの画面。
レンたち四人の後ろに、
詩音が立っていた。
制服姿。
少し伏せた目。
今までのノイズとは違う。
”存在”として、
そこにいた。
レンの呼吸が止まる。
でも。
誰も振り返れなかった。
画面の中の詩音だけが、
静かにレンたちを見ている。
その時。
ブブッ。
スマホへ、
新しい通知。
アカウントの復元が完了しました。
教室の空気が変わる。
ユウトが掠れた声を漏らす。
「......復元って、何を」
レンは恐る恐る、
グループ一覧を開いた。
そこには。
今まで存在しなかった、
新しいトーク履歴が追加されていた。
グループ名:夏の五人
作成日。
3年前
レンの指先が震える。
開く。
大量のメッセージ。
写真。
動画。
通話履歴。
全部、
五人分だった。
”最初から存在していた”みたいに。
ユウトが青ざめさせる。
「......俺、この通話覚えてる」
深夜二時三分。
五人で通話していた履歴。
そこには、
詩音の名前もあった。
ナギが小さく呟く。
「消えてたんじゃない」
レンが顔を上げる。
ナギは、
涙を堪えるみたいに続けた。
「消されたんだ」
静かな教室。
窓の外では、
夜が近づいている。
その時。
グループへ、
新しいメッセージが送られた。
詩音
『やっと戻れた』
直後。
教室後方の席から、
スマホの通知音が鳴る。
ピコン。
レンたちは同時に振り返る。
誰もいない。
でも。
机の上
に、
古いスマホが置かれていた。
黒いケース。
画面の割れた端末。
レンは息を呑む。
「.......これ」
ナギが震える声を出す。
「詩音の」
空気が止まる。
ユウトが小さく後ずさる。
「なんでここにあるんだよ」
レンは恐る恐る近づく。
スマホ画面は、
まだ光っている。
表示されているのは、
録画アプリ。
タイトル。
2023_08_13_0213
レンの心臓が大きく跳ねる。
午前二時三分。
再生ボタンが、
勝手に押された。
ザーッーー
ノイズ。
風の音。
海。
そして。
五人の声。
『早く帰ろーぜ』
ユウトの声。
『まだ大丈夫』
ミナの声。
『タグ付けやめろって』
詩音の声。
笑い声。
でも。
途中から空気が変わる。
ノイズ。
波の音。
ミナが小さく言う。
『......また通知きた』
詩音が近づく。
『見せろ』
数秒の沈黙。
その後。
詩音の声が、
少し低くなる。
『これ、俺宛だ』
レンの背筋が凍る。
録画の奥で、
通知音が鳴る。
ピコン。
知らない声。
ノイズ混じり。
『見つけた』
その瞬間。
録画が大きく乱れた。
ザーッ!!!!
悲鳴。
波。
走る音。
そして。
最後に。
詩音の声だけが、
はっきり残る。
『......誰だよ、お前』
ブツッーー
録画が切れた。
教室が静まり返る。
されも喋れない。
その時。
レンのスマホへ、
写真通知が届く。
開く。
夜の海。
防波堤。
こちらを振り返る、
五人の姿。
そして。
写真の奥。
暗い海の中に。
”六人目”が立っていた。
読んだくださってありがとうございました。
今回は、
”残されたログ”
を意識して書いていました。
昔の通話履歴とか録画って、
消したはずなのに残ってたりすると妙に怖い
ですよね。
あと、
割れたスマホって存在感あって結構好きです。




