第二十四話 し
第二十三話です。
今回は、
”消された記憶を思い出す”
ことを意識して書いていました。
思い出したいのに、
思い出した瞬間が怖いことってありますよね。
誰も座っていない席が、
ゆっくり揺れていた。
夕方の教室。
震え続けるスマホ。
このユーザー名は使用できません
レンは息を呑んだまま、
佐伯ナギを見ていた。
ナギの顔は、
真っ白だった。
「......佐伯」
ナギは小さく首を振る。
「言っちゃダメ」
掠れた声。
黒川ユウトが眉をひそめる。
「なんで」
ナギは震える唇で呟いた。
「名前を呼ぶと、
思い出しちゃうから」
教室の空気が静まり返る。
その瞬間。
ブブッ。
レンのスマホへ、
新しい通知。
削除済みのユーザーが参加しました
三人同時に顔を上げる。
グループメンバー一覧。
そこに。
削除済みユーザー
が追加されていた。
アイコンは、
真っ黒。
でも。
今までと違った。
プロフィール欄に、
文字が増えている。
”まだいる”
ユウトが低く呟く。
「.......やばいだろこれ」
その時。
グループへ、
新しいメッセージが送られる。
削除済みユーザー
『思い出した?』
直後。
教室後方の窓ガラスへ、
人影が映った。
長い髪。
白い制服。
ミナ。
でも。
その隣に、
男子制服の影が立っていた。
ノイズ混じりだった輪郭が、
少しずつ鮮明になっている。
レンの頭がズキっと痛む。
海。
防波堤。
夜。
誰かの声。
『しーー』
そこまで思い出した瞬間。
教室の電気が、
一瞬だけ明滅した。
パッーー
暗転。
次の瞬間。
教室のモニターが、
勝手に点滅する。
ザーッーー
映像。
三年前の夏。
スマホで撮られた動画。
五人の笑い声。
画面の端で、
ミナが振り返る。
『ちゃんと映っている?』
その奥から、
男子の声が聞こえる。
『おい、名前出すなって』
レンの呼吸が止まる。
この声。
知っている。
でも。
思い出せない。
動画の名kで、
五人目がカメラへ近づく。
ノイズ。
ブレる画面。
そして。
一瞬だけ、
顔が映った。
短い黒髪。
少し眠そうな目。
笑った口元。
その瞬間。
ナギが、
小さく声を漏らした。
「......しおん」
教室の空気が止まる。
ブツッーー
動画が切れた。
同時に。
教室中のスマホが、
激しく震え始める。
ブブブブブッ!!
通知。
通知。
通知。
画面が、
全部同じ表示になる。
ユーザー”詩音”を復元しますか?
レンの背筋が凍る。
ユウトが青ざめる。
「......復元ってなんだよ」
その時。
教室後方から、
足音が聞こえた。
コツ。
コツ。
ゆっくり。
誰かが歩いていくる。
でも。
姿が見えない。
レンたちは動けなかった。
音だけが近づいてくる。
コツ。
コツ。
そして。
誰もいないはずの席へ、
”何か”が座った。
ギィ......。
直後。
レンのスマホへ、
個人メッセージが届く。
送り主。
詩音
内容。
『やっと思い出した』
その瞬間。
既読が、
初めて”5”になった。
読んでくださってありがとうございました。
今回は、
”名前を思い出した瞬間”
を意識していました。
人の名前って、
思い出せそうで思い出せない時、
妙にひっかかったりしますよね。
あと、
誰も座ってない席が揺れるの、
かなり怖いです。




