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既読がつかない夏  作者: 蒼空
夏休み前線

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第十話  三年前の動画

第十話です。


今回は、

少しだけ”ミナが普通に生きていた頃”

の空気を書いていました。


昔の動画って、

その時は何でもないのに、

後から見ると妙に切なくなる時がありますよね。

放課後。


教室には、

西日だけが差し込んでいた。


「......これ」


佐伯ナギが、

静かにUSBメモリを机にの上へ置く。


レンと

黒川ユウトは顔を見合わせた。


「何入ってるんだ?」


ユウトが聞く。


ナギは少しだけ黙ってから答えた。



「......三年前の動画」


空気が止まる。


レンがゆっくりUSBを見た。


「ミナの?」


ナギは頷く。


「消したと思ってた。でも残ってた」


その言葉が、

妙に頭に残った。



数分後。


三人は視聴覚室にいた。


古いパソコン。


閉められたカーテン。


少しくらい部屋。


USBを挿し込む。


中に入っていた動画ファイルは、

全部で十二本。


日付は、

三年前の夏休み。


「......見るぞ」


レンが再生ボタンを押した。


画面が明るくなる。


そこに映っていたのはーー


海だった。


青い空。


眩しい日差し。


波の音。


そして。


『ちょ、撮ってる?』


カメラの前で笑う、

朝倉ミナ


レンの呼吸が止まりそうになる。


普通だった。


笑って。


走って。


友達と話して。


どこにでもいる、

ただの女子高校生だった。


『やめてってー!』


動画の中で、

ミナが笑いながら手で顔を隠す。


その後ろで、

ナギの声が聞こえた。


『ミナ、海入る?』



『入る!』


今より少し幼い声。


レンは隣を見る。


ナギは黙ったまま、

画面を見つめていた。


動画は続く。


コンビニ。


夏祭り。


教室。


どうでもいい話。


笑い声。


そのどれもが、

”ちゃんと生きていた時間”

に見えた。


ユウトが小さく言う。


「......普通じゃん」


レンも同じことを思っていた。


怖くなんかなかった。


その時。


動画が一瞬止まる。


ザーッーー


ノイズ。


「.......?」


画面が乱れる。


次の瞬間。


映像の奥に、

誰かが立っていた。


白いシャツ。


ぼやけた人影。


「今の何」


ユウトが巻き戻す。


でも。


そこに誰も映っていない。


「気のせいか......?」


レンが呟いた時。


ナギだけが、

画面を見たまま固まっていた。


「......佐伯?」


ナギはゆっくり口を開く。


「これ......最後の日の動画」


空気が変わる。


「最後?」


「ミナがいなくなる日の夕方」


レンの喉が乾く。


動画の中では、

ミナが笑っていた。


夕焼けの海沿い。


カメラへ向かって、

手を振っている。


『また明日ねー!』


そこで映像が止まる。


数秒の暗転。


そして。


ノイズ交じりの映像へ切り替わった。


暗い道路。


荒い呼吸音。


ブレるカメラ。


『......っ、はぁ......』


ミナの声。


走っている。


誰かから逃げるみたいに。


「おい......」


ユウトの顔から笑みが消える。


動画の奥で、

足音が聞こえた。


ミナが小さく振り返る。


そこには誰も映っていない。


でも。


確かに、

”誰かいる”感だけがあった。


『......やだ』


ミナの震えた声。


次の瞬間。


映像が激しく乱れた。


ザーッ!!


画面いっぱいにノイズ。


音声が途切れる。


そして最後に。


ミナの顔が、

画面いっぱいに映った。


泣いていた。


『見つけて』


ブツッーー


動画が終わる。


視聴覚室に、

エアコンの音だけが残った。


誰も喋らない。


その時。


レンのスマホが震えた。


通知。


 動画を視聴しましたか?


送り主不明。


そして、

その下にはもう一件。


 朝倉ミナがオンラインです


時刻は。


午前二時十三分だった。




読んでくださってありがとうございました。


今回は、

少しだけ”普通だった頃”のミナを書いていました。


昔の動画って、

その時の空気まで残っている感じがして、

たまに見返したくなります。


でも、

消えたはずの時間ほど、

忘れられなかったりしますよね。

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