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元プロゲーマー、VRで銃が当たらないので投げナイフだけで無双します。  作者: 那須 儒一
四章 ジャパンリーグ編

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73話 後日談②

翌日――柴田邸もとい、茜ちゃんの家に最後の荷物の回収に向かう。


「海人くん……おかえり!」


楓が珍しく出迎えてくれる。


「どうしたんだ?」


「最後に、私の手料理を振る舞わせてよ!」


「あ、ああ……ありがたいけど……いいのか?」


「VTuberを辞めたら急に他人行儀になったじゃない……私たちその程度の関係だったの?」


「……その程度の関係だと思うぞ」


「あーあ、海人くんの大好きなオムライスを作ろうと思ったのになあ……そんな態度じゃ、卵かけご飯になるかもなあ」


楓は腕を後ろに組み、わざとらしく顔を逸らしてみせる。


「わかった。俺が、悪かったって、楓のオムライスが、どうしても食べたいんだ!」


「ふふ、分かればよろしい!

大盛りで作ってあげるね!」


楓は以前よりもかなり気さくに話すようになった。

自分を演じてた頃の楓より、ずっと素直で可愛い。


……彼女の料理を食べられなくなるのは少し寂しいが……。


§


「おまちどうさま!」

テーブルの上に大皿でオムライスが乗せられる。

とろとろの卵の上に濃厚なデミグラスソースがかかっていて、湯気とともに深みのある匂いが食欲をそそる。


「うまそう! いっただきま〜す!」


スプーンを片手に口いっぱい頬張る。


「う、うまい!」

口の中でふわふわの卵とデミグラスソースが絡み合い、口の中でチキンライスとともに広がっていく。


「海人くん……私のご飯が食べたくなったら、いつでも遊びに来ていいからね……」


そんなこと言われたら、毎日だって通いたくなる。


「楓……ありがとな……」


「うん!男は胃袋で掴めって……結花さんが言ってたから!」


「ははは……俺はとっくの昔に、楓に掴まれているよ……」


大盛りのオムライスが無くなるまで、二人で言葉を交わした。


「じゃあね……お皿洗っておくから!」


「あ、ああ……」

目の前の楓は、あっさりとした、別れの言葉を残し――お皿を台所へと運んでいく。


去り際に耳元に楓の息がかかる――

「大好きだよ……」


彼女は、鼻歌を歌いながら部屋から出ていった。


……ったく、こいつは最後まで……

心を揺らしてきやがって……。


§


離れの部屋はがらんとしていた。

荷物の無くなった部屋は、いつも以上に寂しく見える。


部屋の隅に最後の段ボールがぽつんと置かれていた。


……こいつを運び出したら、終わりか。


「泉先輩……手伝うっすよ!」


「おっ、気が利く後輩A!」


「誰がAっすか……って、相変わらずっすね」


岬がため息をつきながら、段ボールを一緒に抱えてくれる。


抱える際に、岬の指先に手が触れる。


座席を倒した車のトランクに荷物を積み込む。


「よしっ! 岬――ありがとな!」


「はいっす!

よかったっすね、モブの後輩Aが手伝ってくれて!」


「なんだ、気にしてたのか?」


「はい! 気にしてるっす!」

岬は満面の笑みを俺に向ける。


「そこまでストレートに言われると、悪いことをした気になるな」


「そう思うなら、ウチが寂しくなったら……また、会いに来てくださいね……」


微笑む岬の目尻から、涙が落ちる。


「あっ……あれ……どうして……」

岬は困惑していた。


「ごめんなさいっす……最後は泉先輩を笑って送り出そうって……うっ……うぅ……」

目尻を抑えれば抑えるほど、受け止めきれなくなった涙が溢れてきた。


「岬……」

彼女の跳ねた金髪を優しく撫でる。


言葉を交わさない代わりに、彼女が泣き止むまでそばにいた。


「申し訳ないっす、引き止めてしまって」


「いいんだよ。可愛い後輩のためだ。

いつまでも、そばにいてやるよ」


「ふ、そういう台詞が、女を泣かせるんすよ」


「そしたら、泣き止むまでここにいるから」


「はは、なら毎日泣くっすね!」


最後に彼女の頭を軽く撫で、俺は運転席に乗り込んだ。


バックミラー越しの岬が小さくなる。

彼女は見えなくなるまで、こちらを見ていた。


§


茜ちゃんと、舞ちゃんには結局会えなかったな。


車を走らせながら、後ろ髪を引っ張られる思いに駆られる。


「ここで、戻るってのもな……締まらないしなあ」


「何が……しまらないの?」


「ああ……かっこよく別れたのに、また戻るってのもかっこ悪いじゃん?」


……って、あれ?

俺、今誰と喋ったんだ?


バックミラー越しに後部座席を見ると――そこには、茜ちゃんがちょこんと座っていた。


「う、うわぁ!?」


突然の出来事に、ハンドル操作を誤りそうになる。


俺は、慌てて脇道に車を停めた。


「茜ちゃん……いつの間に、乗っていたんだ?」


「泉が……岬を泣かしていたとき!」


「いや、泣かしてないってば……」

この子は、音もなく車に乗り込んで……俺よりフロッグ使いに向いているんじゃないか?


「どうしたんだ?」


「泉は……強引に押せって……結花さんが……」


「あの人は……まったく……」


変なことばかり吹き込んで……。


「それで……家まで……送ればいいのか?」


「……帰りたくないなー」


茜ちゃんらしからぬ言葉が、後部座席から飛んでくる。犯人は、結花さんだな。


「わかったよ……最後だし、バーガーメテオに行くか?」


「うん♪」


§


バーガーメテオに着くと、二人でトリプルメテオバーガーを注文する。


「ここに来るのも久しぶりだな」


「うわぁ……美味しそう!」

茜ちゃんは左右に体を揺らしている。


彼女は小さな口をめいいっぱい開けて、

巨大なバーガーに噛み付く。


茜ちゃんは一口食べるごとに、口元を俺に向けてくる。


「拭けってことか?」


……ったく、不思議と嫌な気持ちはしなかった。


食べ終わって車に戻る頃には、すっかり日が落ちていた。

――冬の寒さが肌に染みる。


「……帰りたくない……」


助手席に座る茜ちゃんは、うつむいたまま、声を漏らす。


俺だって、茜ちゃんと一緒にいたい。

できれば、ずっとそばにいたい。


でも……それじゃあ駄目なんだ。


「泉……五十嵐いがらしが……私をよろしく頼むって言ってた……」


うっ……ここで、五十嵐さんの話はズルい。

でも、茜ちゃんはそこまでして、俺と離れたくないってことか。


「茜ちゃん……落ち着いたら必ず遊びに来るから……」


「うん……」


茜ちゃんは短く返す。


彼女は震える手でスカートの裾を握りしめていた。


「俺が一人で立てるようになったら……一人前の男になったら……必ず遊びに行くから!」


茜ちゃんの手に俺の手を重ねる。


「うん……期待しないで……待ってる」


§


――一年はあっという間だ。

まだ、肌寒い三月……ようやく、俺の事務所が完成した。


同業を立ち上げるってのに……浅場さんには創業時、お世話になった。


VTuber活動で稼いだ資金を元手に、事務所を設立した。


俺はVTuberという仮面に助けられた。

だから、今度は俺が誰かを助ける番だ。


俺と同じように仮面を求める者――

成功を求める者――

承認欲求を満たしたい者――

理由は何だっていい。


誰かの成功への一助となれば、それで満足だ。

二名のライバーを抱え、少しずつスタートを切る。


俺は、かつてのボロアパートでまた暮らしていた。

動画サイトで自分のライバーの活動動画をスクロールしていると、懐かしい文字が並んでいた。


“伝説のVTuber――霧雨レイ”


俺のNF(ネオンフラグ)の試合が切り抜きにまとめられていた。


300万再生って……動画回りすぎだろ……


そうだ――誰かが覚えている限り、霧雨レイも人々の中で生き続けるかもしれない。


慌ただしくて忘れていたが、みんなと過ごした日々がハイライトのように、頭に流れる。


……ふと、彼女の顔が頭に浮かんだ。

気づけば電話帳をスクロールして、着信ボタンを押していた。

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